突入
一気に日にちを飛ばします。そうでもしないと単調な空爆作戦を描き続けねばならなくなるのみならず、肝心の戦車戦が・・・・・。
1991年 2月23日 0021時 サウジアラビア・クウェート国境地帯
チヌークの機上で戦車兵たちが眠っている。これから始まる戦闘に備えて。命令は突然下った。機甲部隊と歩兵部隊はクウェート領内に突入し、イラク陸軍部隊を排除せよ、という内容だった。戦車やブラッドレーは再びM1070で国境付近まで運ばれた。いよいよ開戦するのだろうか。国境ギリギリの所までやって来た。チヌークが着陸すると、クロードと部下たちは目を覚まし、外に出た。すでに前哨基地が整えられ、プレハブ、テント、燃料車が並び、自分たちのエイブラムズとブラッドレーもすでに並べられていた。
「クロード大尉!まさかこんな所でお会いするとは!」
クロードが到着するなり話しかけてきたのは第63戦車大隊第3小隊"バットメン"隊長のジェイミー・ヒラー中尉だった。
「よお、ジェイミー。そのまさかだな」
「そっちはどこから突入するのですか?」
「南の方からだ。イラク陸軍とは正面から撃ちあう事になるな。そっちは?」
「西から側面攻撃です。まずは砲兵隊が道を開いてくれるようですよ」
後ろを見ると、M109パラディン自走砲やM270MLRSがすでに陣地を整えていた。どうやら戦車部隊の突入に先立って砲撃を開始するようだ。更にM198を吊り下げたCH-53Dの編隊が飛んでいく。
「海兵隊か。あいつらはどれだけ前線に大砲を持っていくつもりなんだ?」
「M60A3の部隊もだいぶクウェートに近い所に前哨基地を作っているようですよ」
「奴等は先遣隊だからな。ところで、攻撃は最初の"プランA"で間違いないんだな?」
「そうです。まず、砲兵部隊が国境地帯の敵部隊に攻撃します。それから、地雷原をC-130から投下したBLU-96で処理します。さらに、M60パンサーが道を開きます。我々はその後から付いていく、ということになります。アパッチとA-10の航空攻撃はこの国境北側の部隊に対して行います。空軍のRF-4が偵察した所、クウェート国境の611号線と628号線、つまり大尉たちの担当エリアにソ連式バックフロントの防御陣地とその後方約60kmの所にイラク軍の対空陣地があって、ZSU-23やSA-11が展開しています。クウェート国境地帯にはT-62が4個小隊程置かれていますので、最初に交戦する相手はこいつらですね。で、こいつらをぶん殴ったら、次に控えているのは2S1の陣地です」
「砲撃と航空攻撃開始は今日の2300時。翌0001時になったら越境開始。砲撃と爆撃は停止。我々の最初の接敵は0011時予定、か」
「まあ、ゆったりしていても大丈夫ですよ。この様子だと、恐らく、敵は移動しないでしょうから」
「どうしてわかる?」
「これです。さっき話したバックフロント陣地です。タンクローリーと弾薬車が3日前来たっきり、来ないのです。後はヘリが物資を輸送していますが、戦車自体は動いていません。後は兵士が周りでウロウロしているだけです」
「と、いうことはだ。こいつらは我々を待ち受けている、ということになるな」
「その通りです。戦車をただの砲台として使うつもりのようです。我々が正しい戦車の使い方を教える必要がありますね」
「よし。正面から突っ込まず、側面に展開して攻撃しよう。第2小隊と共同作戦だ。ところで、こいつは衛星写真だが、こっちの写真は誰が撮ってきたんだ?」
「グリーンベレーと海兵隊のリーコンですよ。HUMINTは大事ですよ」
「ん?M163はどうした?対空兵器はスティンガーだけか?」
「それがですね大尉。敵さんの飛行機は空軍がボロボロ撃ち落としてしまったんで、今のところ、イラク空軍の戦闘機と攻撃機は飛んでいないらしいのですよ。おまけにE-3Bが常に上空を飛んで見張っていましてね。クウェート上空の制空権はこっちのものです」
「つまり、クウェートやサウジにミグが越境しようとした時点で、空軍が飛んでいく訳か」
「ですです。F-15の飛行隊が常にミサイル満載で上空哨戒をしていますし、AWACSがクウェートに侵入したイラク軍機を発見次第、即座に撃墜に向かわせる、という交戦規定を取っています」
「よし。後は確認することは無いな。じゃあ、クウェートで会おう!」
ヒラーは去っていくクロードを敬礼して見送った。
1991年 2月23日 2300時 サウジアラビア・クウェート国境地帯
遂に砲撃が始まった。最初に攻撃を開始したのはMLRSだ。発射されたのはM26ロケットで、それぞれのランチャーに搭載された12発のロケットが矢継ぎ早に発射され、クウェート国境に終結したイラク陸軍の支援部隊が駐屯する後方キャンプを攻撃した。飛んでいったロケットは一定距離に達すると下向きに降下を始め、弾頭部を開き、大量の小爆弾をばら撒いた。降下は絶大だった。あっという間に、トラック、燃料庫、倉庫が吹き飛び、兵士を殺傷した。イラク兵は何にやられたのかわからないまま死に、負傷してホウホウの体で逃げ惑った。攻撃が収まった時は、すでに建物は破壊され、車両は炎上して使い物にならなくなっていた。
M109A6はクウェートとサウジの国境最前線に展開していた機甲部隊を自動車化歩兵部隊を攻撃した。イラクの歩兵部隊は不意を突かれる形となった。榴弾やフレシェット弾が降り注ぎ、兵士を殺し、物を破壊した。400人近いイラク兵が爆風で吹き飛ばされ、砲弾の破片で切り裂かれた。砲撃が終わった時、辺りにはちぎれた腕や脚、飛び散った臓物や破壊された車両、砲弾の破片が残されていた。
国境北側ではA-10の3個飛行隊がイラクの戦車部隊に狙いを定めた。前線から約200km後方の防御陣地だ。パイロットはT-72を優先的に狙ってマーベリックミサイルを発射し、CBU-87を投下した。ZSU-23が射撃を開始したが、すぐに粉々に破壊された。GAU-8から吐出される劣化ウラン弾が戦車の天井を蜂の巣にし、中の乗員を皆殺しにした。AGM-65はT-62を次々に丸焼きにしてドロドロに溶かした。さらに、他のA-10がイラク軍後方に飛んでいき、補給部隊を攻撃する。30mmの劣化ウラン弾が燃料タンク車や弾薬輸送車を襲う。尚、劣化ウラン弾は貫通力が非常に高いだけでなく焼夷効果もある。弾丸が車体にぶつかるとウランの粉末が飛び散る。劣化ウラン摩擦等で燃えやすいため、粉末状の燃えるウランが車内に飛び散る、という現象がしばしば起こる。発火したウランが弾薬や燃料に引火すると、そのまま爆発を引き起こして中の兵士を焼き殺した。これで国境地帯のイラク戦車部隊とその後方にいる支援部隊は完全に寸断された。
1991年 2月24日 0008時 クウェート領内
遂にアメリカ陸軍第134戦車大隊第1小隊"チーム・コブラ"は国境を超えた。IFF用に戦車や装甲車の砲塔の後ろの荷台に星条旗を載せ、砲塔の天井には反射板を取り付けている。
「こちらコブラ1、敵を見つけたか?」
クロードが味方に聞く。
「こちらコブラ2、影も形もない」
パワーズが答える。
「こちらパイソン3、先に行ってちょっと見てきま・・・・待ってください!10時方向!距離2300!BMP-2が4両!」
「こちらコブラ1!確認した!HEAT装填!」
「了解!HEAT装填!」
オットー・バーキンが大声で返す。
「コブラ2、西側左の敵をやれ。コブラ3とコブラ4は東側を!」
「了解!コブラ2、射撃準備完了!」
パワーズが応答する。
「コブラ3、装填完了!」
「4、準備よし!」
フランク・ミュラー曹長とロバート・クレイトン軍曹が叫ぶ。
「撃て!」
ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!四両の戦車の発砲炎が闇夜の砂漠を一瞬、明るくてらした。HEAT弾は目論見通りの効果を発揮した。BMPの横っ腹全弾命中し、再起不能にした。
「命中!さらにT-62を3両、タンクローリーを2両確認!」
フランク・ミュラー曹長が報告する。
「コブラ5、6、7、セイボー装填!戦車をやれ!パイソン1、パイソン3はタンクローリーを!」
パワーズが矢継ぎ早に指示を出す。
コブラ5の砲手、ジャック・ルーズヴェルト軍曹がソ連製の平べったい砲塔の戦車に狙いを定めた。赤外線カメラの白黒映像に敵戦車の姿が浮かぶ。狙いをつけて発射した。凄まじい轟音を衝撃が戦車を襲う。その1秒後にはT-62が燃え上がり、すぐに爆発して砲塔が空高く飛び出した。
ケネス・タナカ軍曹はチェーンガンの引金を絞った。25ミリの弾丸がタンクローリーを破壊した。その隣でM1A1の120mm砲が火を吹き、敵戦車を血祭りに上げた。
「おい!やったぜ!奴等をやっつけたぞ!」
兵員輸送室でその様子を見ていたジョージ・ジョンソン上等兵は興奮気味に叫んだ。
「おい、お若いの。まだまだだ。油断するんじゃないぞ」
タナカが注意する。
「ピーター!11時方向、T-72だ!もうやって来るとは!セイボー装填!」
クロードが見たものは紛れもないT-72のそれだった。T-64やT-55と比べると、明らかに砲塔が一回りほど大きい。ただ、今見えているのはこの1両だけだ。
「装填よし!セイボー!」
バーキン上等兵が大声で宣言する。
「撃て!」
ローウェルは大砲からM829を発射した。劣化ウラン弾はT-72の砲塔と車体の間に潜り込むと、マッシュルーム状に削られながら貫通し、やがて弾丸の長さが元の3分の1程になったところで車内に侵入した。M829はそのまま車内を跳ね回り、中にいた乗員全員を死亡させ、更に燃料タンクに入り込んで発火させた。引火したディーゼル燃料が爆発し、戦車を炎上させた。
「やったぜ!T-72を撃破!みんな聞いてくれ!セイボーならばT-72は撃破できるぞ!司令部にも連絡しろ!」
まさかここまでうまくいくと、彼らは思ってもいなかった。夜が明けるまで、チーム・コブラは10両の戦車、24両の装甲車、7両の支援車両を撃破した。しかし、戦争はまだ始まったばかりだった。彼らが進む先には精鋭の共和国防衛隊が待ち受けていた。




