こっそり実行。
るうです。
私は今、困り顔の人たちの前で頑張ってお願い中なのです。
私の目の前には3人のコックさん。
竜族のお料理担当のコックさんと、兎族のコックさん。魚族のコックさんが肩を並べて困惑した顔で顔を見合わせていました。
困らせていることは分かっているのです。
サディさんにもらったお菓子は嬉しかったけれど、1つ食べてみたらやっぱり予想通りお砂糖の塊でした。
でもお砂糖がある、兎族の人たちが食べているお料理にパンもあるなら小麦粉らしきものもあるだろうし、何のかは分からないけど卵も朝ごはんに出てきてたし、バターらしきものもあったし、バターが作れるということは牛乳……じゃないかもですが、何かの動物の乳はあるはずです。
果物だってりんご(でっかいですが)だってあるのです。
甘いものを作れる材料がここまで溢れているのに甘味がないなんて……と、嘆いたのは昨日のことでしたが、『ないなら作ればいいじゃない』と思い直したのは今朝でした。
ですがここは異世界。
私よりはるかに大きな人たちの住むこの世界は、家具も食器も何もかも大きいのです。
でも諦めきれずに朝ごはんの片付けをしているコックさんたちのところへ頑張って来ました。
ほんとに頑張りました……厨房まではとっても遠かったです。
おトイレに向かうと思ってもらえているうちにと、リクさんにも、カイさんにも、ナミさんにも何も告げずに辿り着けたのは奇跡です。私えらいです。
でもこっそり覗いた厨房は、やっぱり調理器具も大きくて、調理台も何もかもがビッグサイズだったのです。
「おお。ルナー様。何か御用ですか?」
こっそり覗いてたはずが、バレバレだったみたいで、竜族のコックさんに声をかけられてしまいました。
「いつも、おいち…お、おいしい、ごはん、ありがとう、ですっ。」
取りあえずいつもごはんを作ってくれているお礼を言ってぴょこんと頭を下げてみると、頭上から『ぐはっ』という声が聞こえましたが、礼儀大事。ほんとに大事。
頭を上げるとコックさんが鼻を押さえて上を向いていました。
こてりと首を傾げたら、首を振って『なんでもないですよ』と言われたので本題を切り出すことにします。
「わ、わたし。つくりたい、おりょり、おりょうり、あるです。」
そう言ってみたら近くにいた兎族と、魚族のコックさんも、竜族のコックさんと顔を見合わせて冒頭の雰囲気になってしまったわけです。
「えー…っと。ルナー様。食べたいものがおありでしたら、俺たちが作って差し上げますよ。」
「そうですよ。ルナー様が作るだなんて、危なっかしくて…じゃなかった。そんなことさせられません。」
今、間違いなく危なっかしいと言いましたよね……。
諦めきれずに見上げたら、3人のコックさんは『う…っ』と、後ずさりしたけれど、こそこそと話し始めました。
「お、おい。どうする?マジ俺、心臓がもたん。」
「幼いながらもルナー様も女の子なんだ。料理に興味持たれたのは嬉しいことだが…。俺たちの体に合わせた調理器具を扱わせるなんて拷問、俺にはさせる勇気がねぇ。」
「だけどさ。ルナー様の幸せを願う俺たちが断っちまっていいのか!?ファイナルアンサーっ!?」
混乱しすぎて取り乱し始めたコックたちの背中を見て、なんだか申し訳ない気持ちになってきました。
確かにあんなに大きな調理器具を私が使いこなせるとは正直思えません。
「ひあっ!?」
考え込んでいたら、急に浮遊感に襲われました。
私を軽々と抱き上げて眉間の皺を増やしていたのはリクさんでした。
いやああぁっ、こあいっ!