庭園という名の。
結局あの後、るうの食事は『ぽんぽこりん』まで食べて残りは下げてもらったのですが、手付かずの料理は、まかないで食べることにすると聞いてせっかくの料理が無駄にならないことを知ってほっとしたるうなのでした。
食後のお茶を大きなカップで苦戦しながらも飲んでほっこりできたるうは、庭園なら出ても構わないというカイの言葉に喜んで頷き、カイはふわりと微笑んで頷くと、るうを子供抱きにして立ち上がります。
「かい、さん。ひとりで、あるける、です。」
「ええ。るうは頑張り屋さんですからそう言うとは思っていましたが、扉ひとつ開けるのもるうの小さな体では大変でしょう?それにこの屋敷は私たちには苦になりませんが、るうにとっては庭園まで行くのも大変な距離だと思いますよ?」
そう言われてしまうと、るうはもう何も言えず、大人しくだっこされて移動するしかありません。
るうは思います。
この人たち、どこまで私を甘やかすのだろうと・・・。
「夕方には今朝採寸した洋服や寝るときの夜着は数着仕上がってきますから、体力は残しておいた方がいいですよ?」
「そんなに、はやくできる、ですか?」
「ええ。急ぎで発注したので取り合えずの数になりますが、出来上がってきます。職人たちも小さな可愛らしい洋服となれば力が入るものなのでしょうね。ふふ。」
確かに普段作ることのないような可愛らしいしサイズの洋服に職人たちはやる気を見せてはいたのですが、普通はそうそう早く仕上がるはずもなく、カイは今日中に数着、せめて普段の洋服数日分と、休む時の夜着くらいは作ってもらわないとと黒い笑顔の仮面を向けて職人たちは恐怖に頷くことになっていたなど、るうには悟ることは出来ませんでした。
庭園というのは名ばかりの、見たこともないほどの綺麗なお花畑に着いたのですが、るうはふにゃりとほっぺを染めて嬉しそうにカイとお花畑を交互に見ました。
カイはるうをお花畑の上に降ろそうとしたのですが、慌ててるうはカイの首にしがみついてきたので、カイはまた体勢を変えて立ち上がります。
「るう?どうしたのです?もしかして花は嫌いでしたか?」
「ち、ちがう、です。でも、おはな、ふんじゃう、から。かわいそう、です。」
ふるふると首を振って花がかわいそうだと言うるうに、カイはとうとう破顔して笑顔になりました。
「ふふ。まったくあなたは・・・。本当に優しくて、純粋で、どうしようもありませんね。」
「あう・・・?かいさん?」
るうはカイが本当に嬉しそうに、綺麗に笑ったので、こてりと首を傾げてカイのその綺麗な金色の瞳を見つめました。
カイはるうと目が合うと、今度は困ったように眉を下げて笑います。
「ふふ。あなたの前では私は嘘で塗り固めた仮面を纏うことも出来ないみたいですね。」
「う・・・?か、めん?ですか?」
「いいえ。こちらの話です。るうの前世で過ごした世界では、花はとても繊細なものだったのですね。ですが、アリエスの花はとても生命力が強くて、私たちが踏んだくらいでは駄目になったりしないのですよ。」
その言葉に驚いてるうは高い場所から下に咲き乱れる花たちをじっと見ました。
カイはるうに足元を見てみなさいと言うと、足元にあったピンク色の可愛らしい花を踏みつけてしまいます。
慌てたるうがへにゃりと眉を下げて悲しそうな顔になりましたが、もう一度見るように促されてカイの踏んでしまった花があったところを見ると、足を退けたその下では綺麗なままの可愛らしいピンク色の花が咲いていました。
「っ!よ、よかった、です。とっても、つよい、おはなです。」
「安心しましたか?私が踏んでも何ともないのですから、羽のように軽いるうが踏んだくらいでは何ともないのですよ。」
ほっとした顔でふわりと華が咲いたように笑ったるうに、カイも嬉しくなって、2人でお花畑に腰を下ろしたのでした。
(るうー?るーうー?カイもいないな。どこへ行ったんだ・・・。)
(あら。るう様とカイなら庭園に行かれたわよ。)
(アルのせいだっ。くそっ・・・覚えてろ。)
一面お花畑。
行きたいですねぇ。
女の子の憧れです(羨