73イースティングの戦い その3
1991年 2月26日 1321時 イラク 砂漠
突然、戦車の前方の地面が爆発した。目の前にはレンガで出来た建物がいくつかある。機関銃が装甲板に当たる音がした。イラク軍の歩兵小隊がいたのだ。
「12時方向!敵だ!全車両、HEAT装填!」
クロードは指示を出した。
「こちらコブラ1。まずは俺が1発ブチかます。それから一斉に同時攻撃しろ!」
コブラ1の主砲が唸りを上げる。
「コブラ2、準備完了!」
「3、OKです!」
次々と準備完了の合図が通信が届いたので、クロードは射撃を指示した。7両の戦車の一斉射撃で建物が瓦解し、歩兵部隊が吹き飛んだ。もう一発装填させたが反撃がなかったので、クロードは敵は全滅したと判断して、そのまま直進を命じた。
「前方は坂になっていますね。このまま登って行きましょう」
ブレイン・オライリー軍曹はエンジン出力最大限にまで上げた。戦車の排気口から真っ黒な煙が吹き出す。戦車とブラッドレーは急な坂を登っていった。
「12時方向!敵だ!」
クロードは敵を見つけた。丘から見下ろした所にイラク軍の戦車部隊があった。T-72が何両も、車体を砂に半分埋めた状態で陣形を作っている。どうやら、戦車を砲台として使い、防御陣地を作っているらしい。
「なるほど。ここで陣形を固めていたか。だが、そうは問屋がおろさん!ぶっ放せ!」
7両のM1A1の主砲が火を噴く。イラク軍の戦車部隊は敵の発見が遅れ、それが命取りとなった。T-72は車体部分を砂に埋めていたため身動きができず、米軍部隊から逃げ出す手段は無かった。だが、イラク側も黙ってやられるつもりはなかったらしい。戦車やBMPの砲塔が回転する。しかし、T-72の砲塔は手動で動かさねばならなかったため、モーターで作動するM1A1との反応速度の戦いに負けた。コブラ1が主砲を発射すると、ソ連製戦車の砲塔が空中に飛び出した。一列に並んだM1A1がバンバン撃つごとにT-72が爆発する。"コブラ1"が主砲を撃つと、T-72から身を乗り出していた車長が空中に飛び出した。更に、弾薬と燃料に引火したのか、爆発で砲塔が中を舞う。
クロードが仲間の様子を見ると、"コブラ5"のキャタピラの下で爆発が起きるのが見えた。しまった、地雷原か。クロードは舌打ちする。
「ああっ、畜生!クソッタレめ!なんてこった!」
ローウェルが叫ぶ。
「何が起きた?」
「前を見てください!」
クロードは戦車の中に入り、スコープで様子を見てみた。目の前で15両程のT-72が砲塔を動かしているではないか。
「なんてこった。仕方ない、ぶっ放せ!」
考えている暇は無い。とにかく、この場を切り抜けて、生き残らねばならない。オライリー軍曹は戦車の速度を上げ、敵戦車の間を蛇行するように操縦した。"チーム・コブラ"はイラクの戦車の中に飛び込み、それぞれの戦車が右に左に砲塔を向けながら射撃し、T-72を破壊する。"コブラ6"が15mの至近距離で敵戦車を撃ち、"パイソン1"はBMP-1に25mm弾を浴びせる。もはや白兵戦だ。誰も味方を誤射しなかったのは、奇跡としか言い様がない。戦車長たちはどれを撃てだのといった指示を特にはせず、全て砲手と操縦士、装填手に任せた。
ほぼ全員が黙りこんでいた。装填手が「装填!」と叫ぶだけで、後は砲撃とイラク軍の戦車が爆発する音しか聞こえない。戦場は大混乱となった。M1A1と破壊されたT-72がすれ違う。ボロボロになったT-72の上をブラッドレーが通過していった。
1991年 2月26日 1356時 イラク 砂漠
チーム・コブラの丁度11時方向に今度はBMPとBTRの部隊が現れた。BMP-1の砲手がこっちを見つけるより早くM1A1の主砲が火を噴く。先導する戦車が敵を片付けていったため、ブラッドレーの出番は今回は無いかに思われていた。
「こちらコブラ1、全車両、残弾数と燃料を報告せよ。こちらはセイボー31、HEAT36。燃料は67%」
「こちらコブラ2、セイボー36、HEATは37。燃料71%」
次々に報告が入ってきた。どうやら思った程弾は減っていないらしい。燃料も十分なようだ。だが、念のためクロードは地図で補給部隊の位置を確認した。後方約30kmの間隔になるようついて来ているはずだが、過信は禁物だ。
「マーケット34、マーケット34、こちらコブラ・リーダー。そちらの位置を報告せよ」
「コブラリーダー。こちらマーケット34。68東方線の辺りにいます。もう少し前進したほうがよいですか?」
「まだその間隔を保ってくれ。だが、必要になったらすぐに補給できるように準備しておいてくれ」
「了解です。弾切れやガス欠になる前に呼んでくださいよ」
「わかった。交信終了」
1991年 2月26日 1407時 イラク 砂漠
「敵だ!敵戦車だ!12時方向!まだいるぞ!奴らめ。どれだけ揃えていやがる!」
"コブラ5"の操縦士。トーマス・ルーカス伍長が叫ぶ。
「全車両、前進。それから8時方向にフランス軍の戦車隊を確認。8時方向の戦車隊は撃つな。繰り返す、8時方向の戦車は味方だ」
隊長の声がインカムに響く。
「なんてこった!味方がやられた!」
今度はロバート・クレイトン軍曹の声がした。クロードはハッチを少しだけ開けて、素早く周りを見渡した。すると、フランス軍部隊の先頭を走っていたAMX-30が停止して、燃えているではないか。すぐに隣のAMX-30も爆発、炎上した。
だが、すぐに"チーム・コブラ"のメンバーは奮い立った。目の前で味方を斃され、彼らの怒りに火が点いた。そして、イラク軍に情け容赦のない鋼鉄の雨が襲いかかった。正に、彼らは『バビロンの砂嵐』と化していた。




