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1991バビロンの砂嵐  作者: F.Y
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国連決議

 1990年 11月29日 1450時 国際連合本部 安全保障理事会本会議場


「我が国は、正当な権利を行使しているまでだ。何度も言っているように、もし、クウェートからの軍の撤収を議論するのならば、同時にパレスチナを不法占拠しているシオニストの事についても議論されねばならない」

 イラク国連大使、ハッサン・ムスタファ・ユセフはこれまでの主張をただひたすら繰り返した。

「では、勝手に外国人を人質に取った件はどうなるのです。それに、非武装のクウェート市民が、イラク兵に射殺されたり、イラクへ強制連行されているとの報告が上がっています。それを、イラク政府はどう釈明するおつもりですか」

ポーランドの国連大使が質問した。

「それは我が国の防衛のための人間の盾だ。侵略者から守るための」

「完全に『誘拐』としか思えないですな。貴国に国民を人質に取られた国から、何度も解放の要請が来ているのに無視するおつもりで?」

「そんなものは関係ない。私は答える立場にない。ただ、大統領の言葉を伝えるのが、私の役目だ。そもそも、クウェートは・・・・」


 イラク国連大使の言葉に、ほぼ全ての国の国連大使が呆れ返った様子だった。ある者は目を閉じてかぶりを振り、あるものは天井を眺めた。やがて、まだ演説中にも関わらず、各国の国連大使は自分の隣同士になった者たちと小声で話し始めた。

「イラクの主張は支離滅裂だな。これは武力行使の決議は必死だな」

「NATOとアラブ諸国の殆どが賛成するみたいだ。さて、どうなることやら」

「どうやら、ソ連は反対しないようだぞ。全会一致の可能性が高いな」

「今日は最後通牒が出されるな。戦争開始は必至だな」

「どうやら、この決議で手を挙げないのはイラクだけになるみたいだ」


 1990年 11月30日 1311時 シゴネラ基地


 先ほど、空軍機で到着したばかりのクロード大尉とその部下たちは昼食を摂っている最中に、CNNの衛星中継で国連安保理の会議を見ていた。自分たちに今後に関わる重要な会議であるが、大方の予想は付いていた。『とっととクウェートから出て行け。さもないと爆撃するぞ』である。

「どうせ、反対するのはイラクだけなんだろ?」

「そうとはいかない。他のアラブ諸国の反応が未知数だ」

「だが、このまま放っておくと、イラクはヨルダンやトルコまで攻撃するかもしれない」

「トルコだって?それこそイラクにとっては自分で自分の首を締める結果になるぞ。NATOがバグダットをどころか、イラク全土を駐車場にしちまうぞ」

「望むところだ!フセインをボコボコにしてしまえ!」

 兵士たちの様々な声が上がる。特に、第134戦車大隊の兵士たちは(クロード自身も含めて)好戦的で、頭に血が上りやすい性格の者が多い。さて、今のところ、戦場は国連の会議場だ。戦局は目に見えている。まだこの戦争の主役は政治家連中だ。だが、戦争は自分たち軍人の専売特許であり、特技である。だから、政治家連中がポンと一度だけ背中を押してさえくれれば、後は自分たちの自由にできる。

 政治家連中やマスコミは言葉やタイプライターで国の行く先を操れるが、自分たち軍人はもう一歩踏み込んだ事ができる。大統領の命令さえあれば、他国の将来そのものを破壊し、変えてしまうことさえできるのだ。生殺与奪という言葉は、まさに現代の軍人のためにある言葉なのだ。

「どう思います?大尉」

ハロルド・コーネリアス上等兵が前に座った。彼はまだ半人前であるが、頭がよく、間違いなく将来は立派な戦車乗りになるだろう、とクロードは思っている。

「どう思うも、我々はただ大統領の命令に従うだけだ。まあ、間抜けな政治家連中のせいで、こうしている間にもクウェートの一般市民は苦しんでいるんだ、ということはわかっている」

「確かそうですね。イラク大統領と我が国の大統領がどういう反応をするかが問題ですが」


 1990年 11月29日 1513時 国際連合本部 安全保障理事会本会議場


「それでは、決議を取ります。今回はイラクに対して、翌年の1月15日までに軍の撤退期限を設けます。それまでにイラク軍がクウェートから撤退しない場合は、クウェート駐屯中のイラク軍に武力行使を可能とします。それでは、賛成の国は手を上げて下さい」

 イラクを除く、全ての国が手を上げた。驚くべきことに、なんとソ連の国連大使までもが賛成に回ったのだ。これで、あることが決定的となった。イラクの指導者は全世界を敵に回したのだ。

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