お土産の箱。
アルは大急ぎでるうの部屋に飛び込んだ後、カイに生暖かい視線を向けられましたが、るうに一直線に向かいました。
「はぁ、この部屋もずいぶんと可愛らしくなりましたねっと。消毒液消毒液・・・。るうは怪我をする天才ですね。あまり心配かけないでくださいね?よし、少し染みますが我慢してくださいね。」
「う・・・。ごめん、なさい。・・・っっ!ふぅ・・・。」
「ああ・・・。るうの可愛らしい眉間に皺が・・・。」
アルは手馴れた動きでるうが体を引くよりも先に消毒を開始しましたが、カイは自分が怪我をしたような顔で膝の上に座らせているるうを支えました。
ペタリとガーゼを張られて、よく頑張ったと頭を撫でられたるうは、ほっとした顔をします。
その顔に癒されながらにっこりと笑い返したアルは、その後、カイに向き直るとげんなりとした表情になりました。
「あー。そういえばカイくん。僕がここに来る途中、やっかいな男が見えた気がしたのですが、気のせいだと思っていいんですかね?」
「・・・はぁ。気のせいだと私も嬉しいのですが・・・。来てますよ。王都からやっかいな男が。」
アルはひくりと笑顔を引き攣らせていますが、アルもカイもサディは苦手なようです。
るうはるうで、なんとなくサディに怯えているようですが、その理由は当の本人にも分かりませんでした。
「さでぃ、さん。ある、さん。しってる、ですか?」
「あああ・・・。るうの可愛らしい口から、おぞましい男の名が・・・。るう。今すぐ忘れてしまいなさい。僕が許可します。」
「るう。もうサディの名前を覚えてしまったのですか・・・。アルの言う通りです。もう二度と会うこともないでしょうから、その名前は記憶の彼方に飛ばしてから抹消しておしまいなさい。」
るうからサディの名前が出た途端、アルとカイは真顔でるうに言いました。
ですが・・・。
「アルもカイも、久しぶりに会った旧友に随分な事言ってくれちゃうね。僕泣いちゃいそうだよ?」
「「サディっ!?」」
突然キラキラと輝く粒子がふわりと舞い、その中から白いローブをはためかせたサディが声を発すると、アルとカイは驚いた表情で立ち上がりましたが、るうは驚きすぎて固まっていました。
そのすぐ後、バタバタと廊下を走ってくる足音が聞こえたかと思うと、バタンと勢いよく扉が開いてリクが飛び込んできます。
「サディは来てるかっ!?あいつ話の途中でいきなり転移魔法使いやがったっ!るうっ。無事かっ!?」
「はぁ。リクくん1人では、やはり止められませんでしたか・・・。彼は魔法のスペシャリストですからね・・・。」
「やっほ。リク。遅かったね♪お先にお邪魔してるよ。うわっ。何このミニマムサイズの家具っ。かっわいいー♪」
「やっほっ。ではありません・・・。はぁ。」
小さな家具に(るうから見たら少しだけ大きいサイズ)囲まれた部屋に(るうから見たら)大男が4人という人口密度が増えた部屋で、るうは困惑していました。
サディはるうに視線を向けると、にんまりと笑顔を向け、その笑顔にるうはびくりと震えます。
すると、カイにお膝だっこされているるうの膝の上に、突如ぽむっという軽い音と共にお花の形の可愛らしい箱が出現しました。
「おはな・・・。」
「ふふ♪あけてごらん。」
サディが楽しそうにそう言うものですから、そろりと箱に手を伸ばそうとしたるうでしたが、その手はカイに握られ制止されてしまいます。
「るう。むやみに人を信用してはいけませんよ。・・・箱から魔力は感じませんね。」
「もう。カイってば。ただのプレゼントだよ。亜空間にしまっていただぁけっ。王都のお土産ね。渡しそびれてたんだよ。」
サディは心外だという表情になりましたが、るうは制止されていた手を解いてもらったことで、OKと判断されたことを知ると、可愛らしい箱の蓋を持ち上げてみました。