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1991バビロンの砂嵐  作者: F.Y
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越境

 1991年 2月24日 1613時 クウェート 砂漠


 "チーム・コブラ"は進軍を続けていたが、フランク・ミュラー曹長の提案で、一時休憩を取ることにした。新たな命令を受けて7時間。いよいよ隊員にも再び疲労の色が濃くなってきたのだ。交代で見張りを立て、仮眠と食事をとった。


「それにしても、何で今更イラク領内に侵攻しろと言ってきたんですかね?」

M16A2を持って警戒に立つルイス・フィッツジェラルド伍長は今、全員が感じている疑問を初めて口にした。

それにはマシュー・アンダーソン中尉が地図を持って来て答えた。

「どれ。多分、これだろ。今、クウェートに展開しているのは言わば"下っ端"、つまりは国境警備なんかを任されている末端の部隊だ。だから、士気も低いし、装備もそれほど整っていない。多分、奴らが持っていたT-72はアレ1両だけだろう。だが、その後ろに控えているのは・・・・・」

アンダーソンは指で地図をなぞって解説を始める。

「エリート部隊の共和国防衛隊だ。問題はこいつらだ。よく訓練されているだろうし、装備も充実しているはずだ」

「つまり、こいつらを側面か背後から攻撃して叩き潰せ、ということですか」

「ああ。そういうことだ。この部隊を潰してしまえば、イラクの継戦能力を一気に無くすことになる。そうすれば、クウェートから撤退するか、降伏せざるを得なくなる、というのが司令部の考えのようだ」

「そう簡単にいきますかね?」

「上手くいくと思うか?俺は思わん」

「同感です。突破するには、かなり手を焼くでしょう」


 1991年 2月24日 1641時 イラク・クウェート国境地帯


 "チーム・コブラ"はいよいよイラク国内に突入する事になる。情報によると、その先にクウェート侵攻準備をしているエリート部隊"共和国防衛隊"がいるらしい。司令部はクウェート南部から進行する部隊と、イラクまで越境してからクウェートへ南下する部隊で挟み撃ちをする予定のようだ。考えてみると、イラク軍機を未だに見ていない。スティンガーはもしかしたら使わずに終わるかもしれない。まあ、それは非常に嬉しいことではあるが。クロードは狙撃される危険性があるにも関わらず、ハッチから双眼鏡で地平線の向こうを360度見回した。時折、ラクダを連れた隊商(キャラバン)や現地人が歩いているのを見るが、脅威になりそうなものは見かけない。しかし、あと国境まで2時間程だ。国境警備隊がいるだろうし、共和国防衛隊と遭遇する可能性だって高い。


 A-10やF-16がイラクへ飛んでいくのが見えた。どうやら、また越境して空爆するらしい。

「敵だ!12時方向!」

先導していたM3のランバートが無線で知らせてきた。

クロードは赤外線カメラで確認した。丁度、国境線の辺りだ。どうやら、ここで連合軍の進撃を阻止するつもりらしい。

「敵戦車、装甲車確認!コブラ、前へ!」


 最初に火を吹いたのはM2ブラッドレーの25mm砲だ。狙われたのはBTRだった。曳光弾が数発命中する。すぐにM1A1の主砲からも砲弾が発射された。T-62の砲塔が中を舞う。T-54の主砲が火を吹き、"コブラ7"のM1A1の正面砲塔に着弾したが、無傷で済んだ。しかし、その衝撃は凄まじいものだった。

「うわっ!」

「くそったれ!」

乗員たちは様々な罵り言葉をまき散らした。

「この野郎!よくも俺の戦車に傷を付けたな!許さん!ぶっ殺してやる!」

操縦士のケイシー・パークス伍長は無線がオンになっているのにも関わらず、ありとあらゆる悪口を怒鳴り散らした。

「セイボー装填!やっちまいましょう!」

ビル・ストーン上等兵がインカムで伝える。


 "コブラ7"を撃ったT-54の払ったツケはとんでもなく高く付いた。T-54の砲塔にM829APFSDSがぶつかった。貫通した徹甲弾が車中で暴れたお陰で、イラク兵はズタズタに引き裂かれ、血まみれの肉塊と化した。

 その隣のT-62やBMP-1も"チーム・コブラ"の毒牙の餌食となった。イラク兵側の1両が命中させた1発がアメリカ側の闘争心に火を付け、全力で反撃を開始したのだ。

 M1A1とM2/3は休む間もなくイラク軍側に砲弾を撃ち込んだ。劣化ウラン弾やTOWの暴風が止まらない。イラク軍の戦車が爆発し、砲塔と一緒に乗員が宙を舞う。これは『戦闘』ではなく、もはや『虐殺』であった。暫くすると、反撃が無くなったので、クロードは射撃停止を命じた。しかし、向こうにはBMPや戦車が数両、残っている。

「投降を呼びかけてみよう。無駄弾を撃つ余裕はない」

ローウェルは無線機を手に取った。

「了解です・・・・こちらコブラ1。パイソン1、奴らに投降を呼びかけてみてくれ」


 マシュー・アンダーソン中尉はメガホンを使い、アラビア語で投降を呼びかけた。

「あー、あー。こちらはアメリカ陸軍第134戦車大隊第1小隊だ。これ以上の抵抗は無駄で、死を招くのみである。車両から出てきて、両手を上げて投降せよ。そうすれば命だけは助けてやる。アッラーは無駄な争いで死ぬことを望まないはずである。繰り返す。こちらは・・・・」

アンダーソンの言葉をBMPの76ミリ砲が遮った。

「あいつらやる気だ。どうかしてるぜ」

アンダーソンはブラッドレーの車内に飛び込んで、ケネス・タナカ軍曹にぼやいた。

「そっちがその気なら仕方ないですね」

タナカはすぐにチェーンガンをBMP-1に向けて発射した。劣化ウラン弾がロシア製の装甲車にミシン目のような穴を開ける。

再びM1A1の120mmが火を噴く。T-64の砲塔が砂漠の上を紙つぶてのように転がる。コブラ7の主砲が撃ちぬいたT-72の砲塔のハッチから身を乗り出していた車長が『黒ひげ危機一髪』のように空中に飛び出した。10分の短い砲撃でイラク軍部隊は全滅した。

 

 1991年 2月24日 1859時 イラク


 クロードはGPSを見た。遂にイラクとクウェートとの国境を超えようだ。辺りはすっかり暗くなり、暗視ゴーグルやFLIRに頼らざるを得ない状態だ。おまけに風も強くなり、これから起きることの予兆であるかのように砂嵐が巻き起こった。だが、これ以上に状況が悪くなりそうだ。先程、別の戦車部隊からFLIRが故障したとの連絡があった。急遽、全ての戦車とブラッドレーの機器を点検したが、特に異常は無かったが油断はできない。やがて、辺りは黄色い砂に巻かれ、戦車部隊をすっかり覆い隠した。

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