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1991バビロンの砂嵐  作者: F.Y
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エピローグ 停戦

 1991年 2月27日 1718時 クウェート


「ここだ。クウェート国境を超える」

 クロードは戦車のGPS画面を見て確認した。他のいくつかの部隊はまだ国境線上で戦闘をしているらしいが、殆どの部隊は戦闘行動を終え、クウェートに入城して防衛戦を築くか、撤退を開始している。

「ここがクウェートか。イラクと同じ光景だから、なんだか実感が沸かないな」

 キューポラから顔を出したクロードが言った。しかし、全く違う光景も広がっていた。周りは味方だらけだ。海兵隊のAAV-7の車列とすれ違った時は歓声を浴びせられ、クウェートの一般国民が道路で自分たちを救ってくれた多国籍軍の兵士を歓迎し、食べ物や飲み物を持って沿道で並んでいる。日が暮れつつあるというのに、お祭り騒ぎだ。


 クロードの戦車隊は予めここへ来るようにと連絡されていた陸軍のキャンプへと向かい、駐車場係の伍長の誘導に従って戦車を駐車場へと向かわせた。

「終わった終わった。どれくらい俺達はイラクにいたんだ?」

 ジョージ・ジョンソン上等兵がブラッドレーから降りてきて言った。

「ざっと4日間だろう。他の部隊は戦闘を続けているみたいだが・・・・」

 ブラッドレー・マッコイ軍曹が答える。

「そんなものでしたっけ?もう1ヶ月は戦っていたような気がしますよ」

「俺もだよジョージ。だが、戦争なんて短ければ短いほどいいのさ。その分、俺達が生き残れる確率が高くなる」

「ですね。これから終戦宣言が出たら帰国ですか」

「そうだな。明日には大統領が勝利宣言を出すんじゃないのか?もう休戦するとの話がそこら中で湧き出ている」


 1991年 2月27日 2330時 クウェート


 マッコイ軍曹が言ったことは事実となった。CNNでイラク側がクウェートからの軍の撤退に合意したため、翌朝8時をもって全ての戦闘を終了させ、多国籍軍の撤退を開始するとの報道があった。事実上の多国籍軍の勝利宣言である。

「やったぜ!」

「俺達の勝ちだ!」

「ざまあみろ!」

 兵士たちが勝利の歓声を上げた。クウェートやサウジアラビアの兵士が空に向かってM16やG3といった自動小銃で祝砲を上げる。さすがにアメリカやフランスの兵士は発砲に加わりはしなかったが、それでも一緒になって勝利を祝った。本来なら花火も打ち上げられただろうが、そうもいかなかった。


 まだイラク国境近くにいた部隊はイラク軍の撤退監視を行った。発砲することはこちら側に銃口が向かない限り禁じられた。だが、イラク軍部隊は抵抗すること無く、おとなしく自分たちの国へと帰っていった。翌朝の日が昇る頃には完全にイラク軍は故郷に帰って行った。


 1991年 3月1日 0512時 クウェート湾


 戦車や装甲車が輸送艦に積み込まれていく。今度はアメリカへ帰るのだ。クロードたちはクウェート軍の兵士と別れを惜しみながら、迎えに来たCH-47Dに乗り込んでアリ・アル・サーレム空軍基地で待機している輸送機へと向かった。


 C-5輸送機が迎えに来ていた。他にはC-130、他国の軍がチャーターした旅客機など、様々な飛行機が並び、これまで戦ってきた兵士たちを祖国へと帰らせていた。


 1991年 3月4日 2214時 アメリカ フォート・ノックス 士官クラブ


 湾岸戦争で戦った士官たちが戦勝パーティーを開いていた。この日は、普段は中に入れない下士官たちも招待され、士官たちの武勇伝を延々と一晩中聞かされた。代わる代わる戦車隊長たちは如何にして激戦を生き残ったか、イラク軍を叩きのめしたかを話した。やがて、クロードの番が来た。彼が率いる"チーム・コブラ"はこの戦争で一番多くのイラク軍戦車を破壊したという噂が流れた。皆、立ち上がったクロードを一体、どんな武勇伝を聞かせてくれるのだろうか、と期待を込めた眼差しで見た。しかし、クロードが言ったのはこれだけだった。

「俺は確かに多くのイラク軍戦車を破壊した。だが、一番誇りに思っているのはそれじゃない。部下をみんな、無事に祖国に帰らせることができたことだ」

最後、端折り過ぎたかな・・・・まあいっか。

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