美味しい物ありました。
結局隣りに座っていたアルの膝の上に落ち着いたるうは、今度は『あーん』という羞恥に耐えることになりました。
リクが紅茶用のティースプーンとデザートフォークを取ってきてくれたにも関わらず、それでも大きいスプーンやフォークはるうの口には入りませんでした。
ということで、スプーンを使ってもあぐあぐと端っこに口を寄せるしかできないるうは、1人で食べるという選択肢は残っていません。
そのかわり、必死に綺麗に食べようとしていても、本当に赤ちゃんのように、差し出されたごはんをぽろぽろととこぼしてしまいました。
そうなると、食べ損ねたごはんはアルの膝の上に零れ落ちるわけで、アルはニコニコとるうの食事の世話をしてやりながら、自然に零れ落ちたごはんを拾っては、空いたお皿へと入れています。
「るう。どうだ?うまいと感じるものはあるか?」
「ああ、そうでしたね。るう。気に入るものがあれば、教えていただけると助かります。」
「こらこら。リクくん。カイくん。るうはまだ食べ始めたばかりではないですか。急かしてはいけませんよ。」
3人とも気を使ってくれている状況なのに、あわあわしてばかりの自分が情けなくなってしまったるうは、とにかく好きな味を見つけないとと集中したのでした。
るうが選んだのは、兎族が好んで食べるという野菜のスープと、鳥族のブースから選んだ木の実のパンのようなものと、魚族のブースで気になっていた煮魚のようなものです。
他にも気になる料理があったものの、少量ずつと言いつつ、リクたちからしたら少量なのだろう量は、るうにとっても食べきれないと思う量でしたから、今回はこの3品以上は難しいとるうは判断しました。
野菜のスープは、薄塩味ではあったものの、玉ねぎのようなものや、ジャガイモっぽいもの、にんじんぽいものなどが柔らかく煮込まれていて、素朴な甘味があるるう好みの味でほっとします。
木の実のパンは、クルミのような木の実が練りこまれていて、パンはふあふあ、木の実はサクサクでとても美味しいと思いました。
そして魚族の煮魚らしきものをアルに口に運んでもらったのですが、見た目は薄茶色でるうのイメージしている酒、醤油、みりん、生姜で煮込んだような色をしているにも関わらず、その期待は裏切られ、酸味の強い魚にるうは眉を下げたのでした。
「無理して食う必要はない。気に入ったものだけ食えばいいんだ。」
「泣きそうな顔をしているということは・・・魚族のこの料理はるうの口には合わなかったようですね。」
リクとカイは、魚族の魚煮込みだけは今後るうには食べさせないと誓うと同時に、兎族と鳥族の味覚は近いものがあるのではないかと想像して、収穫ありとほっとしたのでした。
結局全て少しずつ口に入れたるうは、ぽんぽこりんだとお腹を押さえて主張したため、残りはリクのお腹に収まります。
「よし、少し時間もあるし、るう、行きたいところはあるか?」
「いきたい、とこ?ですか?」
「ああ。そうですね。僕は医務室を空けてきてしまっているので戻りますが、るうはいろいろ見て回るといいですよ。ただし、必ず誰かを就けてください。決して1人で行動はしないように。いいですね?」
るうがコクコクと頷くと、アルは向かの席にいるリクにるうを抱き渡して、るうのこぼしてしまった膝の上に落ちた欠片をつまんでお皿にいれ、るうの頭をぽんぽんと弾むように優しく撫でて行ってしまいました。
申し訳ない気持ちでリクにだっこされながらアルの後姿を見送っているるうに、カイは隣りから優しく声をかけます。
「るーう?るうの行きたいところに、好きなところに行きましょう。ね?」
「うー・・・。」
なんとも情けない気持ちで頷いたるうを確認したリクとカイは、ふっと笑って席を立ちますが、周りの騎士たちは、やはりそんな慈愛に満ちた優しい笑顔で幼子を愛でる2人に卒倒しそうになります。
そんなことお構いなしのリクとカイは、るうを連れて食堂から出て行こうとしたのですが、るうがもう一度カウンターのコックたちのいるブースに行きたがったため、そちらに足を向けました。
そして、可愛らしい鈴を転がしたような声で『ごちそ、さま、でした』と真っ赤な顔で伝えたるうに、コックたちも格好を崩して喜んだとか・・・。