騎士団の3大魔人。
食堂までリクにだっこされてやってきたるうは、食堂中の騎士たちの注目の的になっていました。
そして『ルナー様捜索』の未発事件のこともあり、幼子に見えてしまうるうは、誰から見ても『ルナー様』だと認識されていたのです。
「お、おい。あの方がルナー様だよな?」
「ちんまいし、あんなにか弱そうな幼子がルナー様なのか。」
「おお・・・。可愛らしいなぁ。」
ところどころから聞こえてくる声に、るうは恥ずかしくてリクの胸におでこをグイグイと押し付けて顔を隠しますが、その可愛らしい行為に騎士たちは悶えそうになりました。
そんなるうの姿にリクは口元が緩むのを絶えながらもカウンターまで進むと、中にいるコックたちに声をかけます。
厨房には兎の耳の生えた兎族、狼の耳が生えた狼族、見た目は人間と変わらない竜族、背中に翼を持つ鳥族、他にも猫っぽい耳を持つ種族や、手の甲などに鱗がある恐らく魚族、角が生えている種族など、いろんなコックがいました。
るうはそこにいるいろんな種族の人たちを見て、やっぱり人間はいないんだろうなと理解してしまいますが、それよりも先にカウンターに所狭しと並ぶ料理に釘付けになりました。
各種族ごとにブースが分かれているようで、その前にカウンターには種族ごとに好む料理が並んでいます。
竜族のブースには、やっぱりお肉が主食のようで、いろんなお肉が並んでいますがシンプルに見えるのは、味があっても塩味なせいでしょう。
兎族のブースは野菜が主食のようで、サラダや野菜の煮込んだスープのようなものや、焼いたものなどがありました。
狼族のブースはやっぱり竜族と似た感じのものが並んでいて、鳥族のブースには魚料理、肉料理、果物のようなものまであります。
どこの種族の料理も珍しい見た目の物が多くて、るうは『どれが食べたいか』と聞かれても混乱してしまいました。
「うー・・・。どれも、おおくて・・・。」
「だったら皿に少しずつ入れてもらうか?」
「それがいいでしょうね。食べたいものを少しずつ試してみてはいかがです?」
リクとカイが言った言葉に、るうは素直に頷いて甘えさせてもらうことにしました。
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るうがいくつかの料理を選んで席についたまではいいのですが・・・。
ざわざわと食堂がざわめいているのを感じながら、るうはまたもや自分の小さな体を恨めしく思っていました。
「・・・私からは、るうの可愛らしいおでこしか見えないのですが。この問題を忘れていましたね・・・。」
「ああ、そうだな。これは屋敷のるうが過ごす場所だけでも急ぎで改装させよう。」
カイとリクの言葉に打ちのめされながらも、机の下から見える景色にるうはため息をつくしかありません。
るうが椅子の上に降ろしてもらい、座ったまではよかったのですが、テーブルが高すぎてるうの選んだ料理はおろか、向かいの席にいるリクとカイの姿さえ見えず、目に映るのはテーブルの下の二人の腰から下の様子だけだったのです。
「ふふ。あなたという人は本当に・・・。仕方ない子ですね。」
「みゃっ!?」
アルはるうが眉を下げているのを見て、微笑ましそうにしていましたが、あまりにもるうがしゅんとしてしまったためにるうを抱き上げて膝の上に乗せました。
一気にテーブルの上の料理と、リクとカイの顔が見えたるうは、びっくりして腰に回されていたアルの腕にしがみつきます。
そして安定しているのを確認すると、ほっとした後アルを見上げました。
「はい。ぼくが支えていてあげますから、ちゃんと食事はとってくださいね。」
「ある、さん。で、でも。あのっ。」
「るう。アルが嫌なら私の膝にしますか?」
「いや、1番初めに顔を合わせた俺の膝の方が落ち着いて食えるだろう。おいで。」
どうやらるうには、1人で食事をするという選択肢は残されていなかったようです。
ある意味、周りで様子を窺っていた騎士たちにとっても、それはそれは恐ろしい光景でした。
ルナーであるるうが生まれるまでは、訓練の鬼として恐れられていた鬼神のようなリク。
冷ややかな氷のような微笑みを浮かべながらも、この人には良心がないのかと思うくらいのハードスケジュールを組み、どんなに強靭な精神の持ち主でさえ廃人にしてしまうカイ。
そして怒らせれば治療を行われる際、有り得ないほどの苦痛を与えてくる医務室の悪魔と密かに噂されるアル。
その恐れられている騎士団の3大魔人がるうという幼子を我先にと取り合う姿など、悪夢でしかないのでした。