都市伝説研究部
「うん? アラモードおかわりか? 久ねえ!さっきの液状化した石炭のおかわりを・・・・・!」
「ちがう・・・・・・ほら、さっき何か聞きかけてたから」
と、口をナプキンで拭き、多輪島は再び口元をマフラーで隠しながら不機嫌そうに、そう言った。
「なにが聞きたいの?」
多輪島の顔から先ほどまでアラモードを食べていた時の笑みが消え、僕をじっと見つめながらそう言った。
・・・・・・何から聞くべきだろうか?
こういう聞き込みというのは、せいぜい推理小説やドラマの知識くらいで実際の場面に遭遇すると、何を聞けばいいのか迷う。
「そうだな、まずはおまえの姉さんの人柄や、自殺した当時の様子や状況を詳しく話してくれないか?」
この辺りが、妥当な所だろう。
「・・・・・・そう。それじゃあ、まずこれを見て」
と、多輪島が胸ポケットから生徒手帳を取り出す。そこから一枚の写真を引き抜き、僕に手渡した。
写真を見る。
――これは、夏の海だろうか?砂浜で一人の白いワンピースの女の子が満面の笑みで手を振っている写真である
この女の子の顔は……
多輪島!?
あまりに多輪島に似つかわしくない服装に、太陽のようなさわやかな笑顔で、一瞬分からなかったが、これは紛う事なき多輪島春だ。
「お姉ちゃんの写真よ」
「……」
紛うていた……
「・・・・・・・なんで、そんなにおちこんでるの?・・・・・・あのね、この写真みれば分かると思うけど、お姉ちゃんは私と違って明るい性格をしてて、自殺なんかするような人じゃ無かった、友達も沢山居たし、いじめの線も薄いと思う」
ふむ――確かに写真の女の子は、陰を感じさせない、見るからに明るそうな女の子だった――僕は実際に多輪島の姉のことは知らないし、この写真だけの印象だけではなんとも言えないが、なんとなく――この女の子は自殺とは無縁だ、とそう思わせるには十分な一枚だった。
しかし、実際に、自殺した。
――確か、あの事件での警察の見解は
「思春期特有の敏感な時期に、人間関係の不和や受験に対しての将来の不安が重なり、精神的に不安定になっていた、自殺に対しても、遺書が見つからないことや、自身の部屋の整理された形跡が見られないことから、突発的なものだろう」
というものだった。
少々ありふれ過ぎて拍子抜けするような理由だが――警察は状況的に他殺はあり得ない、と判断したことから、事件性はないと考えたようだ。
事件性が無ければ、一生徒の自殺の理由などいちいち調べ上げるほど警察も暇では無かったのだろう。
無難な理由を作りあげられ、捜査はあっさりと打ち切られた。
「……じゃぁ、受験の悩みという線は?」
「お姉ちゃんの成績は、いつも学年で三位以下には下がったこと無かったから……」
むぅ。それで自殺されては、三位以下の生徒たちが浮かばれない。
「それに、もう一つ、お姉ちゃんが自殺なんかするわけがないっていう理由があるわ」
「――なんだ、それは」
「お姉ちゃん、都市伝説研究部っていう部活……正確には人数が足りなくて同好会なんだけど、それの部長をしてたの」
「都市伝説研究部?」
――それは、またマニアックな……さすが性格は明るくとも多輪島の姉。多輪島のことは何にも知らないんだけど。
「ちなみに、日向先輩のことを知ったのもお姉ちゃんから聞いたからよ、今この町で一番ホットな都市伝説だって」
ホットな都市伝説ってなんだ……?
しかし、それで日向彰のことを知った理由は分かった。都市伝説好きな姉の入れ知恵だったのか……
「それでね、私もこの学校に入学したら、その部活……同好会に入ることになってた、私が入れば正式な部活になる、これからは大手をふるって活動出来る、って楽しみにしてたの」
確かに、同好会であれば、部費はでない。
この学校の部費争いは熾烈を極め、同好会などは、せいぜい放課後学校に残ることを許されているだけで、部室も与えられないし、顧問もつかない。
……当然活動の範囲は狭められる。しかし正式に部活と認められれば、部室が与えられ、部費や顧問もつく、さらに功績を上げれば待遇もよくなってゆく。当然、教師の許可は必要であるが――
「お姉ちゃんも、その時は現代民族学研究部とかなんとか無難な名前にして、教師の許可を得ようと思ってたみたいだけどね」
――これで、大手を振って存分に楽しめるわ。春と一緒に
「そう言ってたの、だから私も、真剣に勉強して、お母さんの反対も押し切って、わざわざ他県のこの高校に、入学したの……
――お姉ちゃんと二人暮らしをする約束をしてね」