表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1991バビロンの砂嵐  作者: F.Y
35/36

メディナ稜線の戦い

 1991年 2月27日 1156時 イラク 砂漠


 午前中は何にも遭遇しなかった"チーム・コブラ"であったが、遂に接敵した。いたのはイラク共和国防衛隊メディナ師団のBMP-1だ。外はまたもや霧と小雨で、赤外線カメラでようやく捉えることができたのだ。どうやら、防御陣地を築いてこちらを待ち伏せていたらしい。しかし、またもや76mm砲の射程に入る前に"チーム・コブラ"のM1A1戦車が敵を捉えた。

「1時方向!敵、BMP!HEAT(ヒート)装填!」

クロードが指示を出した。

「了解、HEAT!」

バーキンがもう何十回も言ったセリフで返す。


 戦車の主砲が火を吹き、成形炸薬が詰まった弾丸を押し出す。またもやソ連製戦闘装甲車はアメリカの最新鋭戦車の餌食となった。この戦争の後、T-72は評判を一気に落としてしまうが、暫くしてソ連製の輸出用型落ち兵器の存在が明るみとなった。つまりは、ソ連本国の軍隊が使っているものとは別に、輸出用にわざと、例えば戦闘機ならばエンジンを出力を弱いものにしたり、レーダーの探知能力を制限したものであったり、戦車ならば装甲板を薄くしたものを、特に第三世界の軍隊に売りつけていたのだ。


 しかし、そんなことはつゆ知らず、クロードたちはT-72の装甲板の防御力をM1A1の主砲と徹甲弾が勝っていたのだ、と考えていた。後にクロードはヨーロッパで本国仕様のT-72の正面装甲をM1A1の徹甲弾で撃ちぬく実験に参加して、我が目を疑う事態に遭遇するが、それはもっと後のことである。


 「びっくり箱だ!これで何個目だろう」

 T-72の砲塔が弾薬の二次爆発による爆風で宙を飛ぶのを見た"コブラ6"のブルース・カーク軍曹はボソリと言った。

「さあな。それよりも、ほら。また敵だ、11時方向。ぶっ放せ!」

ニック・クラーク軍曹はカークが砲撃している間に次の標的に狙いを付けていた。

「了解。あのBMPだな。HEAT装填!」


 ブラッドレーの兵員輸送室の歩兵たちには、結局、戦闘の機会は殆ど与えられなかった。外からの砲撃の音が響く中、じっとしているだけだった。ここを真っ直ぐ通り抜けると、もうクウェート領内だ。そこまで到達すれば、侵攻する必要は無くなりそうだ。


 M1A1が戦車を破壊し、ブラッドレーがジープや装甲車を叩く。もう殆ど機械的と言ってよいほど同じことが繰り返された。2800mの遠距離から捉えられ(イラク軍は交戦距離を輸出型T-72の有効射程の1500m程度と想定していたらしい)、手も足も出ないうちにイラク軍部隊は戦って壊滅させられるか、降伏するかのどちらかを選ばざるを得なくなった。


 1991年 2月27日 1214時 イラク 砂漠


 砲撃を続けている最中、無線が入った。クロードは苛立たしげに受話器を取った。

「はい?コブラ・リーダーです」

「クロード大尉、無事だったか?」

シメオン大佐からだった。

「今、戦闘中です!後にしてもらえますか?」

「わかった。今後の私からの連絡は電子メールの方で伝えよう。それでは、そっちを見てくれ」

無線が切れた。少し経つと、モニターにメールが届いていることを示すアイコンが点滅した。内容はこうだった。

『このままイラク軍部隊を撃滅しながら真っ直ぐ侵攻し、クウェート領内に突入せよ』

どうやら、これが最後の一仕事になりそうだ。クウェート国内からはイラク軍は完全に撤退してしまっている。後は国境線沿いに展開しているイラク軍部隊を撃滅するか、それとも連中が自分から引き上げて行くかどうかだった。


 「装填!HEAT!」

 "コブラ3"の車内でウィリアム・トーラス上等兵が、まるで機械のように砲弾ラックから弾薬を取り出し、薬室へと突っ込む。3秒後には砲撃で砲身が後ろに下がる。

「次、セイボー!」

トーラスは車長のフランク・ミュラー曹長の命令で再び装填する。砲弾はまだ十分にあった━━━━先程、補給してからまだ半分も使っていない。


 1991年 2月27日 1223時 イラク 砂漠


 メディナ師団の部隊が遂に北に向かって移動を始めた。どうやら、ここで全滅させられるより、フセインの権力基盤である共和国防衛隊を少しでも生き残らせる作戦に出たらしい。だが、射程内にいる以上、脅威であることには変わりない。だから、"チーム・コブラ"は完全に敵の撤退が確認できるまで追撃した。容赦無い砲弾の嵐を、イラク軍部隊に叩き込んだ。だがそれも、あっという間に終わりを告げた。方向転換して追撃をしようとしたが、改めてクウェートへの突入を命令されたため、戦闘は諦めざるを得なかった。"チーム・コブラ"はクウェートへ向けて進軍した。そして、彼らの戦争は終わった。

これ以上、戦闘シーンを描くと単調になってしまうため、ここで終戦させました。元々あまり長くない小説にする予定だったので、これくらいで調度良いのかな、と個人的には )汗



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ