子供の呪文。
私が大きな赤髪のお兄さんにだっこされて連れてこられたのは、大きくて立派なお城のような建物で、ぐるぐる巻きにされた状態でソファーの上に座っています。
ここに来るまでに分かったこと。
あの赤い髪のお兄さんは、火竜族という種族の人で、リクさんっていうお名前だそうです。
人間という種族はこの世界にはいないということにも驚きました。
それから、私がいたのが地下神殿っていう場所だったことと、私は光の卵から生まれた神様に愛されて生まれてきた存在だということでした。
ルナーっていうのは、神様の娘っていう意味なんだって。
それから、お月様とお日様とは別に、別の球体が1つ浮かんでいました。
なんだか不思議な色合いをしたその球体のことを聞くと、あれは『ポル』っていう、日本でいう季節を表すものらしいです。
ずーっと浮かんだまま、お日様の横にもお月様の横にも浮かび続けているみたいで、春には緑色、夏には赤色、秋には黄色、冬には青色に変わるんだとか、便利ですね。
今はちょうど日本でいうところの梅雨の時期らしくて、夏前にあたるので、赤よりもっと薄いピンクに、下の方が少し黄緑がかった不思議な色になっています。
面白いですね。
この時点でもう、ここは地球ではないということが分かったのですが、どうしてでしょうね。
ストンと胸に落ちたというか、納得したというか、受け入れられたんですよ。
でも心残りはあります。
私が大きくなれないと悩んでいたら、じゃあいつまでもお嫁に出さなくてすむなぁと笑っていた娘には甘い大好きなパパと、そこがあなたの長所でもあるのよってカラカラと笑って悲しいのを吹き飛ばしてくれた明るくて大好きなママ。
そんな両親にもう会えないということが気がかりで、心残りです。
「待たせたな。寒かっただろう?」
物思いにふけっていたら、あの赤髪のお兄さん、リクさんが目の前に立っていて、ビクってなりましたよ。
リクさんの隣りには、涼しげな夏の青空のようなサラサラの青髪のお兄さんがこちらをじっと見ていました。
え・・・なにこれ。
この人もでっかいです。
怖くなった私はソファーを飛び降りて、大きなリクさんのマントを落とさないように気をつけつつも、リクさんの後ろに隠れてしまいました。
「どうだ。今回のルナーは特別可愛いだろう?」
「リク。言いたいことは分かったけど、君が威張ってどうするんですか。」
リクさんの過保護な言葉に、青髪のお兄さんは苦笑いをして隠れている私をリクさんの横から覗き込んで『ねぇ?』と同意を求めてきました。
「り、りくさん。そのひとは・・・?」
「ん?ああ。こいつはカイ。俺と同じ竜騎士で、水竜族。カイも俺と共に神殿の守人をしていて、ルナーが孵化するのを待っていたんだ。」
「リクほど毎日は神殿に通っていなかったので、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありませんでした。よろしくお願いしますね。」
にっこりと笑いかけてくれたカイさんは、私がコクコクと頷くのを確認してうんうんと頷いてくれました。
「服を用意してきた。寒いのだろう?これを着るといい。」
「あ、ありがとう、ございます。」
慌ててぺこんと頭を下げて服を受け取ると、その服を広げてみましたが、んんん?これ、どうやって着るのかな・・・?
見た目は白いサラサラの生地に金色の刺繍が少しだけ入っていて、あぁ、あれです。
某ディ○ニーのアラビアのお姫様が着ていたような感じの服に、少しだけレースのひらひらがついていて、子供らしい感じです。
じっと服を見ていた私を着方が分からないのかと察したリクさんは仕方ないなという顔で着替えを手伝うと言われてしまいました。
結局分からないものは仕方なくて、またまた羞恥に耐えながら、例の呪文を唱える羽目になったのでした。
私は子供、私は子供・・・とほり。