レジスタンス
※注)ここは作者の創作を加えています。尚、クウェート国民が湾岸戦争の際、レジスタンスを組織したとする資料は作者は見つけていません。
1990年 12月15日 0156時 クウェート南部
イラクがクウェートを併合したと宣言してからほぼ2週間。クウェートとサウジアラビアを結ぶ628号線と801号線、50号線といった国境の幹線道路はイラク/サウジアラビア両陸軍によって封鎖され、物資と人間の往来は途絶えた。また、所々に塹壕が掘られ、トーチカが設置された。国境警備隊に加えて、陸軍の戦車部隊が置かれ、さらに増援として後方には共和国防衛隊の機甲部隊や砲兵部隊が控えている。
サルマン・アル=カリド・マームード共和国防衛隊大佐はご満悦だった。戦車が完全に国境を封鎖し、出入りしようとする人間がいれば銃で脅して追い返していた。このまま侵攻していけば、サウジアラビアやバーレーンも簡単に占領できるだろう。確かに、アメリカ軍は脅威だが、この世界第4位の機甲部隊を破壊することはできないはずだ。T-72ならば、M60は言うに及ばず、M1A1でも勝つのは難しいだろう。それに、もうすぐクリスマスだ。きっと、奴等は浮かれて注意が散漫になっているはずだ。そこをミサイルで攻撃すれば良いのだ。ついでにイスラエルも。しかし、そうすれば多国籍軍に攻撃の口実を与えることになる。そこは慎重にならざるを得ない。それに、今日は夜が明ける前に補給部隊と合流する。今後の作戦に大いに役に立つものが届くだろう。
1990年 12月15日 0204時 クウェート北部
イラク陸軍の輸送トラックが幹線道路を列をなして南下している。イラク兵は今では我が物顔でクウェート国内を車両で走り、歩きまわっている。時折、クウェートの子供が石を投げつけてくることはあるが、抵抗はその程度で殆ど気になることは無い。真っ直ぐな道が続いていたが、500m先にはカーブした道がある。トラックとタンクローリーで編成された輸送部隊はそのままそこを通過した。戦車や装甲車の護衛は無く、兵士の武器も小火器程度だ。イラク軍の兵士はクウェートの実力を完全に舐めきっていた。
サイード・ハッサン・ナジブはM14と無線機を手に砂漠に伏せていた。
「サイード、奴等が来る。あと30分くらいでそっちからも見えるはずだ」
彼のやや前方で見張りについている仲間が知らせてきた。
「了解。だとすると、15分で行動開始だな。待ってろよ・・・・」
彼らは道端にいくつかの仕掛け爆弾を置いてきた。構造は単純で、リモコンを利用したものだ。彼らに武器を与えた人間は所属を明かさなかったが、CIAだとナジブは予想した。その白人は自動小銃、ロケットランチャー、爆発物を持ってきた。クウェート国民は今までは蹂躙されるがままだったが、今日でそれも終わりだ。
アメリカ軍は一体何をやっているのだろう。まだサウジに引きこもっているのか。しかも、もうすぐクリスマスだ。欧米では祝日だ。もしかしたら、12月24日に帰ってしまうのではないのだろうか。そんな幻想からナジブを仲間の声が現実に呼び戻した。
「あと5分で爆破だ。用意はいいな」
「了解だ。全員、持ち場につけ」
1990年 12月15日 0210時 クウェート南部
イラク軍の部隊はのんびりとしていた。抵抗があっても、子供が石や瓶ガラス瓶を投げつけてくる程度で、大したことはない。そう考えていた時、トラックとBTRが突然、爆発炎上した。
「撃て!撃て!撃て!」
IEDが装甲車をひっくり返した。どうやら爆薬が相当多かったらしい。M60から放たれた曳光弾が暗闇に飛んでいき、イラク兵を1人、ミンチにした。M72がBTR-60の車体に穴を開ける。イラク陸軍兵は大混乱に陥った。が、なんとか立て直し、AKで撃ち返した。ナジブの隣の仲間の首から上が突然、消し飛んだ。しかし、ナジブは怯むこと無く、手榴弾を敵に投げつける。イラク兵が反撃する暇を与えず、今度は迫撃砲弾が飛んできた。更に、スナイパーが一人一人、イラク兵の頭を正確に撃ちぬいていく。驚くほど正確で、組織だったゲリラ戦だ。しかし、それもそのはずだった。ナジブたちが接触した欧米人の正体はグリーンベレーの隊員であり、彼らはその男にゲリラ戦の戦法すら習ったのだ。
ナジブはスコープ付きM14で敵兵一人一人を狙撃した。落ち着いて銃を構え、狙いをつける。引金を引く度に、イラク兵の頭が撃たれたトマトピューレの缶のように破裂する。この作戦は完璧だった。しかし、手っ取り早く敵兵を撃ち殺して、この場から逃げなければならない。さもないと、Mi-24攻撃ヘリの襲撃を受ける可能性がある。怯んだ敵兵は武器を捨て、手を上げようとしたが、その男すら仲間は撃ち殺した。やがて、敵の抵抗はなくなった、ナジブは仲間と生き残った人間がいないかどうか調べた。イラク兵は全員死んだようだが、こちらも3人の戦死者を出した。ナジブが考えた通り、暫くするとハインドがここを調べに来たが、クウェート人のゲリラは全員、その場からいなくなっていた。