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1991バビロンの砂嵐  作者: F.Y
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タワカルナ師団突破戦 その3

 1991年 2月26日 1924時 イラク 砂漠


 ようやくCH-47Dチヌーク4機と護衛のAH-64Aアパッチ2機がやって来た。チヌークがバタバタと砂煙を上げながら着陸した。戦車隊のすぐ頭上でアパッチがホバリングする。

「こちらアークエンジェル1、負傷者を運び込め。援護はラプター1が担当する」

「こちらラプター1、攻撃を開始する。敵をレーザーで照らせ!」


「ようし来た。まずは向こうの奴らをやっつけるとするか」

 ブレイン・ディロン軍曹がレーザー・デジグネーターでT-72を照らした。レンズ越しにロシア製戦車が見える。

「こちらラプター1、敵戦車を見つけた。東側の丘の上にいる戦車でいいんだな?」

「そうだ!我々は丁度、南の平原にいる!繰り返す!南の平原にいる戦車だけは撃つな!東側の丘の戦車をやっつけてくれ!」


 アパッチがミサイルを発射した。夜空にミサイルが炎を矢を描きならがら敵の戦車に向かう。数秒後、向こうで大きな火柱が次々と上がった。M1A1のM829徹甲弾ならば、単に貫通するだけであって、爆発する時は燃料タンクに引火した時だけだが、ヘルファイアにはスーパーチャージHEATが装填されている。命中すると大爆発を起こし、敵を丸焼きにした。

「今だ!急げ!負傷者を運び込むんだ!」

 クロードの部下たちが担架で負傷兵を次々と大きなヘリへと運び込む。手の空いている歩兵たちがM16やM249で撃ち返してイラク兵を牽制する。時折、"カーン、カーン"と7.62×39mm弾が防弾板で補強されたチヌークの機体を叩く。

「収容完了!」

 ロードマスターが叫び、カーゴランプを上げ始める。

「早く離陸しろ!」

 巨大なヘリは砂埃を巻き上げながら離陸し、後方の基地へと向かっていった。アパッチが護衛に付く。負傷者の救護は終わった。しかし、戦いはまだ終わっていない。


「全員乗車!急げ!敵が来るぞ!」

 ディロン軍曹が部下たちを急き立てた。

「くそっ!RPGだ!」

 一筋の白い煙を引く光が、戦車隊の頭上を飛び越えた。運良く、弾頭は遙か後方の地面に突っ込んで止まった。イラクの歩兵が動かない戦車にいよいよ迫ってきた。

「クソッ、駄目だ!撃て!撃て!」

「まだ敵が来るぞ!コブラ陣地から見て12時方向!」

「早く乗車しろ!」

 歩兵たちが急いでブラッドレーの車内に駆け込んだ。後部扉が閉まり始める。

「歩兵分隊、乗車完了!」

 ディロンが叫んだ。


「撃て!」

 クロードの命令の直後、戦車が矢継ぎ早に対戦車榴弾を発射した。BMPが爆発、炎上する。

「隊長!敵歩兵です!80人くらいが突撃してきます!」

 ローウェルが叫ぶ。イラク軍はまさかの戦術を取ってきた。大勢の歩兵に突撃させ、その後ろから6両のT-72を進撃させているのだ。

「まずは戦車からだ!セイボー装填!その後、榴弾で歩兵を蹴散らせ!」


 ソ連製戦車の砲塔が飛び上がった。更に、戦車の随伴歩兵が榴弾の爆炎で吹き飛ばされる。イラク兵の試みは犬死にに終わった。前進しても前進しても、先頭の兵士から吹き飛ばされ、戦車が爆破される。M1A1の7.62mm同軸機銃も火を吹き、トラクターのように敵兵を刈り取った。まだまだ戦争が終わる気配は無い。


 1991年 2月26日 2143時 イラク 砂漠


 クロードたちがタワカルナ師団を猛攻していた頃、クウェート国境に集結していたメディナ、アドナン、ハンムラビの3個師団がイラク南部の都市バスラに向けて後退を開始した。フセインはもう勝つことはできないが、クウェート解放を大義名分としている以上、多国籍軍はバグダッドまで侵攻してこないであろうと考え、後方に展開させていた共和国防衛隊の精鋭部隊を撤収させて、政権基盤の維持に使おうと考え始めていた。そして、フセインの読みは当たった。


 しかし、前線の部隊はそうはならなかった。彼らは後方の主力が自分たちを盾にして撤退していることを知らずにいた。だから、あくまでも多国籍軍と戦う道を選んだ。そして、それは自分たちの破滅に繋がった。


 "チーム・コブラ"の目の前に再び敵戦車が立ち塞がった。T-55やT-62、BMP-1が突進して来る。

「全車両、攻撃開始!標的は自由に選べ!」

 クロードが指示を出した7秒後に戦車とブラッドレーの主砲が火を吹いた。暗闇の中、120mm砲の巨大な砲口炎(マズルフラッシュ)がM1A1を明るく照らし、25mm機関砲の曳光弾がロケット花火のように赤い光を曳きながら飛んで行く。


 イラク軍部隊は前進したものの、前線にいる戦車や装甲車から尽く多国籍軍の戦車部隊に刈り取られていった。世界第4位の規模を誇っていた機甲師団の面影はすでに無くなっていた。

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