問診しました。
アルはカルテを片手についていた膝に片手を当てると立ち上がり、ベッドサイドの椅子に座りなおすとニッコリとるうに微笑みました。
「さて、るう。先程、『こっちの世界の食事は量が多い』と言いましたね?ということは、るうはルナー様として生まれる前の記憶を持って生まれてきたということになります。ここまでは分かりますか?」
「うー・・?はい。こっちのせかい、ごはん、いっぱい、です。」
るうが小さくコクコクと頷くと、ナミとリクは静かにアルと話しているるうを見守ります。
「ですが、僕がさっき言ったように、少し、ほんの少しだけ、るうが摂取する食事は少ないように思いました。るうは朝起きてから眠るまで、何度食べる行為をしていましたか?」
「あさ・・・えと。おきたら、あさごはん、たべて。おひるごはん、たべて。おやつのじかん、ときどき、あって。よるごはん、たべます。」
ふむふむとペンを走らせるアルは、急に『ああ、なるほど』と呟いて、リクとナミに視線を向けました。
「・・・と、まあ。こういう理由があったようですね。今のるうのお話だと、十分栄養は取れます。そう考えると今朝の朝食の量も納得いきましたね?」
「・・・ああ。なるほど。そういうことだったんだな。」
「ふふ。るう様のお食事の相談をコック長としなければいけません。わたくし、先に退室させて頂きますね。」
アルとリクはなるほどと納得し、ナミはほっとした顔をした後、嬉しそうに部屋から出て行きましたが、るうには何が『なるほど』なのか、さっぱり分かりませんでした。
不思議そうに首をこてりと傾げているるうの頭を撫でながら、リクは苦笑いしながら言います。
「ああ、すまない。るう、俺たちのいるこの世界では、朝と夜しか食事しないんだ。その分、一度に摂取する量も自然と多くなっていたんだよ。」
「そうなんですよ。なので、るうが朝、昼、夜の食事に加えて、間食もと聞いて、僕たちもるうの食べる量が少ないのに納得したんです。蓄えるということをしなくていい分、摂取量も少なくていいということだったのですね。」
アルとリクはうんうんと納得して、るうが健康体であることにほっとしているようでした。
「みんな、おひる、たべない、ですか?りくさん、あるさん。」
「ああ。そういう体質になっているんだろうな。るう。食事以外の時間も気にしなくていいから、腹が減ったら誰かに言うこと。いいな?」
「そうですよ。アリエスではその習慣が根付いているので、るうがおなかを減らしても気づけないことが始めはあるかもしれません。遠慮なく食べたい時に食べることです。いいですね?」
「は、はい。」
アルとリクは、やっとるうの少食の原因に辿り着くことが出来てホッと胸を撫で下ろし、そしてソワソワとしているるうを見て、リクはクツクツと喉で笑うと、ゴーサインを出しました。
「よし、病気じゃないんならベッドから出てもかまわない。」
「ほ、ほんと、ですか?」
るうはキラキラとはちみつ色の瞳を輝かせて、リクの言葉に反応した後、医者であるアルを見ます。
その瞳からは、とんでもない程のキラキラ光線を発していました。
『ほんとにいいの?』
『いいんだよね?』
『もうだめって言わないよね?』
言葉が不自由な分、るうが目で語ることをマスターした瞬間でした。
クスクスと笑いながらアルが頷けば、るうの瞳は一層輝きを増して、シーツをがばりと跳ね上げて、診察の危機は去ったのだと飛び出てアルに抱きつきました。
「ある、さんっ。ありがと、ございます。」
「あはは。そんなに感激されると僕も嬉しいですね。ほぉら、るーう。高いたかぁいですよぉ。」
アルは難なくるうの軽い体を受け止めると、そのままるうをふわりと抱き上げて高い高いと持ち上げました。
思いのほか子供返りしていたるうにとっても、その高い高いはとても楽しいもので、きゃっきゃっと嬉しそうにはしゃぎますが、リクはアルを睨み付けずにはいられないのでした。
(アル。後で覚えてろよ。)
(聞こえませんー。ほぉら、たかいたかぁい。)
(きゃっきゃっ♪)
きゃっきゃっ(笑