私の名前。
なんとか着慣れない服に着替えた私はリクさんとカイさんの座っているソファーの向かいに座っています。
このソファー、大きすぎて落ち着きません。
だってほら、足がぷらぷらと揺れちゃうんですよ。
それにしてもこの服、思っていたより大きくて私が着るとだぼだぼでした・・・。
どうやら小型の獣人さんの子供用の服らしいのですが、それより小さなサイズはなかなかないらしいです。
リクさんは私に服を着せながら『採寸して専用の服を用意しなればな。』なんて言っていましたが、私は竜族さんの他に獣人さんもいるという方が気になりました。
まだまだこの世界は知らないことばかりで、覚えなくてはいけないことが山ほどありそうですね。
「ルナーは食事はどんなものを食べるんだ?」
「ふぇ?」
突然リクさんに質問されたことに驚いた私は、奇妙な声が出てしまいました。
どんなものって・・・この世界の食べ物は、私の生きていたあの世界と共通なのでしょうか?
「あ、えっと。きになったです。」
「うん?何をです?」
返事になっていない言葉にカイさんは首を傾げて聞いてくれます。
ごはんのお話でしたが、それより何より私は気になっていました。
そう、『ルナー』という呼び名のことです。
「るなー、わたしの、なまえちがうです。」
「ああ、そういえば・・・そうだな。ルナーはお前のその存在自身の名だ。」
「意思疎通の出来る『ルナー』が生まれたのは、もうかれこれ数百年も前のことですから、それから今までのルナーは私たちのような守人が名づけ親になっていましたね。」
ああ・・・なるほどですね。
一言で『ルナー』といっても、私のような言葉を持つ生き物だけではなかったようです。
「ルナー。あなたは生まれたてです。名前はもう決まっているのですか?確かに大昔の歴史の書には、名を持って生まれてくるルナーもいたとは記されているのですが・・・。」
「わたしの、なまえ、すずもとるう。」
「シュ?もう一度言ってくれるか?」
「長い名前で私もよく聞き取れませんでした。すみません。」
リクさんもカイさんも困惑しているみたいだけど、もしかしてこの世界には苗字はないのかもしれません。
「なまえ。るう。」
「るう?ああ、ルナーの名は『るう』というのか。」
「ふふ。るうですか。可愛らしいお名前ですね。」
ようやく私の名前を呼んでくれたことにほっとしました。
私が『ルナー』と呼ばれる神様の愛し子と呼ばれる存在なのは分かったけれど、こっちの世界の神様に私自身が出会った覚えもないわけです。
転生したという表現がきっと正しいのでしょうけど、そこのとこは小説みたいに神様が出てきて説明するなりチート能力をくれるなり、何かしらの説明が欲しかったです。
ある日突然、はい死にました、なんか生まれ変わったようですでは、さすがに私も混乱しますよ・・・。
しかもこの世界、人間が存在しないわけですから、一見人間に見えるリクさんやカイさんも竜族らしいですし、だっこしてもらった時の肌の感触は、間違いなく人間のものではありませんでした。
それに、私、小人にでもなってしまったような錯覚をしてしまうくらい、建物も人も家具も何もかもが大き過ぎます。
言語は日本語なのかと思いましたが、リクさんたちの口の動きと、出てきている言葉には差がありますから、きっと神様仕様の言語翻訳が働いているみたいですね。
私の口から出てくる言葉が舌ったらずな感じがするのも、きっとそのせいなのでしょう。
けして私が幼児になったわけではないと思いたいです・・・とほり。