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1991バビロンの砂嵐  作者: F.Y
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停戦決議

 1991年 2月26日 2311時 ワシントンD.C. ホワイトハウス


「それでは、これで良いのだな。停戦にすると」

 アメリカ合衆国大統領が言った。閣議で、イラクに降伏とクウェートからの軍の即時撤退を求め、停戦をするとの決定が下されたのだ。

「ええ。戦後処理は国連の管轄になりますが、まずはこれで良いでしょう。現地の司令官に通達します。ただし、イラクが再びクウェートを攻撃する姿勢を見せた場合はその限りではない、とします」

 国防長官が言った。

「その通りだ。イラクがまたクウェートを攻撃しては、元の木阿弥だ。まずはどうする?」

「まずは地上部隊から撤退させます。航空部隊に撤退を援護させ、イラク軍からの攻撃から守ります。ただし、攻撃を受けた場合は反撃して良い、とします」

「クウェートを防護させるために、イラクが完全に停戦を受け入れるまでは少しだけ地上部隊をクウェート国内に残しておこう。イラク側が停戦を承諾した後に撤退させる。問題は無いか?」

「問題ありません。国連にも通告しておきます。現地時間、朝0500時を持って休戦にすると。軍にはいつ伝えますか?」

「あまり早急にやるのは問題だ。そうだな・・・・現地時間で2月27日2330時に通達としよう。そうすれば、ある程度は余裕ができるはずだ」

「わかりました。そうします」

 戦争の終了がこれで決定した。


 1991年 2月27日 0743時 イラク 砂漠


 停戦決議が行われたなどと、現地の兵士たちはつゆ知らず、ある部隊はイラク領内からクウェートへと進軍し、また違う部隊はイラク国内へと入り込んでいった。しかし、イラク中部に向かった部隊は、殆どが進撃速度を落としていて、フランス陸軍部隊などは事実上、停止状態となっていた。


 戦うべき敵部隊も殆ど見なくなった。だが、クロードは燃料を節約させながら進軍させることにした。情報によると、この先にクウェート侵攻の準備をしていたメディナ師団が残っているのだ。まずはこれを攻撃し、撃滅しなければならない。だが、イラク軍の多くが撤退を開始している今、どこまで戦闘を行うべきかはわからない。しかし、停戦が通達されていない以上、イラク軍との戦争状態は続いているのだ。司令部に問い合わせてみたところ、このまま進軍してクウェートに突入しろ、と命じられた。


「クウェートに突入ですか。そこで終わりですかね?」

 ローウェル少尉がボソリと言った。クロードの予想では、昼頃には目の前のメディナ師団にぶつかり、翌日か翌々日にはクウェートに突入する、とのことだ。

「そうだな。ひょっとしたら、このまま何もせずに終わるかもしれん。そうなるのが一番なのだが・・・・」

「そうもいかんでしょうな。イラクが降伏または停戦に合意すれば良いのですが、今、そうなっていない以上、攻撃は続けるべきです」

「ああ。だが、油断するべきではない。ただ、イラク軍がさっきから見えないのが気になる」

「斥候を出しますか?」

「そうしてくれ。ただし、あまり前に出し過ぎるな。すぐに戻って来られる範囲で展開させるんだ」


 1991年 2月27日 0801時 イラク 砂漠


 2両のM3ブラッドレーが隊列から離れて偵察を開始した。広大な砂漠を赤外線カメラで捜索する。

「何も無いな。車1台、ヘリ1機見当たらない。奴ら、逃げ出したか?」

 アロウィシアス・ガーバー軍曹が言う。あるのは鉛色の空と、黄色い大地だけだ。

『こちらパイソン4、こちらも何も確認できない。赤外線カメラ反応無し。索敵を続ける』

 マーカス・ランバート軍曹も敵を見つけられていない状態だった。だが、まだ情報によればここの辺りにはメディナ師団が残っているはずだ。

「敵を見つけたらすぐに知らせろ。しかし、あまり本隊から外れるな。隊長殿からの命令だ」

 ガーバーがそう注意した。

『了解。偵察範囲は本隊から半径7kmまでで30分間。または特別命令があれば捜索範囲を変更し、または中止する。これで良いんだな?』

「ああそうだ。遠出は厳禁、以上だ」

 ガーバーはそう言って、通信を切った。


 ブラッドレーは砂漠を驀進した。一定距離を保ちながら、偵察する。時々、停止して周囲をじっくりカメラでスキャンして、双眼鏡での目視も行ったが、動くものは何もない。あるとしたら、戦車の周りを走っているトカゲくらいのものだ。ランバートは戦車も装甲車もジープも見かけない、とクロードに報告した。そこでクロードは戻ってくるよう命令した。

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