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僕は骨が好きだ。大好きだ。【旧版】  作者: まいまいഊ
2章 僕は骨抜きする
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7.魔術の修業は厳しいぞ。と、その領主は言った。

 燭台で揺れる炎に白い肌が照らされている。恐ろしく細い肢体は薄明かりの中にあって艶めかしく、ベットの上に横たわっている。

 それに覆いかぶさる黒髪の男。荒い息使い、擦れるシーツの音。

絡む肢体。細い女の指が、男の背中を強く抱きしめる。

 骨との濃厚な時間はまだまだ続く。

「……」

 領主はそっと、遠見の魔法の使用を終了した――




 私は長年この地を治めている領主である。

 魔術の力で、目的もなく寿命を伸ばしに伸ばしてきたが、それにも飽き、ここ百年ほどは何もしていない。そのため、私の魂は寿命が近づいている。

 魂とはこの世の理、すべての源。何もしなければ、輝きが弱まり、緩やかに死への世界へと移行していく。私は最期の時を夢見ながら、館にこもり穏やかに暮らしていた。


 ただ死を待つだけの私だったが、それは現れた。それは黒い髪と目を持つ人間で、驚くことに黒と赤の祝福を受けていた。悪魔が人間に化けているのではないかと思ったが、いくら凝視しても魔術の痕跡はなく、それは間違いなく人間であるということを示していた。

 その人間はツトムと名乗り、私の生み出した骨人(スケルトン)の一人を欲しいと言った。

 おかしな人間もいたものだ。と私は思った。

 冥土へ還る前に面白いものを見れそうだ。私はこの謁見が終わるまで始終満足であった。



 人間は私の館で一夜を過ごした。

 館は私の最後の砦。侵入者が無いよう、私の影たちが常に目を光らせている。客人の部屋には、さすがに影は忍ばせなかったが、危険が及ばぬよう近くに配置し、万が一、あやしい者が訪れた時対処できるよう見張らせたのだ。そして、影から送られてくる情報で、私は知ってしまったのだ。


 ――彼らが部屋で、ナニをしていたのかは問うまい。


(骨に発情する人間がいるとは、世界は混沌と広すぎる)

 しかも、それが朝まで続いているというのだから、若いというのは恐ろしい。

 人間の繁殖能力が、知的生命体の中で飛びぬけていることを、私は思い出す。さすが、年中発情できる種族だけのことはある。骨にさえ対象とできるのだ。人間は多様な趣向を持つからこそ、あんなにも繁栄できたのだろう。私は、そう思う。



 私が人間の性について考察していると、部屋をノックするものがいた。部屋の外に待機しているメイドがやってきたようだ。

「入れ」

「失礼いたします。ツトム様が、少し時間をいただきたいそうです」

 今度は何事かと思いつつ、私はツトムを迎える準備し、許可を与えた。ツトムは私の部屋に入るなり、こう告げた。

「朝早くすいません、領主様。僕に魔術を教えてください。死体を、特に骨に命を吹き込む魔術を」

「は?」

 私は二の句が継げなかった。正気なのかどうかツトムを凝視したが、彼の瞳は本気の炎を宿していた。彼はこの燃え上がるような情熱を、あの骨人(リサ)に向けていたはずだ。それは、長らく生命を持っていなかった私には、まぶし過ぎた。

「これはおまえたち人間にとっては忌み嫌われる禁術だぞ? 本気か?」

 魔の一族ではない者にとって、闇の魔術は副作用が大きい。特に魔力への耐性が低い人間は精神崩壊の危険さえある。


「僕は、赤と黒の祝福を受けているそうなので、その魔術と相性はいいと思うのですよ」

 確信はないが、そうである自信があるといった表情で、ツトムは言い放った。

「だとしてもなぁ」

 属性が一致すれば副作用は大幅に抑えられるが、それでも危険がまったく無くなるわけではない。

 確かにこの人間は非常に珍しく黒と赤から祝福を授かっている。そのことは彼が昨日この部屋に入った時から感じていた。魔の者しか持たないとされるその祝福を持つ人間、面白い人間もいたものだと、私は興味を持ったのも確かである。


「禁じられていても、使いたいものは使いたいんです。それに、禁じられているものに興味を持つ、欲深き人間ってそういう生き物でしょう?」

「……そうさなぁ」

(私もそろそろ寿命が近い。お主にすべてを授けるのも悪くないかも知れぬ)

「修業は厳しいぞ」

「はい、よろしくお願いします」

 ツトムはすっと頭を下げた。ツトムの動作一つ一つは、丁寧だ。貴族といった上流階級とは趣向が異なっているが、どこか洗練さを持っている。それなりの家庭で育ったことをうかがわせた。


「うむ。まずは骨を用意せねばな。最初に扱うのは小さな動物の骨が良いだろう。何か持ってこさせよう」

 近くで小動物を狩ってこさせれば、骨は手に入るだろう。

「骨……そういえば、僕、骨を持っています。使えるかどうかはわかりませんが、今すぐ取って来ます」

 ツトムは、脱兎のごとく部屋を飛び出した。

「忙しい奴だ」

 あれが若いということなのだろうか。私は天を仰いだ。




「お待たせしました。この骨です」

 再び舞い戻ってきたツトムの手には、私が見たこともない小動物の骨があった。

「これは、フライドチキンの……いや、鶏の骨です。足りない部分が結構あります。それに1匹の骨ではなくて、おそらく数匹分の骨なんですが、それでも動かせますか?」

 ぱっと見ただけでも頭骨が無いのはわかった。しかし、それでもほぼ全身がそろっていた。

「ふむ、練習にはいい大きさだな。骨もこれくらい揃っていれば、大丈夫だ」

 そうして、私はツトムに死体を繰る魔術(ネクロマンシー)を授けることにした。


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