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1991バビロンの砂嵐  作者: F.Y
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プロローグ 出港

 1990年 11月14日 0641時 ノーフォーク海軍基地


 早朝のノーフォークは慌ただしさを増していた。駆逐艦、巡洋艦、空母、更にはアメリカ海軍最古参にして最後の戦艦『ミズーリ』もそれに含まれていた。

 物資が次々と運び込まれ、砲弾の他、ハープーン、トマホーク、スタンダード・ミサイル等、最先端のハイテク兵器も積み込まれていく。その中で、ひっそりと、しかし重要な役目を担う艦があった。ニューポート級戦車揚陸艦"ピオリア"だ。就役したのは1970年と古参ながら、未だに現役だ。他の艦はペルシャ湾に展開し、ミサイル攻撃や艦砲射撃の時をひたすら待つ事になる。が、この艦の目的は『積み荷』をサウジアラビアに届けることであった。そして、その『積み荷』が何台もの巨大なトレーラーで運び込まれてきた。


 『積み荷』は黄色っぽい巨大な金属の塊だ。それには、キャタピラ、大砲、機関銃が取り付けられている。戦車だ。しかし、これはただの戦車ではない。M1A1エイブラムズはこれまでの戦車の歴史を覆すとも言われている。前任のM60とは、見た目で一線を画する角ばった装甲は鉄とセラミックを重ねあわせた複合装甲で、現在の砲弾で正面から貫通させることは困難だ。また、従来の105mmライフル砲は最新型の120mm滑腔砲へと換装され、最新のFCSによりM60と比較して、初弾命中精度が2倍位上にもなったとされていた。

 続いてやって来たのが、M1A1をダウンサイジングしたような車両だ。戦車のように見えるが、実は、これは戦車では無い。M2/M3ブラッドレー歩兵戦闘車と呼ばれる、装甲車のようなもので、武装は25mm機関砲が1門とBGM-71TOW対戦車ミサイルだ。これにもハイテクがたっぷり詰まっている。これはM1A1を補佐する位置づけの車両である。従来の主力であったM60を補完していたM113装甲車と決定的に違う点が武装とテクノロジーだ。まず、M113にはM2重機関銃またはMk19自動擲弾銃をどちらか1丁した搭載できなかったが、この新型兵器には25mmM242機関砲、TOW対戦車ミサイル、同軸機関銃のM240と更には車体のガンポートにM231突撃銃が搭載されており、まさしく新世代の兵器だ。これらの機械は敵にとって非常に危険な存在となる一方で、味方にしてみては、これ程心強い兵器は無いだろう。


 しかし、問題が一つだけある。乗員たちは訓練は受けていたものの、一切、実戦でこれを使ったことがなかったし、その実戦すら未経験な人間が大多数なのだ。これは、ここにいる第134戦車大隊第1小隊"チーム・コブラ"の面々もそうだった。だから、彼らは配備先のサウジアラビアに到着してすぐに戦闘訓練を入念に行うことになっていた。トレーニング・センターではシミュレーターと実射を伴わない戦闘訓練だったため、戦車兵の殆どが、まだ実戦面での不安を残していたし、何より、前の戦争であったヴェトナムでは、殆ど戦車戦が行われなかったため、それを経験していた教官たち訓練生に何を教えるべきなのか、頭を抱えていた。

 結局、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線でM4シャーマンやM26パーシングに乗っていた大先輩たちが外部からの講師として迎え入れ、机上演習を行い、それを元に実弾射撃訓練を施したのだ。約4ヶ月の訓練で、彼らは確実にレベルアップして、教官を唸らせる程の実力を付けるまでとなり、司令官から実戦投入の許可を思われていたよりずっと早く出されることになった。


 彼らが早く実戦で戦えるまでになったのは、訓練もそうだがテクノロジーによる部分も大きい。このM1A1はとんでも無いハイテク戦車で、中を見てみると、従来の戦車と違い、まずは多数のモニターが目に付く。これは外部の赤外線カメラからの映像を映し出し、夜間だろうが悪天候だろうが、確実に敵を見つけてくれる。また、主砲はコンピューターと連動しており、一度標的をロックオンすると、砲塔が自動的に回転してどこまで敵が逃げようが確実に撃破するため、初弾命中精度が極めて高い。今でも多く残っているM60A1パットンにも近代化改修としてFCSが搭載されているが、あくまでも後付けであり、M1A1には敵わないとされている。


 港の片隅で一人の若者が積み込みの様子を見ていた。アフリカ系でがっしりとした体格、長身のその男はオースティン・クロード陸軍大尉。アメリカ陸軍第134戦車大隊第1小隊"チーム・コブラ"の隊長だ。もうすぐ、彼と部下、仲間たちは戦場へ行くのだ。その仲間たちは、戦場へ行く前に家族とのささやかな一時を過ごしているが、クロードはそうではなかった。両親は共に他界し、唯一の親族と言える弟は遠く離れたシカゴで警察官をやっている。よって、彼は一人で部下たちが親族との別れを惜しんでいる様子を見ていた。

「大尉!」

一人の男が彼を呼び止めた。ゴードン・パワーズ中尉。直属の部下であり、この機甲小隊の副隊長だ。

「出港は予定通り、0800時です。しっかし、本当に撃ちあいになりますかね?」

「それはサダムと国連安保理次第だ。まーあ、やれと言われたらやるのが我々の仕事だろう。それよりも、もういいのか?まだお袋さんと話し足りないんじゃないのか?」

「あまり長引くと行きたく無くなっちまうんで。空軍や海軍はどうしていますかね?」

「サウジやペルシャ湾にもういるそうだが・・・・我らが仲間の特殊部隊(グリーンベレー)なんかは、もうイラクやクウェートに潜入しているだなんて話だ」

「さすがですね。まーあ、向こうに着いたら訓練と作戦を練ることになりますか」

「開戦が引き伸ばされれば、されるほどいい。その分、計画をより良くできるからな。サダムがアレだけやっといて引き下がるとは思えん。撃ち合いになるのは確実だな」

「ですね。」


 1990年 11月14日 0800時 ノーフォーク海軍基地


 海軍の軍楽隊が演奏する『錨を上げて』と共にテープカットが行われ、"ピオリア"が出港した。護衛として、オリバー・ハザード・ペリー級フリゲートであるFFG-49"ロバート・G・ブラッドレイ"とFFG-61"イングラハム"だ。最新鋭のミサイル巡洋艦であるタイコンデロガ級の殆どは空母の直衛であり、最新鋭となるアーレイ・バーク級は、まだ1番艦が建造中だ。

 彼が考えていることはただ1つ。部下を無事にアメリカに帰らせることだった。

 兵士たちは船には乗らず、そこからCH-47ヘリでラングレー空軍基地へと向かった。そこからは、海軍のC-9B輸送機で一度、イタリアのシゴネラ基地を中継し、さらに空路でサウジアラビアを目指すことになっていた。

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