困惑の医務室。
騎士団の本部へ、ルナーの存在を明らかにするために訪れたリクとカイは、苦い気持ちでルナーのことを報告した後、この騎士団の専属医師であるアルにも伝えようと、医務室まで足を運んでいました。
扉を開けて中へ入ると、アルはいつも通り机の上にカルテを広げて机に向かっています。
医務室のベッドは5つあり、1番奥、アルのいる場所に近いベッドは使用中のようで、カーテンが引いてありました。
「アル。るうが居なくなった。今、上にも報告して捜索隊を出してもらうことになった。」
「今から私たちもるうの捜索に加わります。屋敷で待機している者たちがいるので、もし見つかった時は診察をお願いすることになります。それでは・・・。」
「お待ちなさい。」
リクとカイは、アルの背中に声をかけると、慌てて捜索隊に加わろうと踵を返そうとしたのですが、それは叶いませんでした。
アルは椅子を回してゆっくりと振り返ると、冷えた視線をリクとカイに向けます。
「るうはどうしていなくなったんです?」
「朝には居なくなっていた。」
「それはどうしてです?」
「分からない。カイにも結界を張ってもらっていたんだが・・・。」
「問題はそこではないでしょう?」
カイとリクをゆっくりと見据えたアルは、目を細めてため息をつきました。
そして足を組みなおしてクルクルとペンを回した後言います。
「リクくん。カイくん。あなたたちは、ルナーという存在がただのお飾りだとお思いですか?お人形か何かだとでも?意思疎通の出来る生きる者、確かに大切にしなければならない尊い存在には変わりありませんが、僕たちと何一つ変わらない意思ある生き物です。間違えないでください。」
「分かっている。だがるうは特別なんだ。ルナーというだけではなく。守りたいと思う。」
「ええ。私も同じです。あの可愛らしい笑顔を守りたい。お人形だなんて・・・まさか。思えるわけがないでしょう?」
アルは2人の言葉を聞いて幾分が表情を和らげると、分かっているのならいいと頷き、にっこりと笑うとカイとリクの肩をぽんぽんと叩きました。
「それにしても、るうは、今回のルナーは本当に可愛らしいですねぇ。あんな小さな幼子なんですから。」
「・・・なっっ!?」
少し音量を上げてアルが言葉を出した瞬間、閉まっているカーテンの向こうから、動揺した声が聞こえてきました。
アルは顔を見合わせるカイとリクを無視して『そういうことです』と言葉をかけて、カーテンを開けました。
「「っっ!!??」」
そこには、大きな狼が横たわっていて、そのお腹で気持ちよさそうに眠っているるうがいました。
カイとリクは本当に驚いたようで目を見開いて固まってしまいましたが、それはカーテンの反対側でるうがルナーだという事情を知ってしまったジルも同じだったようです。
「このおちびさんが・・・ルナー様・・・?この嬢ちゃんが・・・?ってか、リク副団長?!カイ隊長っ!?」
そう、ジルは2番隊の隊長ですが、カイは1番隊の隊長をしており、リクはこの騎士団の副団長だったのです。
ですが、2人は竜騎士という立場と神殿の守人という任があるので、そちらを優先していたのでした。
困惑した声で動揺を隠し切れないジルが身動ぎしたことで、浅い眠りに入っていたるうは目を覚ましました。
本日、何度目かのおはよう状態のるうは、ジルの暖かい毛皮の中で寝返りをうつと目を開けて、未だに無言で固まっているカイとリク、その横でカーテンを持ったまま笑顔で立っているアルを視界に入れるとぱちぱちと瞬きします。
「はえ・・・?かいさん、りくさん、あるさん・・・?おはよ、ございます。」
「ジル。お前・・・そこで何をしている・・・?」
「はぁ~。よかった・・・。るう。無事だったのですね。」
それぞれがいろんな気持ちでいる中、リクは地の這うような声で質問しますが、ジルは狼の姿なのに器用にタラタラと冷や汗をかいていました。
「じるさん、ふあふあで、ぽかぽか、でした。」
「そ、そうか。それはよかったな・・・?」
んーっと背伸びしたるうは、ふにゃりと華が咲いたように笑いましたが、ジルは生暖かい視線を受けて全身の毛が逆立つ思いをしたのでした。