電話と交友関係
「うん――、私もよくお姉ちゃんと電話するんだけど、――その日のお姉ちゃんは少し元気が無くてね」
ごめんね、春。約束、守れないかもしんない
「――それだけいって、電話が切れたの」
「約束?」
「ええ」
「約束、ってなんだ?」
「……心当たりがない――わけじゃないけど、お姉ちゃんとの約束っていったら、――私がお姉ちゃんと一緒な学校に入って、一緒な部活にはいって、一緒にお昼ご飯食べて……、つまり、家から出て、一緒な学校に入って学校生活を楽しもう……ってこと?になるのかな……」
つまり、とらえ方によっては、
『いっしょに学校生活を楽しめない
――その時に自分は死んで、居なくなってるから――』
と、そういう意味にも聞こえる。
「じゃあ、そのときから、お前の姉さんは自殺することを決めてた、って言うのか?」
「それは、わかんない――次の日にその理由を聞いても「あれは、忘れて、ちょっと弱気になっただけだけら」……って言って、私もそれ以上詳しく聞けなかったから……」
ふむ――たしかに、おかしな電話だ。
僕は鞄から、愛用のメモ帳にお気に入りの万年筆を取り出し、
・多輪島の入学前に姉の身に「何か」があって自殺せざるおえなくなった
・多輪島春が言うには自殺する理由もなかった。
・他人に強要されて自殺という可能性は薄い
そう、書き加え、多輪島の方へ向き直った
「それじゃあ、まず、多輪島の入学前に、多輪島の姉の身に何があったのか? それを調べる必要があるな」
「うん、それが一番いいと思う」
しかし――調べると言ってもかなり骨である。姉の交友関係や、部員、担任なんかに話を聞けば早いのだが……
「――多輪島、分かるか?その、姉の交友関係とか……?」
「うん、分かると思う。 これ――」
そう言って、多輪島は鞄の仲から、折りたたみ式の携帯電話を取りだした。
どうでもいいが、よく見ると多輪島の鞄は某りんご三つ分の猫のキャラクターの描かれた、えらくかわいいものだった。……本当にどうでもいいけど。
「お姉ちゃんの携帯。 友達のアドレスが入ってる」
「なるほど、見てもいいか?」
「ええ、どうぞ」
かち、という懐かしい音とともに携帯電話を開く、なんとかアドレス帳の項目を探し出し(なれない携帯は使いづらい、ただでさえ自分の携帯も使いこなしていないのに……)
アドレスの数を見ると
445件……
…………。
は?
えっと……あの……
え、多くない?
交友関係の多い人ってこんなもんなの……?
これが、普通なの?
仕事をしているのならまだしも、学生でこの数は、多くないですか?
いや、僕の交友関係が少なすぎるのかもしれないが、たぶんこれの四分の一……下手すると五分の一も無いんじゃないか?
「多輪島――」
「なに?」
「多いよな、この数……」
「……多いね」
「……おまえ、多輪島、何件?」
「………聞かないでくれる……?」
本気でへこむ多輪島。
「……すまん」
ほんと、すまん……いや、僕も人のこと言えないけど……
「……」
「……」
気まずい沈黙。
「あ、ああそうだ、多輪島、アドレス交換しとくか、何かと便利だし!」
「そ、そうね、うん、それがいいね!」
とりあえず、僕らはアドレスを交換した。
やりきれない気持ちを胸にかかえて……