騎士団隊長。
るうが勘違いされて連れて行かれた頃、やっとるうがいなくなっていることに気づいたのは、るうの寝室に結界を施していたカイと、るうを起こしにいく途中だというナミでした。
ナミは取り乱したように慌てていて、カイはおかしいと首を捻るばかりです。
「るう様に何かあったら・・・ああ・・・どうしましょうっ。」
「ナミ。落ち着け。カイ。るうに結界を施さなかったのか?」
「え、ええ。私が魔術を使ったのは、るうの部屋に侵入する者がいた場合すぐに気づける結界と、るうの身に危険が迫まった場合のみ発動するものと、るうがこの屋敷の敷地から離れた場合に気づけるようにしておいたのですが・・・。」
カイはため息をつきながらも、1度瞼を伏せると静かに話しだしました。
「るうの部屋に何者かが侵入した形跡はありませんでしたから、るう自ら部屋を出たのでしょう。私が気づいたのは、るうがこの敷地から出たということです。感知してすぐるうの部屋の様子を見に向かう途中でナミと会ったのです。そうですね?」
「え、ええ。それで、るう様は・・・るう様はどこに・・・。」
ナミは組んでいた両手をぎゅっと握り締めて不安そうに問いかけました。
「るうが危険に巻き込まれた可能性は限りなく低いですが、この敷地から外へ出たのは確実ですね。リク。どうしますか?騎士団で捜索依頼を出すにはルナーの存在を明らかにしなければなりませんが・・・。」
「・・・ああ。るうを早急に保護しなければならないからな。仕方ないだろう。カイと2人で騎士団に行って来る。ナミはるうが戻ってくるかもしれないから連絡を待っていてくれ。」
「ええ。分かったわ。るう様のこと、必ず見つけて・・・。」
リクとカイはゆっくりと頷くと、部屋から出て行きました。
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るうを抱き上げて運んだ男は、騎士団の前まで来ていました。
門の両サイドに立つ騎士服の男たちは、顔を見合わせて念のためというような態度で幼子を抱えている男に話しかけました。
「えっと・・・。隊長・・・。あの、その子供は・・・?」
「ああ。神殿の屋敷の見回りに行ってきたんだが、途中で夜着のまま木の根元で眠っていたんだ。親の加護下にあるはずの幼子のはずだが、周りに親の姿がなくてな。保護した方がいいと判断して連れて来た。」
隊長と呼ばれた男は、自分の腕の中ですやすやと気持ちよさそうに眠る幼子に視線を落とすと、門番に『ではな』と言って足を踏み出しました。
その足で医務室に向かった男は、静かに扉を開けると中にいた背中を向けて机に向かう男に声をかけます。
「すまないが、手当てを頼めるか?」
「?おやおや?ジルくんですか?あなたが怪我をするのは珍しいですねぇ。」
穏やかな口調で振り向いた白衣の男は、隊長のジルに気づいて振り向きました。
ジルは赤茶色の短髪の髪に、夜空のような落ち着いた紺色の瞳、そしてグレーの耳が生えている男でした。
白衣の男は振り向いた後、ジルの腕にだかれて眠っていた小さな女の子に視線を向けて、ルビー色の瞳を見開いてピシリと固まります。
「るうっっ!?」
「・・・知っている幼子なのか?」
そうです。
白衣の男は、兎族で医者のアルでした。
「し・・・知っているも何も・・・。えー・・あー・・・。そうでした。まだ公表されていませんでしたね。あーっと。僕の患者です。そんなことより、どうしてこの子がここにいるのです?夜着のままではないですか。」
ジルはアルに、ここにくるまでの経緯を話し、それを聞いたアルは眉間に皺を刻みました。
「へぇ・・・そうですか。1人で、庭園に?ふぅん。夜着のまま。怪我まで・・・そうですかぁ。」
「お、おま・・・。何を怒ってる・・・?」
ジルはアルの黒い笑顔に頬を引き攣らせながらもベッドにるうを寝かせようとしましたが、動揺していたのか少し揺らせてしまい、るうの瞼は細かく震えました。
アルはるうの横たわるベッドの脇に、初めて出会った時のように膝をついて覗き込みます。
そしてるうの小さな頭を優しく撫でた時、るうの瞳はうっすらと開きました。
「ん・・ぅ・・・。ある、さん?ふぇ・・?お、はなは・・・?」
「るう。目が覚めましたか?」
アルは、先ほどまでの黒いオーラをすっと引っ込めると、目を細めて優しく微笑んでるうの小さな頭を撫でましたが、ジルと呼ばれた男は普段からは有り得ないほど優しく微笑むアルに恐怖したのでした。




