大食堂。
るうは医務室のベッドに腰掛けていますが、もうそこにジルの姿はありませんでした。
騎士団前に『ルナー様捜索隊』が『小さな幼子』のるうを探し出そうと集まっているところに、見つかったという知らせをしてこいと、カイとリクがパシ・・・いえ、連絡してほしいと、やさしーく頼み、ジルは血相を変えて狼の姿のまま猛ダッシュして行ったからです。
隊長なのに、この人たちの上下関係を垣間見た気がして、るうは視線をそらしたのでした。
るうが1人で屋敷を出てしまった理由を聞いたカイは眉を下げて、るうに視線の高さを合わせるように片膝をつくと、きゅっとるうの手を握ります。
「るう1人で行くには遠すぎる距離だと言ったでしょう?こんな・・・足に怪我までして・・・。お願いですから、もう心配させないでください。」
「そうだぞ。行きたい場所があるならちゃんと伝える。いいな?朝でも夜中でも、気にせずにだ。」
「ご、ごめん、なさい。」
「まあまあ。るうも反省してるんですから、もういいじゃないですか。ね?」
アルがるうにウィンクすると、るうはコクコクと必死に頷きましたが、いつぞやのナミが言った言葉が脳内に再生されてしまったリクは、慌ててるうの頭に手を置いて止めました。
ぽろり・・・しませんってば。
きゅう~・・・。
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「あう・・・。」
突然るうのおなかの虫が鳴ったことに、全員が沈黙する中、るうは恥ずかしくて真っ赤になってしまい俯きました。
「そういえば、朝食がまだでしたね。」
「ああ。るうも昨日の夕食から何も食べていないのなら、腹が減っただろう。」
「あ。それなら・・・。」
カイとリクが朝食について話していると、アルが思いついたように手をぽんとうちます。
そしてニコニコとしながら人差し指を立てると、いいことを思いついたんだと提案しました。
「せっかくですし、ぼくと朝食を食べませんか?ね?リクくん。カイくん。2人も言ってたでしょう?るうの好みを探したいと。」
「ええ。言いましたね。・・・ああ。そういうことですか。なるほど。」
「何がなるほどなんだ?」
カイがサラリと青い髪を揺らしながら頷いていると、リクは教えろとせっついてきました。
「ほら、ここは騎士団でしょう?それて私たちがこの騎士団で食事をとるとするなら、どこに行きますか?」
「そりゃ騎士団内で飯食うなら食堂しかないだろう。」
きょとんとしているるうの前でニコニコとカイとアルは、『ご名答ー♪』とぱちぱち手を叩いていてとても楽しげです。
「騎士団にいる騎士たちは、私たち竜族や、アルたち兎族、ジルのような狼族、他にもいろんな種族がいますから、当然食堂には種族の違うコックたちがいますよね。るうの気に入るものを探すには適していると思いませんか?」
「ああ・・・なるほど。そういうことか。確かに・・・。」
「あ、あの・・・。」
リクが納得したところに、遠慮がちにるうが声をかけると『どうした?』という表情でそれぞれがるうの顔を見ました。
「えと・・・。なみさん。しんぱい、してる、です。か、かえらないと・・・。」
「ああ。それなら大丈夫ですよ。使いの者を出しましょう。ですが、屋敷に帰ったらナミにありがとうしてくださいね?」
穏やかな口調でカイが話すと、るうはコクコクと頷いてふにゃりと笑い、その表情にその場は和んだのでした。
そしてやはり、るうの小さな体では歩いていくのは大変だとリクが子供抱きをして4人は食堂に向かいました。
リクの腕にだっこされながらも、るうは周りをキョロキョロと見渡して、物珍しそうな顔をしますが、時々すれ違う隊服に身を包んだ騎士たちは、驚いたようにリクたちご一行様を見つめることになり、るうは少しだけ居心地の悪い思いをしました。
食堂らしき扉をくぐり中に入ると、いろんな食べ物の匂いがして、るうはまた顔を上げます。
男の人たちだらけの職場の食堂だから少し覚悟をしてきたるうだったのですが、中はとても綺麗な学食のようだと感じて、少しほっとしたのもつかの間、一斉に視線を注がれてしまったるうは、またもや縮こまってしまったのでした。