王都からの来訪者。
るうがルナーとして生まれてから1週間ほど経ったころ、るうの住んでいる屋敷に来訪者が来ていました。
ですが、その来訪者は守人であり、るうを目に入れても痛くない程に可愛がっているリクやカイにとっては嬉しくない相手なのです。
「やあ。元気にしてた?ところでルナー様はどこにいるの?」
「・・・はぁ。今すぐ王都に帰れ。」
「リク。本音が出ていますよ。これはこれはお忙しい立場の城使えの魔法長様がよく時間を取ってこられましたね。」
リクはストレートに、魔法長と言われたその男に帰れと言いましたが、気のせいかカイの丁寧な対応の方が色々と棘を含んでいる気がします。
「あはは。2人とも相変わらずだね~。ところでルナー様はどこにいるの?」
「大事なことだ。もう一度言おう。王都に帰れ。」
「ですからリク。本音が駄々漏れです。魔法長である貴方がここにくる時間の余裕はないと思っていたのですが、どんな素晴らしい手を使ったのでしょうね。あ、ナミ。魔法長様がお帰りです。丁重にお見送りして差し上げてください。」
この魔法長と呼ばれている男は、カイやリクと幼馴染であり、長く黒い尻尾と黒い三角の耳を持つ猫族の長の息子で、さらりとした長めのショートヘアの黒髪と漆黒の瞳の見目麗しい男です。
王都のお城で若くして魔法省の長をしているだけあって、膨大な魔力と、それを扱えるだけの魔法センスがあり、この世界で1、2を争うほどの魔法使いなのでした。
ですが、その見た目を他人からどう見えているのか、全て分かった上で女を虜にし、『世界中の女の子は僕に愛されるために生まれてきた花なんだね』と本気で思っている男なのです。
るうを可愛がっている2人にとっては、絶対に会わせる前に回避したい相手なのでした。
「心配してくれてありがとう。だけど大丈夫だよ。今まで働きづめだったから、部下たちも休め休めって煩かったし、1週間はこっちにいられることになったんだ。ところでルナー様はどこにいるの?(三回目)」
ふふっと、綺麗に笑ってそう言った魔法長にリクとカイは顔を見合わせて、ため息をつきました。
中庭に接している部分がガラス張りの大きな応接室でリクとカイは、どうすればるうと会わせずにこの男を王都へ帰せるか悩んでいると、普段なら微笑ましく思える、今は嬉しくない日課が訪れてしまいました。
「わぁ。いいおてんき。きょう、ここがいい、です。」
幼い女の子の嬉しそうな鈴のような声が聞こえてしまったのです。
その声の方へ視線を向けると、ピンクの可愛らしいドレスを着た幼子が中庭にいて、その後ろからピクニックバッグを持ったメイド長がニコニコしながら歩いてきたところでした。
嬉しそうに芝生に転がったるうを見て慌てて抱き上げたメイド長は、片手で器用に大きな布を芝生に敷くと、その上にるうを座らせました。
そしてピクニックバッグから小さなパン(るうにとっては大きい騎士団から取り寄せたもの)を取り出すと薄く切り、お肉などを挟んでるうに渡します。
るうは嬉しそうに小さな両手で受け取ると、その場でもきゅもきゅと食べだしたのでした。
その間にもメイド長は、甲斐甲斐しくお茶を用意したり、果物を小さくカットしてるうの前に置いたりします。
その光景を見たリクとカイは、和んでいた自分にはっとして魔法長に視線を向けたのですが、時既に遅しです。
「・・・か、可愛いっ。」
そこには、キラキラと輝く瞳でるうを見つめる魔法長がいたのでした。