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1991バビロンの砂嵐  作者: F.Y
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クウェート航空戦

暴れまわる多国籍軍のパイロットたち。一方、なかなか出撃命令が出ない地上部隊の兵士は更なる待機を命じられていた・・・・・。



 1991年 1月20日 1411時 プリンス・スルタン空軍基地


 地上部隊の海兵隊員や陸軍兵を尻目に、空軍の戦闘機が離陸していく。地上部隊員は不満タラタラだった。パイロットばかりが戦闘に参加し、自分たちの出番が全く持って無いのだ。砲兵部隊がM109やM270での砲撃をさせるよう司令官に提案したが、却下されてしまった。特に、陸軍兵はグリーンベレーやデルタフォース、レンジャーを除いたら輸送部隊しか動いておらず、全くもって戦地へ行く兵士がいないのだ。


 「いつまでもこうしてポーカーばかりじゃ体が鈍りますよ。昔から言うでしょう?戦争は航空戦では勝てない。地上戦で勝敗が決まるって」

ビル・ストーン上等兵はカードの束を置いた。確かに、訓練は行われて入るが、開戦してから急速にその頻度が減っていった。

「ううむ。あそこの海兵隊の射撃場へ行ってみるか。ところで、訓練はいつになるんだ?」

ハワード・ファーマー軍曹も退屈そうだった。しかし、このまま終わるのであれば、それはそれで良いとも思っていた。無用な危険を犯さず、家族の元へ帰れる。

「大尉に聞いてみましたが、航空作戦の状況次第ですね。それに、すぐに作戦投入になる可能性だってありますし・・・・」

離陸したF-15の轟音が二人の会話を数秒、かき消した。アメリカ空軍、サウジ空軍のイーグルが次々離陸していく。

「空軍はまず、空爆を続けつつイラク空軍機を排除して完全に上空を抑えるつもりのようです。そうすれば、我々がSu-25(フロッガー)Mi-24(ハインド)に狙われずに済みますから」

「あんなのに狙われたらひとたまりもないよ。まずは制空権を取ってから、だな」

「そうですかね?」

「当然だろ。空を抑えて、それから地上を制圧する。敵の攻撃機やヘリが襲ってくるようじゃ、おちおち戦ってもいられない。ハインドが来る度に煙幕を張って逃げているようじゃ、全くもって意味が無い」

「一応、スティンガーも幾つか持っていくようにはなっていますが、気休め程度にしかなりません。M163もありますが、我々には付いてこないようです」

「まあ、空軍に期待するしか無いか・・・・・」


 1991年 1月20日 1423時 クウェート上空


 アメリカ空軍とサウジ空軍のF-15C、アメリカ海軍のF-14Aの編隊がクウェート上空で空中哨戒(CAP)をしているイラク空軍機の排除に向かった。後ろからはE-3Bセントリー空中警戒管制機(AWACS)が1機、警戒に当っている。この飛行機はいわゆる『空飛ぶ管制塔』で、戦闘機のレーダーの探知範囲外での敵機の動きを捉えて、味方に警告する役割がある。E-3は早速、クウェートに侵入した敵機を捉えた。

「レッドバード及びヘラクレス、スーフィー編隊(フライト)とシーガル・フライトへ。マッハ1.5で8機の敵機を確認。MiG-29のようだ。注意せよ」

「こちらレッドバード1了解。全機、聞いたか?」

「2了解」

「3」

「スーフィー1よりレッドバード・フライトへ。右の編隊を攻撃する。そちらは左の編隊を頼む」

「こちらレッドバード1。了解。みんな、聞いたな?我々は向かって左のミグを攻撃する」

今度は僚機はジッパーコマンドで返事をした。

「こちらヘラクレス1、更なる編隊を確認。4機だ。こっちは我々がやる」

トムキャットの編隊が攻撃準備をする。

「レーダーロック!Fox1!Fox1!」


 最初に攻撃したのはF-14だ。AIM-54フェニックスが次々発射される。この長射程ミサイルは200km以上もの射程を誇っており、更にアクティブレーダー誘導による"撃ちっぱなし"性能もある。よって、発射すればすぐに回避行動に移ることができる。イーグルもAIM-7スパローを発射した。ヴェトナム戦争の頃は命中精度に欠け、散々叩かれたミサイルであったが、今回使用されたのは改良型だ。まず、射程が延長され、より遠くから敵を攻撃できるようになった。誘導装置も改良され、電子妨害に強くなり、途中で敵を見失うような事も少なくなった。スパローは25年前の悪評を数秒後に払拭した。


 イラク空軍のパイロットは不意を突かれた。まさか視界外からの交戦を連合軍が許可されているとは思ってもいなかったのだ。ロックオンされた機体のパイロットはパニックに陥り、勝手に編隊から外れて逃げ出した。部隊は統制が取れなくなり、その結果は散々なものに終わった。あっという間に飛行隊の半数が撃墜された。混乱のさなか、MiG-25とミラージュF-1が空中衝突した。MiG-29がスパローに捕まって叩き落とされる。MiG-29はドッグファイトではF-15やF-16に勝つことができるとされていた。しかし、視界外(BVR)攻撃ミサイルに狙われては、その運動性も意味がなかった。イラクの戦闘機がボロボロ撃墜され、無事に帰還できたのは3機だけだった。機関砲とサイドワインダーは、この2つが必要になる程、双方の戦闘機が接近しなかったため使われなかった。


 イラク空軍機はこの短い戦闘で多数の戦闘機を失い、クウェート上空の制空権を手放さざるを得なくなった。しかし、航空戦だけで戦争に勝ったかと言えば、それはまた別問題である。

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