表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1991バビロンの砂嵐  作者: F.Y
5/36

机上演習

 1990年 12月2日 0913時 サウジアラビア プリンス・スルタン空軍基地


「そうじゃない、フリオ。そっちから突っ込んだら駄目だ。いいか。正面に戦車の半分を置いて、側面にもう半分とブラッドレーを回りこませるんだ。正面からT-72の装甲は撃ち抜けないからな。いいか、これは・・・・」エメット・ハーレー軍曹が声を荒らげる。

 テーブルの上には地図が広げられ、その上に赤と青に塗られた戦車を型どったボール紙を置いて、兵士たちが動かしている。もし、この様子を海軍の空母の飛行甲板の"ウィッジャー・ボード"(※注;アメリカ版"コックリさん"遊び。転じて、空母の模型の上でボール紙の飛行機の模型を動かして、それぞれの飛行機の動きを管理する様子からこの呼び名となった)係の兵士たちが見たら笑っていたであろう。だが、これは"ウィッジャー・ボード"というよりはチェスだ。

「いいか。まずは正面で撃ち合わせて注意を引くんだ。その間に戦車の半分とブラッドレーを敵の側面に回りこませる。敵は正面に集中しているから、横からぶっ放して奇襲するんだ。ヤキマでもやったアレをやるんだ」

 フリオ・クーパー上等兵とハロルド・コーネリアス上等兵、ビル・ストーン上等兵ら小隊の若手に古参兵であるハーレーとハワード・ファーマー軍曹が教えこんでいた。

「おっと、取り込み中かな?オレンジジュースを持ってきた。好きに飲んでくれ」

 オースティン・クロードがジュースの入ったポリタンクを持って、仲間たちがいるテントの中に入ってきた。

「おはようございます小隊長。ガキ共に授業をしているところでして」

「私も加わっていいかな?」

「ええ。おい、全員聞け!小隊長殿が授業に参加してくださる!心して授業を聞くように!」


 1990年 12月2日 0934時 サウジアラビア プリンス・スルタン空軍基地


「そうだ。回りこむんだ。正面からはぶち抜くのは難しいから、横か後ろから撃つんだ。ブラッドレーの25ミリだと、BTRやBMRDの装甲くらいにしか効果はない。だから、ブラッドレーは戦車以外の敵を撃て。カタログには戦車に対抗できると書いてあるが、信用するな。T-72の弾に耐えられるのはエイブラムズの真正面だけだ。アレに狙われたらひとたまりもないぞ」

 ハーレーは地形図に乗せられた戦車の模型を動かす生徒たちにアドバイスを続けた。

 クロードは途中で席を立って、フランク・ミュラー曹長を呼んだ。

「明日は実際に乗せてもいい頃だと思う。机上演習と実戦はまるで違うから、本物の感覚を早く覚えこませるのが肝心だと思うが」

「そうですかね?」

「開戦まで1ヶ月と少ししか無いんだ。イラクがそれまでにクウェートから撤退すれば一番良いが、そうはならんだろ。戦いに備えるべきだな」

「ですね。砲弾とガソリンは空軍がどんどん運んできてくれています。それから、アレが無いと我々はオシマイですよ」

ミュラーが指さした方向に駐車しているのは、M978補給車という大きなタンクローリーとM977輸送車だ。これらは味方が掌握した後方地域からやって来て、戦車に砲弾と燃料を補給する。地味な車両だが、補給という戦争で最も重要な役割を持っている。

「そう。腹が減っては戦はできぬ。戦争では補給が最重要だ。弾とガソリンがたくさん必要になる。その辺も考慮して考えないとな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ