8.いつの日か、ドラゴンの骨も従えてみせます。と、その青年は言った。
僕は骨が好きだ。
特にフライドチキンの骨は、年中を通して一番手軽に手に入るもので、僕が一番長く触れてきた種類の骨、何度もその骨を組み立ててきた。
今手元にある骨も、鶏もどの部位なのか僕には簡単にわかる。この見慣れた骨が、僕の魔法によって動く。それはもう、夢のようだ――
「そういえば骨だけにしなくてもいいのですか?」
僕はフライドチキンの骨を地面に並べながら尋ねた。
ここに来るまでの間に、こびりついた肉の削ぎ落しなど、簡単に処理したとはいえ、標本にするにはまだまだな状態だ。このまま魔法をかけたら、ひどい状態の骨の鳥にならないだろうか。
「心配には及ばない。時に百もの死骸から骨をつくることもあるのだ。そんな大量の屍が骨になるのを悠長に待っていられるものではないだろう」
「確かに……」
魔法というのは非常に便利で、死骸にかけるだけで肉の中から骨が生まれてくるのだそうだ。
「では、さっそく始めよう」
「はい!」
僕は目をつぶり、手のひらを骨にかざす。
骨を繰るのに大切なのは、骨と骨をつなぎ、身体を構築するイメージ。骨を知らねば、正確に組み立てることもままならない。
僕は集中し思い描く。鶏の骨を。くちばしの先から、爪先まで正確に。
体内から何かが放出されていくのを感じる。この何かが魔力なのだろう。この慣れない感覚に、集中を乱されながらも、僕は魔力の放出が収まるまで、骨を思い続けた。
「よし、いい頃合だろう」
領主さまがそう声をかける。僕は期待に胸を膨らませながら目を開くと、僕にとって非常に見慣れた骨格がたたずんでいた。
頭や足の先など足りない部分があったはずだったが、魔術を施行したら、骨ではない何か不思議なものでその部位が補完されていた。魔術に慣れてくると、本物の骨を再生することもできるらしい。はやく僕もその域に達したいものだ。
ちなみにあまりにも足りなかったり、ばらばらであると難しいが、頭蓋骨か、胴体のみでも半分くらい残っている骨であるなら、この魔術で繰れるようになるという。
「か、かわいい」
生前の行動を模倣しているのだろうか、餌もないのに地面をつつく姿がいとおしくみえる。
フライドチキンの骨の、和む行動に僕はすっかり虜になった。
「まさか、これほどとは」
本来ならば慣れないうちは、丸い頭に背骨と手足だけといった単純なスケルトンができることが多いらしい。しかし、最初からすべての骨を構築できたことに、領主様は驚いていたのだ。
自慢じゃないが、僕は骨の構造は詳しい。これだけは、誇れることなのだ。
「思いのほか相性が良いのかもしれぬな。お主は、本当に人間か? 悪魔ではないのか?」
魔の者でさえ、これほどまで骨を繰れるものはいない。
「僕は、人間のつもりなんですけれどね」
まさか領主さまにも悪魔呼ばわりされるとは。と僕は少し複雑な気分になった。
それから、僕は魔法の練習を続けた。ほとんどがネズミで、たまに小鳥だったけれど。
「僕はいつの日か、ドラゴンの骨も従えてみせますよ」
男なら一度は憧れるドラゴン。
生きた竜の生息地は僻地なので狩りに行くのは難しい。それに倒せるとも限らない。なので、発掘された化石か何かを使うのも良いかもしれないと、密かに思っている。どこに化石が埋まっているのかはわからないが、ドラゴンを倒すよりは簡単だろう。愛があれば化石の骨であっても、僕は繰れる自信はあった。
「ドラゴン……主ならば、それも可能となるかもしれぬな」
魔法は思いの強さも効果に影響する。領主さまは骨に対する並々ならない愛情を注ぐ僕に期待しているようだ。
「はい、頑張ります」
今はとにかく、修業あるのみだ。