Operation Desert Storm
1991年 1月17日 ペルシャ湾 0041時
戦艦"ミズーリ号"がBGM-109トマホーク巡航ミサイルを発射した。これは、海軍が導入した最新鋭兵器で、主に水上艦と潜水艦から発射する。GPSと慣性誘導装置により、誤差約10メートルの範囲内に着弾すると言われている新兵器だ。とは言え、この兵器は実戦で発射されたのは今回が初めてだ。どんな結果をもたらすかは、神のみぞ知るところだ。
ディエゴガルシア島から飛び立ったB-52Hがイラクへ接近した。ヴェトナム戦争ではナパーム弾を空からばら撒いていたが、今回の役目は違っていた。武器は機内の爆弾倉ではなく、左右それぞれの翼のハードポイントに3基まとめて搭載したAGM-86C空中発射巡航ミサイルだ。B-52は射程圏内に入った途端、全てのミサイルを発射した。ミサイルは予めプログラムされた目標目掛けて猛スピードで飛んでいった。
イラクの空に奇妙な飛行機が近づいていた。この飛行機はニューメキシコ州ホロマン空軍基地を飛び立つと、空中給油を繰り返し受けながらイラクへと飛行して行き、厳重な防空網守られたバグダッドへと飛んでいった。このF-117A攻撃機はステルスと呼ばれる新しいテクノロジーを利用した飛行機だ。名称記号は戦闘機を表す"F"を付けられているが、実際は空戦能力は無く、レーザー誘導爆弾であるGBU-10またはGBU-27か無誘導爆弾のみを搭載する、実質上は攻撃機である。ステルス性を持たせるため、レーダーは搭載せず、爆撃に使用するセンサーは前方監視赤外線装置と下方監視赤外線装置のみである。パイロットは目標に到着すると、秘話回線で地上にいる陸軍特殊部隊の隊員に予め決められた合言葉を伝えた。
1991年 1月17日 バグダッド 0103時
グリーンベレーの隊員はF-117Aのパイロットからの通信を受けると、返信せずにSOFLAMという金属の箱のようなものをバッグから取り出した。それは特殊作戦用のレーザーポインターで、レーザー光の1つ1つの周波数が暗号化されており、敵による欺瞞や妨害を防ぐように出来ている。狙いは軍の通信センターだ。F-117は目標を確認すると、GBU-12を投下した。
GBU-12は最新鋭の誘導爆弾で、500lb爆弾のMk82、セミアクティブ・レーザーシーカー、コンピューター制御装置、操向用カナード翼から構成されている。この爆弾は投下されると、まず反射されたレーザー光を探した。やがて、目標を捉えるとカナードを動かして、そこに突っ込むように調節した。
特殊部隊員は爆撃の成果を目撃した。ドーン!衝撃波はかなり離れたここでも伝わってきた。火の手が上がり、夜のバグダッドの空を赤く染める。程なくして空襲警報のサイレンが鳴り響き、対空砲火が始まった。しかし、爆撃した当のF-117Aはすでに市街地上空から飛び去っており、後の祭りであった。
更なる攻撃がバグダッドを襲った。ALCMとトマホークだ。遥か彼方から飛んできたミサイルは正確にターゲットを破壊した。巡航ミサイルは慣性誘導装置とGPSを利用して、予めプログラムされていたコースに従って飛んでいた。初の実戦だったため、発射した爆撃機または艦艇の乗組員は固唾を呑んでミサイルに取り付けられたテレビカメラの中継映像を見守っていた。巡航ミサイルは速度がおよそマッハ0.8~0.9と遅く、途中で対空砲火に撃墜される恐れがあった。だが、トマホークは完璧に役割を果たした。まず、単弾頭型が通信センター、軍の司令部、国防省の建物を破壊した。ALCMは主に軍の基地を攻撃した。そして、この様子はCNN、BBC等世界のあらゆるニュース・ネットワークで放送された。
1991年 1月17日 イラク上空 0126時
今度はイラクの防空網が狙われた。攻撃をしたのはアメリカ空軍のF-4GとEF-111だ。使われたのはAGM-88HARMだ。このミサイルは、レーダー波の発信源に向かって飛翔するパッシブ・ホーミング式のミサイルだ。つまり、レーダーを使い続けていると、自分でミサイルを引き寄せてしまうことになる。そのことを全く知る由もないイラク軍は、そのままレーダーを動かし続けたため、結果的に防空網を"自滅"させる結果となった。そして、この事はイラクの防御体制に更なる穴を作ることになった。
この日の空爆は夜が明けるまで続いた。更にこの空爆は1ヶ月以上続く事になった。




