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1991バビロンの砂嵐  作者: F.Y
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タワカルナ師団突破戦 その4

 1991年 2月26日 2221時 イラク 砂漠


 ようやく補給部隊が来た。先程まで戦っていたイラク軍部隊を攻撃する前に補給部隊を回してくれるよう頼んだが、なかなか来なかったため、前進を止めざるを得なかった。その間にも、イラク軍は逃げ出していく。数日前はお偉い方の命令が足を引っ張っていたが、今度は『兵站』というもっとも戦争で重要なものが進軍を遅らせる原因となった。

 

「やっと来たようです。どこも忙しいようですね」

 ブラッドレーの外で警戒していたバルトロメオ・コールソンが呆れた様子で言う。12両のタンクローリーと10両の弾薬供給車が6両のブラッドレーによる護衛を付けられてやって来た。だが、こうしている間に貴重な時間をロスしてしまい、更に何故か補給作業に手間取ったために、予定していた1時間という停止時間も大幅に伸びてしまった。そうしているうちにも、イラク軍部隊は撤退していき、どんどん逃げ出していった。補給部隊の大尉によると、どの部隊も補給部隊の速度を考えずにガンガン前線を押し出して北東へと押し出してしまったため、補給基地と前線との間にかなりの距離が開いてしまったらしい。だが、補給基地をそのままそっくり移動させるにもそうは行かず、なんとか他の部隊への補給を前線に回す、という方法を総司令官が取ったらしい。補給部隊はすぐに作業に取り掛かり、弾薬をクレーンで持ち上げ、戦車や歩兵戦闘車の給油口にノズルを突っ込んだ。しかし、弾薬を持ち上げるクレーンが途中で故障したり、給油ポンプが止まったりして補給に手間取ってしまい、1時間半程で終了する予定が3時間近くもかかってしまった。それによって、またまたイラク軍に時間を与えることになってしまった。


 1991年 2月27日 0134時 イラク 砂漠

 

 ようやく進軍を再開させることができた。なんと、すでに日付が変わってしまっている。途中でイラク軍部隊に見つからなかったのは幸運としか言い様がない。アイドリングしていたM1A1のガスタービンエンジンとM2/M3ブラッドレーのディーゼルエンジンが唸りを上げて黒煙を吐き出し、前進を開始する。だが、あまり速度を上げて燃料を徒に消費させるようなことは避けた。折角、燃料タンク満タンにした上に、予備のジェリカンにもたっぷりと注いでもらったのだ。おまけに、またいつ、敵部隊に遭遇して燃料をバカ食いするかどうかもわからない。そうなっては、次にすぐ補給できるという保証はどこにも無い。だから、クロードは今までのように驀進させることをやめ、巡航速度を保ち、ゆったりと進んだ。


 "パイソン1"の車内では、若い歩兵たちが不満を漏らしていた。さっきまでほぼ最大速度で進んでいたのに、ここに来てまた急に進軍速度が遅くなったからだ。

「前はお偉い方の政治的判断で遅れましたが、今度はガス欠ですか」

 アダム・ウェネガー上等兵はコーベン・マックタイラー軍曹の方を見て言った。ウェネガーは早く戦いたくて仕方がないようだ。

「こればっかりはどうしようもない。我々が調子に乗りすぎたんだ。それに、さっきのトラブルは機械的な問題だった。修理したら、すぐに直っただろう」

「そりゃそうですけど・・・・奴らに逃げられてしまいますよ」

「まあ、焦るんじゃない。ガソリンが無ければ戦車は動かんし、食い物が無ければ我々は倒れる。そういうことだ」

「わかりました」

『コブラ1より各車両へ通達。どうやら各戦線で補給部隊の手配が遅れているとの情報が入った。司令部が急遽追加の手配を開始したが、間に合うかどうかはわからん。よって、燃料を節約しつつ、前進せよ。速度を早めるのは、特に命令がない場合は戦闘時のみとする。以上』

 クロードが無線で呼びかけてきた。

「遂に燃料節約か。こいつはどうなるのかますますわからなくなってきたな」

 アンダーソン中尉がボソっと言った。

「何かまずいのですか?」

 アンディ・マグワイヤ兵長が訊いた。

「要するに、だ。さっきまで我々のような前線の戦闘部隊が前に前に行き過ぎた、ということだ。で、後方の支援部隊が追いつけなくなったから、燃料弾薬その他の配送に遅れが出始めた。司令部は慌てて補給部隊を増派しようとしているが、どこまで追いつけるのか、いつになったら完全な補給線をまた作れるのかがわからないらしい」

「なんと・・・・」

『正面敵自走砲。榴弾装填!撃て!』

 クロードがまた無線で呼びかけるのが聞こえた。


 M1A1が榴弾を発射した。目の前のAMX-30AuF1が薄い装甲を成形炸薬に貫かれ、爆発する。

『BMPだ!撃て!撃て!』

 アンダーソン中尉が指示を出す。砲手たちは目についたものから手当たり次第撃ち始めた。そこら中でイラク軍の自走砲や装甲車が爆発し、炎上する。ジープやトラックに対しては砲塔の上に取り付けた50口径で銃撃した。真夜中の真っ暗な砂漠の所々を燃え上がるイラク軍車両が明るく照らす。その炎の中でM1A1エイブラムズやM2/3ブラッドレーの、恐ろしくも美しい姿が魔神のように浮かび上がった。彼らはタワカルナ師団の北方の支配地域を通りぬけ、更に後方に待ちかまえているメディナ師団へと向かっていった。

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