6.命尽きるまで貴女を大切にします。と、その青年は言った。
僕は骨が好きだ。
僕は骨を知ってしまった。『味』を知ってしまったのだ。
あぁ、僕はもう、骨無しでは、生きられない。
ずっと大切にすると誓った僕の愛しい、愛おしい骨。
骨のあるすばらしい生活――
僕は領主様との謁見を終え、部屋を出た。そこにはリサが待機していた。
「……私、ツトムのものになったのね?」
所有権が変わり魔力の提供先が、僕になったことをリサは感じていたようだ。
「僕は、命尽きるまでリサを大切にするよ」
僕はリサの手をとり、そう告白する。ほんのり冷たい骨の感触が、僕の指に絡む。
「へ、部屋に案内するわね。好きなだけ滞在していいと、領主様がおっしゃったわ。遠慮はしなくても大丈夫よ。大切なお客様だもの」
照れ隠しだろうか、リサは少しだけうつむいて、要件のみを伝えさっさと歩き出した。手はつないだまま、僕はリサの案内に従って。僕はお世話になる部屋へ向かう。
洋灯に照らされるリサの折れてしまいそうなほど華奢な肢体。漆黒を映したくぼんだ瞳。きめ細やかな白い骨。そんな美しい彼女が僕の物になったのだ。
部屋に二人きりになり、我慢ができなくなった僕はリサをそっと布団に押し倒す。
「リサ、僕のかわいいリサ。僕は……リサがたまらなくほしい」
リサは視線をそらしている。僕の顔を直視できないようだ。羞じらうリサもかわいらしい。
「嫌かい?」
「……ツトムならいいわ」
その言葉をきっかけに僕はリサを――もう、それこそ彼女を骨の髄まで味わいつくした。
「ツトムったら、激しい」
「す、すまない。どこか痛くないか」
相手は骨だ。最初は気を使っていたが、途中から理性がどこかへいってしまった。それはもう獣のようにリサを愛で、舐めつくしたのだ。
「大丈夫よ、初めてで色々びっくりしただけ……」
人間だった頃も、体験したことがなかったようだ。僕はリサの「はじめて」を頂いたのだ。初々しい様子のリサに、僕は少し……いや、かなり感激し、ぎゅっと抱きしめた。
「リサ」
「ツトム」
愛しい人の名を呼びあう、この至福の時が堪らない。
結局僕はリサと一晩、同じ布団で一緒に明かした。まさか骨と共にする日がこようとは。この世界はすべてが最高だ。快感だ。
「ツトムと触れ合ってわかったことなのだけれど、貴方は人間なのに黒と赤の精霊から祝福を受けているのね」
「精霊?」
精霊は、世界の力のひとつ。この世界に産まれいでた生命に、その土地を守る精霊が祝福を授ける。それが魔法の属性となるらしいのだ。
黒と赤の祝福は人の胎児には強すぎて、子を授かったとしても生まれるまでに死んでしまうらしい。だから、黒と赤の支配するこの土地は、人が住むには適さないのだそうだ。黒と赤の属性は、生まれたときから完成している魔物(アンデッドや魔法生物)や強大な魔力を宿す種族にしか、原則的に現れないものらしい。
しかし、僕は黒と赤の祝福を授かっていた。本来ならば人は赤子の姿で生まれてくるが、僕がこの世界に現れた時、すでに成熟した大人だった。黒と赤の祝福に耐えられたのは、それが原因だろう。むしろ、その強すぎる生命の本流が、環境に適応できずに死にかけていた僕をこの世界に留める力となったのかもしれない。
「力を持った……祝福か」
この世界に来て最初に見た、膨大な力を持った黒と赤のあの夢は……この世界に忽然と現れた僕に精霊が祝福を授けた証の夢だったのだろうか?
黒と赤の祝福、それを受けた者はどうなるのだろうか。僕は気になりリサに尋ねた。
「黒と赤の祝福を受けるとどうなるの?」
「有名なところでは『死体を操る魔術』が得意になるらしいわ」
「それは本当かい? 僕でも使えるようになる?」
「多分使えると思うわ。領主さまも黒と赤の祝福によって、その属性の魔術が得意らしいもの」
これを聞いて僕はいてもたってもいられなくなった。死体を繰る、それは、もしかして!
「ちょっと、領主さまのところ行って来る。リサは休んでて」
思い立ったら、即行動。これが僕のモットーです。