ペルシャ湾上空戦
前回の話から一気に日にちを飛ばします。年が明けました。それから、待ちに待った(何が)戦闘シーンです。※ここは作者の創作となります。史実ではありませんのでご注意下さいm(_ _)m
1991年 1月6日 1321時 ペルシャ湾 空母セオドア・ルーズヴェルト
「こちらエイモス04、国籍不明機が4機、高速で南下中。イラク国内から発進したと思われる。恐らく、ミラージュF-1と思われる。十分に注意せよ」
「了解エイモス04、迎撃機を待機させる」
クウェートの海岸線付近で哨戒飛行をしていたE-2Cが不明機を2機、レーダー上に捉えたようだ。今までのところ、イラク空軍機はイラクとクウェート上空を哨戒飛行しているだけでサウジアラビアやイランに領空侵犯を仕掛けたり、多国籍軍の艦艇部隊を哨戒機で偵察に来たりするだけだ。だが、今回はなにか違うようだ、とレーダー管制官は思った。挑発に来る時はいつも単機なのに今回は2機で来ている。
「こちらエイモス04、さらに敵機を2機確認。MiG-23のようだ。このままのコースだと空母まであと20分だ」
管制官のジョン・フェルナンデス少尉はレーダースコープを見た。確かに、こっちに真っ直ぐ敵機は向かってきているようだ。
「艦長が艦橋に」
当直士官の一人が大声で宣言した。その場の全員が敬礼をして艦長を迎えた。
「どんな様子だ。奴等め、いよいよ我々と戦うつもりか?」
リチャード・ウォルシュ大佐は少し心配そうに言った。今までのイラク軍機と明らかに違う動きに神経を尖らせているようだ。
「上空を哨戒中のホークアイが敵らしき機影を捉えました。こちらを目指している可能性が高いそうです。ヴァイキングとシーホークからの報告によれば、下の方は静かなようです。しかし、今の敵機は明らかにこっちを目指しています。艦長、もしあれが・・・・」
「わかっている。イラクのMiG-23ならエグゾセを搭載している危険性がある。迎撃機は待機済みか?」
「ええ。ホーネットが2機、ミサイルフル装備で命令があれば3分もしないうちに飛んでいきますよ。さらに、予備としてトムキャットが2機、すぐに発艦できるように準備を完了しています」
「よし、上げろ」
待機していたF/A-18Cがエンジンの回転を一気に上昇させた。補助動力装置を常に回し、パイロットがコックピットで待機していたが遂に出番が来たようだ。緑のジャージを着た水兵が誘導された機体とカタパルトをホールドバック・バーでつないだ。赤いジャージの武器担当兵がAIM-9LとAIM-7Pから安全ピンを抜き、パイロットに掲げて見せる。そして、エア・ボスが離陸許可を出した。白いジャージの安全管理員が他のクルーに機体から離れるように指示を出し、機体の近くに人が入らないように『通せんぼ』した。最後に発艦装置士官が指でピストルの形を作り、空母の先端を指す。発艦準備完了だ。パイロットは敬礼をすると操縦桿から右手を離し、コンソールに置いた。
「射出準備よし。甲板作業員、航空機周辺から退避完了。逃げ遅れたものは?」
「いません。全員、飛行機から離れました。発艦OKです」
「退避完了、カタパルトOK。発射、行って来い」
エア・ボスが指示をすると、F/A-18Cが矢継ぎ早に甲板から飛び出した。
「ファルコン01、ファルコン02、ランス03と04に合流してから会敵せよ。二対四ではいくらなんでも不利だ」
「了解、こちらファルコン01、合流まで待機」
「02」
1991年 1月6日 1325時 ペルシャ湾上空
ランス03とランス04もすぐに発艦した。敵は4機だったため、米軍側も数をあわせて4機出撃させたのだ。ホーネットとトムキャットはフィンガーチップ編隊を組んで敵機のいる方向へE-2Cの誘導で飛んでいった。
「エイモス04よりランス・フライト及びファルコン・フライトへ。4機の敵機は未だに空母の方向を目指して飛行中。方位346、距離34、エンジェル17、マッハ0.6で巡航中」
「ランス03、了解した。交戦規則は?」
「空母から300km以内に接近した場合は発見次第、撃墜せよとのことだ。敵の狙いは空母の可能性が高い」
「了解した。敵機はこのままだと、空母を射程に入れるまで20分。繰り返す。空母はあと20分でミサイルの射程に入る」
1991年 1月6日 1327時 空母セオドア・ルーズヴェルト
「艦長、まずいですよ。どうします?」
副長は少し不安気な様子だった。まだ戦争状態になっていないとはいえ、対艦ミサイルを搭載した攻撃機が空母に真っ直ぐ向かっているのだ。
「くそっ、なんてこった。一度、警告させて・・・・」
しかし、そんな艦長の思惑を無線交信が破壊した。
「こちらファルコン01!レーダー照射を受けた!こっちをロックしようとしている!」
「構わん!敵対行動をしたとして、奴等を撃墜しろ!逃すな!」
ウォルシュは今度は何も余計なことは考えなかった。
1991年 1月6日 1329時 ペルシャ湾上空
ランス03のF-14AはAN/AWG-9で敵機をロックした。兵装はAIM-54フェニックスを選んだ。
「こちらランス03、ロックした。そっちはどうだ?」
「ランス04、レーダーロック」
「ファルコン01、スパロー発射準備完了!」
「02」
「ターゲットロック・・・Fox1!Fox1!」
AIM-54とAIM-7がそれぞれ2発、ミグに向かって飛んでいった。
ミグのパイロットはミサイルの発射を感知すると、すぐに回避しようとした。しかし、ミサイルはどこまでも追いかけてくる。1機のミグは急上昇してから反転し、さらにチャフを撒いたが、スパローに追いつかれて爆発した。スパロー1発は途中で不調をきたしたのか、敵を逃してしまった。しかし、ほかの3発のミサイルはきちんと役目を果たした。
「クソッ、1発外した!奴はどこだ?」
ランス04のパイロットは大声で毒づいた。その直後、ミグが猛スピードですれ違った。そして反転し、米軍機に狙いをつけた。
「いた!6時方向!こちらランス04、奴は俺の後ろにいる!クソッタレ!こっちを狙ってる!」
ランス04はミグがこっちに反転してくるのを見た。あれはMiG-23だ。F-14と同じように可変後退翼をもつ、ロシア製の迎撃戦闘機。一世代ほど昔の戦闘機であるが、それでもそれなりの性能を持っていることは間違いない。ランス04は急上昇した後、スプリットSで振り切ろうとした。ミグのパイロットは無理はせず、そのままターンをしてF-14をとらえようとした。距離はだいぶ縮まっている。しかし、目の前のトムキャットは思わぬ行動に出た。いきなり翼を広げ、急な迎え角をとる"コブラもどき"で急減速したのだ。イラク人は急に敵機との距離が縮まったことに反応できず、衝突を回避しようと操縦桿を左に急に切った。そして、それがイラクのパイロットにとって命取りとなった。MiG-23はきりもみ状態なり、そのまま落下していった。パイロットは射出したものの、ひっくり返った状態でパラシュートが開いたため、機体と一緒に海に激突した。
「やったぜ!ざまあみろ!ぶっ殺してやったぜ!」
ランス04は初撃墜を記録した。しかも、ミサイルを使わずマニューバーキルという、極めて難しい方法でだ。
「エイモス04よりランス・フライト及びファルコン・フライトへ。敵機は全滅した模様。他に機影は見当たらない。全機、帰投せよ」
昼間に行われた空中戦はアメリカ海軍の勝利に終わった。帰還したアヴィエイターたちは仲間たちから賞賛とやっかみの歓迎を受けた。




