表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1991バビロンの砂嵐  作者: F.Y
22/36

73イースティングの戦い その3

 1991年 2月26日 1321時 イラク 砂漠


 突然、戦車の前方の地面が爆発した。目の前にはレンガで出来た建物がいくつかある。機関銃が装甲板に当たる音がした。イラク軍の歩兵小隊がいたのだ。

「12時方向!敵だ!全車両、HEAT装填!」

 クロードは指示を出した。

「こちらコブラ1。まずは俺が1発ブチかます。それから一斉に同時攻撃しろ!」

 コブラ1の主砲が唸りを上げる。

「コブラ2、準備完了!」

「3、OKです!」

 次々と準備完了の合図が通信が届いたので、クロードは射撃を指示した。7両の戦車の一斉射撃で建物が瓦解し、歩兵部隊が吹き飛んだ。もう一発装填させたが反撃がなかったので、クロードは敵は全滅したと判断して、そのまま直進を命じた。

「前方は坂になっていますね。このまま登って行きましょう」

 ブレイン・オライリー軍曹はエンジン出力最大限にまで上げた。戦車の排気口から真っ黒な煙が吹き出す。戦車とブラッドレーは急な坂を登っていった。


「12時方向!敵だ!」

 クロードは敵を見つけた。丘から見下ろした所にイラク軍の戦車部隊があった。T-72が何両も、車体を砂に半分埋めた状態で陣形を作っている。どうやら、戦車を砲台として使い、防御陣地を作っているらしい。

「なるほど。ここで陣形を固めていたか。だが、そうは問屋がおろさん!ぶっ放せ!」

 7両のM1A1の主砲が火を噴く。イラク軍の戦車部隊は敵の発見が遅れ、それが命取りとなった。T-72は車体部分を砂に埋めていたため身動きができず、米軍部隊から逃げ出す手段は無かった。だが、イラク側も黙ってやられるつもりはなかったらしい。戦車やBMPの砲塔が回転する。しかし、T-72の砲塔は手動で動かさねばならなかったため、モーターで作動するM1A1との反応速度の戦いに負けた。コブラ1が主砲を発射すると、ソ連製戦車の砲塔が空中に飛び出した。一列に並んだM1A1がバンバン撃つごとにT-72が爆発する。"コブラ1"が主砲を撃つと、T-72から身を乗り出していた車長が空中に飛び出した。更に、弾薬と燃料に引火したのか、爆発で砲塔が中を舞う。

 クロードが仲間の様子を見ると、"コブラ5"のキャタピラの下で爆発が起きるのが見えた。しまった、地雷原か。クロードは舌打ちする。

「ああっ、畜生!クソッタレめ!なんてこった!」

 ローウェルが叫ぶ。

「何が起きた?」

「前を見てください!」

 クロードは戦車の中に入り、スコープで様子を見てみた。目の前で15両程のT-72が砲塔を動かしているではないか。

「なんてこった。仕方ない、ぶっ放せ!」

 考えている暇は無い。とにかく、この場を切り抜けて、生き残らねばならない。オライリー軍曹は戦車の速度を上げ、敵戦車の間を蛇行するように操縦した。"チーム・コブラ"はイラクの戦車の中に飛び込み、それぞれの戦車が右に左に砲塔を向けながら射撃し、T-72を破壊する。"コブラ6"が15mの至近距離で敵戦車を撃ち、"パイソン1"はBMP-1に25mm弾を浴びせる。もはや白兵戦だ。誰も味方を誤射しなかったのは、奇跡としか言い様がない。戦車長たちはどれを撃てだのといった指示を特にはせず、全て砲手と操縦士、装填手に任せた。


 ほぼ全員が黙りこんでいた。装填手が「装填!」と叫ぶだけで、後は砲撃とイラク軍の戦車が爆発する音しか聞こえない。戦場は大混乱となった。M1A1と破壊されたT-72がすれ違う。ボロボロになったT-72の上をブラッドレーが通過していった。


 1991年 2月26日 1356時 イラク 砂漠


 チーム・コブラの丁度11時方向に今度はBMPとBTRの部隊が現れた。BMP-1の砲手がこっちを見つけるより早くM1A1の主砲が火を噴く。先導する戦車が敵を片付けていったため、ブラッドレーの出番は今回は無いかに思われていた。

「こちらコブラ1、全車両、残弾数と燃料を報告せよ。こちらはセイボー31、HEAT(ヒート)36。燃料は67%」

「こちらコブラ2、セイボー36、HEATは37。燃料71%」

次々に報告が入ってきた。どうやら思った程弾は減っていないらしい。燃料も十分なようだ。だが、念のためクロードは地図で補給部隊の位置を確認した。後方約30kmの間隔になるようついて来ているはずだが、過信は禁物だ。

「マーケット34、マーケット34、こちらコブラ・リーダー。そちらの位置を報告せよ」

「コブラリーダー。こちらマーケット34。68東方線(イースティング)の辺りにいます。もう少し前進したほうがよいですか?」

「まだその間隔を保ってくれ。だが、必要になったらすぐに補給できるように準備しておいてくれ」

「了解です。弾切れやガス欠になる前に呼んでくださいよ」

「わかった。交信終了」

 

 1991年 2月26日 1407時 イラク 砂漠


「敵だ!敵戦車だ!12時方向!まだいるぞ!奴らめ。どれだけ揃えていやがる!」

 "コブラ5"の操縦士。トーマス・ルーカス伍長が叫ぶ。

「全車両、前進。それから8時方向にフランス軍の戦車隊を確認。8時方向の戦車隊は撃つな。繰り返す、8時方向の戦車は味方だ」

隊長の声がインカムに響く。


「なんてこった!味方がやられた!」

 今度はロバート・クレイトン軍曹の声がした。クロードはハッチを少しだけ開けて、素早く周りを見渡した。すると、フランス軍部隊の先頭を走っていたAMX-30が停止して、燃えているではないか。すぐに隣のAMX-30も爆発、炎上した。

 だが、すぐに"チーム・コブラ"のメンバーは奮い立った。目の前で味方を斃され、彼らの怒りに火が点いた。そして、イラク軍に情け容赦のない鋼鉄の雨が襲いかかった。正に、彼らは『バビロンの砂嵐』と化していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ