多輪島 春(たわじま はる)
多輪島も、僕が日向彰と知り合いであるということを、どこかで聞いたのだろう。
――お姉ちゃんが自殺した理由を、一緒に調べてほしい。
そう、彼女は言った
多輪島はの姉については、さすがの僕も知っている、――この学校で知らないものはいないだろう。それほど、彼女の姉の死は、この学校を震撼させる「事件」だった。
平凡な日常の中において、あの事件は、大きな「刺激」だったのだ。
――不謹慎にも――その「非日常」な空気を楽しんでさえいる者もいた。
僕もまた、自身の日常がどこか非日常な物語に巻き込まれたような気さえしたのだ。
結局それは、ただの日常の延長で、僕は物語の脇役にすらなれなかったのだが――
――去年の春。高校の入学式が終わり、五日ほどたったころの話である。
七竈高校の図書室で、当時高校二年だった女生徒が首つり自殺した。
自殺者の名前は多輪島秋菜。
――言うまでも無く、多輪島春の姉である。
おそらく、今の多輪島春がクラスで孤立した立場であることもその事件の影響を受けていると思う。
何しろ姉が自殺したのは多輪島春は高校入学直後のことだっだ、つまり――まだ皆がクラスにになじめていない時期に、姉が首をつる、という事件が起こったことになる。
これが、まだ皆がクラスになじみ始めた頃であれば、少しは状況が変わったのだろうし、もし中学以前からの友人がいれば……クラスになじむための、なにかしらのフォローが入ったと思うのだが……
――他県からこの高校に通い始めた多輪島には、中学校からの友人というものがいなかった。
つまり……
一方的に――
「入学時に姉が自殺した生徒」
……そんなレッテルを貼られてしまったことになる。
――それ以来……クラスメイトはおろか、教師まで、多輪島を腫れ物に触れるように接するようになった。
多輪島自身もともと社交性の薄い性格だったこともあり ――二年になった今でも、多輪島はいつも一人で、交わりを持つことなくにそこにいる。
……姉が自殺し、クラスにもなじめず、窓際で、いつも文庫本を読んでいる、小柄で静かな女の子――
それが、僕の抱いていた多輪島春という女生徒の印象だった。