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1991バビロンの砂嵐  作者: F.Y
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捕虜と命令変更

 1991年 2月24日 1136時 クウェート 砂漠


 「敵発見!12時方向!距離2100!T-55が6両、BMP-1が4両!」

 サイモン・レヴィンが無線で敵の存在を知らせた。

「パイソン3、パイソン4後退せよ。コブラ1とコブラ3、4、5前進」

クロードが指示を出す。

「ぶっ放せ!奴等に反撃させるな!」

コブラ1、3、4、5が徹甲弾を一斉に発射した。T-55の砲塔が飛び出し、BMP-1の車体が爆発した。

イラク兵が次々と装甲車や戦車から飛び出してきた。が、よく見ると銃を捨てて、逃げ出そうとしているようだ。

「全員、撃ち方やめ。捕虜を捕らえろ」


 3両のM1A1が近づいてきた。砲塔のハッチから身を乗り出したニック・クラーク軍曹が威嚇のためにM2重機関銃を空に向けて数発撃つと、イラク兵は全員、両手を頭の上に置いて膝を付いていた。全部で12人。クロードはM1A1の上からM2重機関銃を向けて警戒し、ブラッドレーから降りてきた歩兵たちがイラク兵を警備しているのを見守った。アンディ・マグワイヤ、ポール・ピンクニー、カルロス・ヴェガがイラク兵の死体を最初の砲撃で犠牲になったBMP-1とT-55から引っ張り出してくる。しかし、"死体"と言える程まともな人間の形をしているのは黒焦げになった一体だけで、あとは腕や脚が千切れていたり、ただの肉片となった状態でどれが誰なのか判別が付かない有り様である。

「こいつは参ったね。暫くハンバーガーが食えそうにないな」

T-55の中を見たピンクニーが言う。

「うわっ・・・・」

BMP-1の中を見たカート・ビューレン上等兵は砂の上に朝食をぶちまけた。

「おいおい、お若いの。今度、戦車にやられたBMPの中を覗くときは飯を食っていない時にするんだな」

ブレイン・ディロン軍曹が注意した。

「そうしておきます・・・・」

ビューレンは青ざめた顔のまま、M16を持って見張りに戻った。


 「捕虜を移送するために本部にヘリを寄越すよう言ってくれ。人数は12人。全員が負傷なしと伝えてくれ。海兵隊でも陸軍でも何でもいい」

クロードは長距離無線機を持ったカルロス・ヴェガ上等兵に指示を出す。

「了解です・・・・ホームプレート、ホームプレート。こちらチームコブラ」

「こちらホームプレート、どうぞ」

「捕虜12名確保。ヘリでの移送をお願いします」

「了解。座標は?」

「ノヴェンバー29.0962101、エコー46.7164836、15Z(ズールー)

ヴェガはGPSの座標を読んで伝えた。

「こちらホームプレート了解。海兵隊を1時間で送る。その場で待機せよ。何か必要なものは?」

「M1A1とブラッドレーの燃料を持ってきて下さい。それから、120mm徹甲弾(セイボー)、25mm機関砲弾とTOW、C-4、水と食料、テルミット爆薬も頼みます」

「了解。すぐに用意させて、海兵隊に持って越させよう。1時間もしないうちに持ってこれるはずだ。ホームプレート通信終了(アウト)

「こちらコブラ。通信終了」

ヴェガは無線機のスイッチを切り、クロードに報告した。

「海兵隊が来ます。前哨基地が近くにあるようで、1時間後にはで来るそうです」

「それまでに"ヤバい奴ら(バッドガイ)"が来ないことを祈ろう。戦車で全周警戒陣地を作れ。しかし、何かあったらすぐに移動できるようにはしておけ」

「了解です。では、まずは戦車とブラッドレーの配置を考えましょう」


 1991年 2月24日 1245時 クウェート 砂漠


 捕虜を載せたCH-53DスーパースタリオンとAH-1Wコブラが離陸した。これからサウジアラビアの捕虜収容所に向かうらしい。

「全部破壊しろ。奴等に何も残すなよ」

クロードはテルミット爆薬を生き残ったイラク陸軍の兵器に丹念に取り付けているジョージ・ジョンソン上等兵に言った。

「わかっています。きっと、紙みたいによく燃えますよ」

「そう言えば、奴らの中に将校がいなかったな。もしかしたら、本隊ではなかったのか」

「見た感じ、共和国防衛隊でも無さそうでしたね。元々は地方に駐屯していた部隊、といった感じでしょうか?」

「だな。と、いうことは共和国防衛隊はもっと後方で待っているのか・・・・」

「大尉、司令部のシメオン大佐からです。何やら、大事な話があるそうで・・・・」

無線機を持ったバリー・ワン曹長が走ってきた。クロードはすぐに無線機を手に取った。

「はい、クロードです。今、海兵隊に捕虜の移送をしてもらったところでして・・・・・ええ。平気です。皆元気です。え、なんですって?もう一度お願いします。はい・・・・了解です。そうします。通信終了(アウト)

「どうしたのです?」

ワンは怪訝な顔でクロードを見た。

「今から国境を超えろ、との命令だ」

「つまりは、イラク領内に?」

「そうだ。イラク領内でサウジから越境する第1機械化歩兵師団と合流するように、との命令だ」

「どういうことですかね?」

「さあな。途中で補給地点が確保されているようだから、そこにいる連中に何か知っていないか聞いてみよう。なぜ突然、命令が変更になったのか」

「我々は確か、直接クウェートに乗り込んでクウェートシティの解放を命令されていましたよね?」

「その通りだ。だが、今はイラク領内へ行けとの命令だ」

「気に入りませんね」

「多分、先にイラク軍の後続部隊を叩いておきたいのかもしれない。そうしたほうが背後を気にしなくても済むからな」

「そうかもしれませんが・・・・それにしても何か変ですね」

「おかしいのはその通りだが、命令は命令だ行くぞ。国境まではどれくらいだ?」

「約4時間です」

「わかった。行こう」


 1991年 2月24日 1434時 クウェート 砂漠


 第134戦車大隊第1小隊はクウェートとサウジアラビア国境を西方伝いに移動を開始した。その間に、何度か補給地点を転々とした。何か妙なことが起きている。それは"チーム・コブラ"全員が感じていたことであった。

 ガタガタと揺れる戦車の中で、クロードは地図を見ていた。見張りをローウェルと交代したところだった。一体、何が起きているのだろうか。

「補給地点が見えてきました。あと2時間ほどで国境です」

 ローウェルが知らせた。クロードはハッチから外の様子を見て、双眼鏡で位置を確認した。


 補給地点には警備のためのM2ブラッドレーが4両とM977弾薬車、M978タンクローリーがそれぞれ15両並んでいる。

 

 1991年 2月24日 1511時 クウェート 砂漠


 燃料と弾薬、食料、水の補給を終えた"チーム・コブラ"はイラクとの国境を目指した。クロードはここに来るまで、様々な可能性を探っていた。クウェートシティ解放が目的だったのに、どうして途中で命令が変更されたのだろうか。確かに後方でイラク軍がまだ控えているのは間違いない。もしかしたら、クウェート占領部隊とイラク軍本隊との分断を狙っているのだろうか。きっとそうに違いない。しかし、彼らがこの戦争最大の戦車戦に巻き込まれる事になるとはまだ誰も知らなかった。

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