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自殺の強要

「二人暮らし、か」


「うん、私とお姉ちゃん、お母さんとあんまり仲がよくなかったから、お姉ちゃんが高校に行くとき、二人で決めたの……家を出て、二人で暮らそう、って」


それで――妹の多輪島が高校に受かり、晴れて二人で暮らせるようになったときに


彼女は自殺した


遺書もなく


親しかった妹には、何のそぶりも見せずに……


確かに、不自然だ。


「……例えば、お姉ちゃんが自殺するわけが無いから――たとえば、誰かに自殺を強要された……ってことは、あると思う?」


多輪島が不安気に、そう問う。




その問いに僕は、






「それは、ありえない」

そう、きっぱりと答えた。







「警察は自殺に間違い無いって言ったんだろ?」


そう……状況は明らかに自殺だった。らしい。


警察も馬鹿では無い、丹念に遺体の状況をしらべ彼女の死を「自殺」と判断した。


遺体の状況から見て、誰かに無理矢理「首をつらされた可能性」はきわめて低く、あくまで自らの意思で行為に及んだ、ということだったらしい。


警察もプロである、些細な点……たとえば、彼女が無理矢理自殺に見せかけて殺された、とすれば、何らかの痕跡が残るだろう。


――たとえ、巧妙に計画を立てて痕跡を残さないようにしたとしても――それこそ、僕たちの出る幕では無い。警察が見つけられなかったものを素人が――それも何の経験も無い素人の高校生が見つけられるとは思えない。


しかも事件は一年以上も前に起こったのだ。遺体も無ければ現場の保存などしていない。


――今から探すのは不可能だろう。


それに


「たとえば多輪島、おまえが誰かに、「自殺しろ」って言われたらどうする?」


「え?」


「僕なら、絶対に、しない。たとえ自分の肉親に言われてもね」


仮に僕が追い詰められ、自殺を強要されたとしたら……僕の行動は一つだ


死にものぐるいで抵抗するだろう。


何しろ、相手の要求は「死」なのだ。


賭けるとすれこれば、以上の掛け金はない。


たとえ相手の数人で、勝ち目が無かろうとも……要求が「死」なのであれば、少しでも助かる確率の多い方にかけるだろう。


僕なら相手を殺してでも抵抗する。


「自殺しろ」といわれたところで、ほいほいと自殺する人間がいるとは思えない


――本人に、自殺願望でもないかぎり……は。


――否、自殺願望があろうとも他人に強要されて自殺などするとは考えがたい


――それは、自分自身が生きてきたすべての価値を他人にゆだねたということだからだ。


他人に強要されての自殺というなら――それこそ本当の「自殺」だ。


自殺とは肉体を殺し、――心を、精神を、プライドを守る、行為だ。


生きるだけなら、地を這い、ゴミ箱をあさり、泥水をすするだけでも生きていける。


しかし、人間は考えることが出来る。


考えれば、他人と自分を、比べる。


比べて、優劣をつける。


そして、自身の心の価値を――自身で決めるのだ。


そして――自身を自身で傷つける。


自身の心の価値を勝手に自身で決め、自身の精神を傷つける。


心が、精神があるから自殺をするのだ。


本当の意味で自殺などする生き物など、人間だけだろう。


自殺なんてものは――、自身を他人と比べて、その価値観という勝手な物差しで自身を測り、その現実と自身の理想の差に耐えられなくなったものが――肉体を殺し、精神を――考えることを強制的に遮断する行為だ。


自殺は、絶対的に、自分を守るための、世界で一番、自分勝手な行為なのだ


他人に強要されて、自殺。


少なくとも僕なら――否、人の理性があるのなら、絶対にそんなことはしない


僕が自殺するのなら、完全に完璧に、自身意志で――我が儘で――自分勝手で――何

の後悔も無く――笑って、笑って、笑って、嗤って、自殺するだろう。


だから、僕には――他人に強要されて自殺など、絶対に考えられない。



「……九島君?」

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