プロローグ
夏休みがやって来た。
毎年、夏休みになると電車を乗り継いで海に近い親戚の家に行く。小さい頃は両親が一緒だったけど、ここ数年は一人で来る。
親戚の家は、海の家を営んでいる。毎年人手が足りないので手伝いに行くのだ。高校生になってから、お金をもらえるようになったので、今ではいいアルバイトになっている。
電車がホームにすべりこむ。街に到着した。
ホームに降りると、潮の匂いがする風が吹いてきた。小さい、小屋のような無人駅をでると、小さいロータリーがある。ロータリーには一台だけ、白い軽トラックが止まっていた。他には人も車もない。ただ一台の軽トラックだけ。
私は、そのトラックに向かって歩いた。
夏の太陽が容赦なく照りつける。
トラックのドアを開けると、日焼けして赤黒い顔をしたおじさんが乗っていた。
「いらっしゃい。」
私の母の弟にあたるおじさんは、笑顔で私を迎えてくれた。
「こんにちは。今年もお世話になります。」
頭を下げてから、助手席に乗った。
「こちらこそ。毎年手伝ってもらって助かってるよ。今年もよろしくね。」
おじさんは、助手席のドアが閉まったのを確認すると、アクセルを踏んで発進した。
エアコンは切ってあるみたいで、窓が全開に空いている。潮の匂いがする心地いい風が、車内を満たしていく。
私は、毎年この街に来る。冬は人がいないと思うぐらい静かなのに、夏になると海水浴で人口が一気に増えるこの街に。
民宿と海の家がたくさんあり、海に近いこの街に。夏しか活動しない夏の街に。