健康診断。
アルは流石は医師といったところでしょうか。
言葉巧みにるうの警戒心を解き、和やかに話を進めたところで、本当の目的がそれだったと気づかせないように『ああ、そういえばですね』と軽く言葉を出したのです。
「るう。あなたの食事の量を聞いてきたのですが、満腹だと言ったのだそうですね?胸焼けがするとか、気分が優れないとか、遠慮したのだとか、そういう理由がなく、本当に満腹で言ったのですか?」
「は、はい。ぽんぽこりんで、このせかいの、ごはん。とってもいっぱい、です。」
ふむ・・・と考え込んだアルは、るうのおよその身長と体の大きさ、自身の身長と体格から、普段アルがとっている食事量を頭の中で計算し、その何分の1であるるうと照らし合わせます。
確かに、普通のこの世界の人が食べる量より食べられないだろうるうの体は、多少もう少し食べたほうがいいだろうと判断しても、栄養失調になる可能性は低いという結果が弾き出されました。
「そうですね。僕たちよりも、るうの方が小さい体なんですから、確かにるうが今朝食べた量でも多少足りませんが問題はないように思います。」
そう言ったアルの言葉にほっとしたようにるうはコクコクと頷くと、やっとふにゃりと笑ってくれましたが、次の瞬間アルが言った言葉に固まってしまいました。
「ただ、念のため健康診断はしておきましょうね。」・・・と。
結果、この世界の健康診断とは、るうが思っていた薬やら注射やらといった類のものでは一切なく、首のあたりに触れ、魔力をるうの体に少しだけ流し込むことで、その人の体の変化などが分かるというものだったのでした。
「はい。終わりましたよ。頑張りましたね。」
「ありがとう、ございました。」
ぺこりと頭を下げたるうに、アルは『いいこでしたよ』と頭を撫でましたが、確かにアルは『大人』としてではなく『幼子』に対する行動な気がしました。
ですが、シーツに包まっていたるうからも、リクとアルの会話は聞こえていたのです。
ルナーが生まれたということをリクはまだ、伝えていなかったことにもしかすると理由があるのかもしれないと思い、幼子の扱いも受け入れました。
「元気なのでしたらベッドから出ても大丈夫ですよ。ふふ。リクが心配して押し込めたのでしょうけど、るうも相当医者が嫌いのようでしたしね。」
「あう・・・っ!?」
見透かされたように言い当てられたるうは、真っ赤になってしまいましたが、そんな時、コンコンとノックの音が聞こえてきます。
「はーい。もう入っていいですよ。まったく。るうのことを心配のあまり、扉の向こうで待機していたようです。」
苦笑いしたアルは、扉に視線を向けながらもクスクスと笑っていますが、リクとナミが入ってくるとその笑みを引っ込めてカルテらしきものに何やらサラサラと書き込みました。
ナミとリクは、るうの座っているベッドへ近づくと、心配そうに顔を覗き込みます。
「るう様。お加減はいかがですか?アル。やはりるう様は何かの病なのですか?」
「アル。どうなんだ?るうは大丈夫なのか?」
「まあまあ。落ち着いてください。るうは至って健康体です。」
アルはカルテから視線を逸らさずに言いますが、ナミとリクは1度るうに視線を向けた後、顔を見合わせて眉間に皺を寄せました。
「では、どうしてるうは食が細いのだ?病ではないとしたら精神的なものなのか?」
「リクくん。確かにるうは少食かもしれませんが、僕たちの体の大きさと比較してみなさい。食事量から見ればるうの体ではもう少し食べられればいいとは思いますが、拒食とまではいきませんし、栄養失調になるほど食べられていないわけでもありませんよ。あとは・・・私たちとどう相違があるのか問診してみなければ分かりません。」
るうはその言葉にコクコクと頷きながらアルを見上げると、アルはルビー色の瞳を細めてふわりとるうの頭を撫でるのでした。
カイさん出てきませんでしたね^^;