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1991バビロンの砂嵐  作者: F.Y
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73イースティングの戦い その2

 1991年2月26日 1153時 イラク


 砂嵐は増々酷くなってきた。視界は殆ど無くなり、赤外線カメラを頼りに進軍せざるを得なくなってきた。

「クソッタレ。ほとんど何も見えんぞ。もうすぐ目的の60東方線(イースティング)だ」"パイソン3"の砲手、ホーマー・ギブソン伍長は外の様子をじっと監視しながらぼやき始めた。

『こちらコブラ1、様子はどうだ。こっちは味方以外は何も見えない』

 クロードの定時連絡が来たので、アロウィシアス・ガーバー軍曹がこれに答えた。

「こちらパイソン4、ダメダメですね。目視では500メートルくらいしか見えません。赤外線を使えば何とかなりますが」

『そっちもか。十分注意してくれ。それから、くれぐれも味方から離れすぎないように。このままのペースを保って進軍してくれ』

「了解です」

 "チーム・コブラ"は前日までの勢いのある驀進とは打って変わって、のろのろとした慎重な進軍となった。


「ちょっと外を見てみよう」

 クロードはゴーグルとマスクを身につけ、戦車のハッチを開けた。しかし、すぐに大量の砂が吹き込んで来たため、すぐに閉めた。どうやら、この状況で外の出るのは賢明ではないらしい。

「ダメみたいですね」

 ピーター・ローウェル少尉は砂をブラシで床に払い落とした。

「だな。試してみたかったが、あの様子だと、完全に・・・・」

「こちらパイソン3!1時方向に装甲車2両!敵か味方かは不明!」

 無線でアロウィシアス・ガーバーが知らせていた。

「まだ撃つな!よく確認しろ!」

 クロードはすぐに射撃命令は出さなかった。もしかしたら、味方かもしれない。こう視界が悪いと、よく確認せずに撃ったために友軍誤射を起こす危険性がある。

 クロードは自分でもよく確認してみた。カメラのモードを何度か切り替えて確認した。はっきりとロシア製の装甲戦闘車独特のシルエットが浮かび上がった。

「いいぞ。敵だ、やれ」

「しかし、形状が確認できません」

 ガーバーは反論した。

「どういうことだ?」

「何かいるのはわかるのですが、形状までは確認できません」

 クロードはそこで、他の戦車とブラッドレーに確認させた。すると、ブラッドレーは確認できないと言った一方で、戦車からはあれはBMPだとの回答が返ってきた。

「わかった、私が左の敵をやろう。装填せよ!コブラ2は右の敵を!」


 2両のM1A1の砲塔が回転し、続けざまに榴弾を発射した。ロシア製装甲車が爆発して屑鉄となる。念のため、撃破した装甲車を近くで確認してみたが、やはり敵だった。

「こちらコブラ1、パイソン3へ。本当に確認できなかったのか?」

「ええ。影は見えたのですが、形状までは確認できませんでした」

「一体どういうことだ?斥候はそっちなんだぞ?」

 実は、この状況は他の戦車部隊でも発生していた。斥候のはずのM3ブラッドレーが敵を確認できず、M1A1エイブラムズの方が敵を確認できるという、アンバランスな事態となっていた。

「隊長、司令部からです」

 ローウェルが知らせる。

「こちらコブラリーダー。ホームプレートどうぞ」

「こちらホームプレート。コブラリーダーへ。天候がかなり悪い。よって、誤射の危険性がある以上、航空支援と砲撃支援は出せない。君たち自身だけでどうにか頑張ってくれ。それから、補給部隊を少し前進させた。30kmほど真っ直ぐ後退すれば見つかると思う」

「了解ですホームプレート。通信終了」

「通信終了」

「空からの援護は無しですか」

 ローウェルが言う。

「ああ。味方を撃つ危険性があるから飛行機やヘリは飛ばせない、ということだ」

「こちらコブラ3、敵砲兵陣地だ!自走砲がたくさんいるぞ!BTR-60もだ!」

「榴弾装填!やれ!」


 M1A1の大砲が一斉に火を吹いた。M2/3も機関砲で攻撃する。遠距離の敵を撃つ自走砲やロケット砲は火力が大きく、射程が長い一方で装甲が薄く、接近してきた戦車や歩兵戦闘車に対しては無力である。AMX30AuF1や2S1といった自走砲は小銃弾程度に耐えるだけの装甲しか持っておらず、榴弾の直撃を受けてあっさりと燃やされてしまった。BTR-60が砲弾の直撃で爆発し、歩兵はブラッドレーのガンポートからの小銃射撃で一掃されていった。この戦争は、紀元前311年にこの土地で起きたバビロニア戦争とは全く違う戦いとなった。当時は兵士たちは、剣や弓矢、槍で戦い、双方ともに同じくらいの大きな死傷者を出した。しかし、それから2000年以上経って武器は変わった。歩兵の持つ剣や弓矢は自動小銃や機関銃となり、馬車や馬に乗って戦った騎兵は、今や戦車や戦闘ヘリに乗っている。ネブカドネザル二世の軍隊がこれを見たら何と言っただろうか。いや、何も言うまでもなく、発狂して気絶したに違いない。


 "チーム・コブラ"はイラク軍の破壊を続けた。すぐ後方には燃料や弾薬をタップリと用意した補給部隊が待機していたため、心置きなく進軍し、射撃し、敵を攻撃することができる。


 1991年 2月26日 1301時 イラク 砂漠


「敵を補足!T-72!」

 "コブラ5"のジャック・ルーズヴェルト軍曹が叫ぶ。

「撃て!ぶっ放せ!」

 ドーン!T-72が爆発する。

「やったぞ!」

「まだいるぞ!2時方向にBMP」

 エメット・ハーレー軍曹は砲手が射撃している間に、次の標的を探す。

「了解です!」

 戦車の砲塔が回転し、火を噴く。装甲車は火の付いたタンクローリーのように爆発した。

「こちらコブラ1、敵は確認できず。そっちはどうだ?」

 クロードが"コブラ5"の車長のハーレーに確認した。

「もう見当たらないですね。しかし、視界はまた悪くなる一方ですね。司令部はまだ進軍させる気せしょうか?」

「ああ。あと3kmくらいか?どうなることやら、だな」

「まだこの砂嵐は晴れませんかね?」

「そいつは神様に聞くしか無いな。通信終了」


 激しい砂嵐で暫くはノロノロとした進軍をせざるを得なかった。69東方線(イースティング)に差し掛かった辺りで、クロードは陣形の変更を命じた。先ほどまで斥候として先導していたブラッドレー4両を下げて、7両の戦車を前方に展開させて戦車が盾になる陣形を取らせた。T-72に不意に遭遇した場合、ブラッドレーはまともに戦えないと判断したためだ。しかし、目標であった70東方線(イースティング)で彼らは止まることは出来なかった。

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