笑顔が怖い人。
ぽかぽか。
ぬくぬく。
るうは柔らかな陽射しの中、メイド長と2人で美味しいランチタイムの真っ只中です。
「おいち・・・い?です。」
「るう様。お・い・し・い・ですよ。」
「おいし、い。です。」
「はい。それはようございました。」
この世界の言葉は、やはりるうにはまだ難しいようで、補正が効いているといっても多少の誤差は出ているようです。
にこにこしながらるうはサンドイッチをもきゅもきゅと食べます。
今日のランチであるサンドイッチのパンは、るうが気に入ったとお願いして騎士団から届けてもらったものでした。
リクとカイはお仕事だろうかと、るうはくるりと庭に面しているガラス張りの部屋を見渡すと、応接室だと教えてもらっていた部屋のところに4人の影を見つけました。
ナミは奥でお茶の用意をしているようですが、手前のガラスに近い場所に立っているのはリクとカイです。
ですが2人の間に立っている薄い金色の刺繍が入っている白いローブを着た見知らぬ男の人に、るうはこてりと首を傾げました。
リクとカイは、るうが自分たちに気づいたことに困った顔をしたような気がして、るうはとても気になります。
とてとてと、リクたちのいるガラスに近づいてみたるうですが、見上げたるうの視線と漆黒の瞳がかちりとあうと、るうはびくりと肩を揺らしました。
「っ!・・・きゃうっ。」
慌ててメイド長のところにトテトテと走って逃げようとしたるうは、足を縺れさせてぺちゃりとこけてしまいます。
るうが転んだことに慌てたリクとカイは、慌てて飛び出してきました。
「「るうっ。」」
「・・・ぅ~・・・。」
リクに抱え上げられたるうは、打ったおでこの痛みに耐えている真っ只中で、きゅっと目を閉じてぴるぴると震えています。
「大丈夫ですかっ!?ここが痛いんですか?!ああ・・・擦りむいて血が・・・。ナミっ。アルをすぐに呼んできてください!」
「え、ええっ。るう様!もう暫く我慢してくださいましっ。」
ナミは慌ててどこから走っていってしまいましたが、るうは痛みの中、そこまでしなくてもいいのにと思いました。
「う・・・。りく、さん。かい、さん。」
「なんだ?痛むのか?・・・くそっ。アルはまだかっ。」
「あと5分で到着しなければ医師免許を取り上げてやらねばなりませんね。」
ナミがアルを呼びに走って1分も経たないというのに、理不尽な言葉を言う2人に、一連の流れをぽかんと口を開けて見守っていた魔法長は呆れてしまいました。
「・・・で?その子がルナー様なの?」
「「あ・・・。」」
しまったという顔をしたリクとカイは、涙目で『?』を浮かべるるうを見て、やってしまったと後悔してしまいました。
そんな2人の反応に、このリクに抱かれている小さな幼子がルナー様であると確信した魔法長は、にこりと艶っぽい笑みを浮かべて視線を合わせます。
「初めまして。ルナー様。僕はサディ。猫族の長の息子で王都の王立魔法省の魔導師長をしてるんだ。よろしくね?」
「まほー?ねこ、さん?」
涙目のまま、きょとんとサディを見上げたるうは、サディの笑顔を見て、びくりと震えた後、サディと距離を取ろうとぐいぐいとリクの方へと身を寄せました。
そんなことも気にしないで近づいてくるサディに、るうはリクよりもサディに遠いカイに手を伸ばしてカイの服をきゅうっと掴みます。
カイは破顔して笑顔になると、るうをリクの腕からひょいと抱き上げてサディとサディの近くに立っていたリクからも距離を取ったのでした。