ルナーの存在意義。
カイとるうは庭園という名のお花畑を満喫して帰ってくると、すぐに出来上がった洋服の試着が待っていました。
るうに用意された服は、どれもこれも白や薄いピンクや紫色で、レースやフリルなどが可愛らしく装飾されているものばかりです。
るうは内心で、またもやお約束となった『私は幼児、私は幼児』という悲しい呪文を唱えました。
着飾られたるうは、まるで王城にいる小さなお姫様のようで、リクとカイは嬉しそうに目を細め、ナミは手と手を組んでキラキラとした表情で感激しています。
「まあ、まあっっ!るう様。とても可愛らしいですっ。やっぱりるう様には白やピンクといった可憐なお色が似合いますわね。」
「あ・・・う。そう、ですか?」
るうが獣人の子供の服を着る時には、アラビアのお姫様の子供服バージョンだと感じていたので、新しい服もきっとそんな感じだろうと思っていたのですが、あれは獣人の人は毛皮があったりするから露出が高くなっているだけだそうです。
大人になると獣型と人型になれるらしいのですが、幼少期というのはその中間の人にも獣にもなりきれない姿をしているということでした。
るうが着ると、おへそが出たり、肩が出たり、ただでさえ無い胸がさらにぺったんこに見えたり、背中が風通しよかったりで、毛皮のないるうは寒くないだろうかととても心配されていました。
今るうの着ているものは、本当に絵本に出てくるお姫様が着ているようなドレスを子供版に改正したようなコルセットもなしの窮屈さを感じさせないものです。
「よごして、しまいそう・・・こわい、です。」
「そんなこと気にしなくていい。るうは気を遣いすぎる。汚したらまた仕立て直せばいいだろう?」
「そうですよ。るうはそんなこと気にせず、いつも通り過ごしてくださればいいんです。」
リクとカイの言葉に、るうは本当にこんなに甘やかされてしまって、いざ1人になってしまった時、何も出来ずに野垂れ死んでしまう光景がはっきりと浮かびました。
るうは、気になっていたことを思い切って聞いてみることにします。
「あの・・・。るなーは、どんなこと、したらいい、ですか?」
「俺たち、アリエスの民がルナーに求めることという意味だろうか?」
リクの言葉にるうはコクコクと頷いて、じっとリクを見上げて言葉を待ちましたが、あまりにもるうが真剣なので、リクはカイとナミに視線を向けて頷きました。
「るうがもう少し落ち着いたら、これからのことについて話そうと思っていたんだ。」
「ききたい、です。わたし、できること、ありますか?」
カイは後ろからるうをふわりと抱き上げると、ソファーに座らせてくれ、その隣りにリクが座り、カイは向かいのソファーに腰を下ろします。
「そうだな。大まかに説明すると、るうは幸せになってくれればいいんだ。」
「リク。それは大雑把というのです。その説明ではるうが余計に混乱してしまうでしょう?」
カイは苦笑いにながらもリクに注意すると、るうに視線を戻して説明してくれました。
「リクの言っていることは間違ってはいないのですよ?ルナーという存在と、このアリエスという世界は深い繋がりを持っています。ルナーが幸せを感じ、生を全うすること。それがこの世界の願いです。」
「せかいの、ねがい。ですか?」
「ああ。ルナーは神の愛する娘なんだ。ルナーが心に悲しみを抱けば天候が荒れ、怒りを持てば、雷となってアリエスに罰を与える。だがルナーが幸せを感じ、満たされ、命続く限り生きることで、土地は肥え、水は沸き、陽は降り注ぎ、この世界は潤う。」
るうは、それって自分の存在は、とんでもなく重大な責任が伴うのではないかという結果に辿り着いて、青ざめました。
「わ、わたしっ。ど、どうしよう、です。」
「落ち着いてください。るうが心穏やかに生きていてくださるだけでいいのです。私たち、いえ、この世界の人々も、そのためならば協力を惜しみません。難しく考えずとも、楽しい、幸せだと、るうが思えることをすればいいのですよ。」
カイとリクの言葉に、るうは頷くことが出来ずに、ただただ呆然と聞くしかありませんでした。