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僕は骨が好きだ。大好きだ。【旧版】  作者: まいまいഊ
4章 僕は骨折り損で儲けもの
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骨による骨のための骨のエピローグ。

 ここは、争いとは無縁な平和な骨の国。

 そんな国のある村で、子供たちは英雄の話を「話せ話せ」とせがんでいた。それは、その子らが骨として生まれるずっと前の話、この世界に現れた英雄の話である。

 子供たちに頼まれ、遠い日を思い出すようにリサは語りだした。


「昔、ツトムという骨の好きな変わった人間がいてね、私を悪い人たちから、守ってくれたの」


 もふもふな骨をなでながら、彼女は言う。

 彼との出会いは、昨日のことのように覚えている。

 冒険者に襲われているところを助けてくれた。

 その時以来、彼は骨とともに歩み始めたのだ。



「ねぇ、その人、今、どうしているの?」

 それだけの偉業を成し遂げた英雄(にんげん)ならば、手厚く埋葬たのだろうと、子供は思った。


「そうね、今ごろは……『骨』になっているかもしれないわね」

 彼が常日頃から「死んだら骨になるんだ」と、そう言っていたことを彼女は知っていた――







「……おいおい、勝手に骨になった(しんだ)ことにしないでくれよ」

 僕は、リサの昔語りを遮った。

「あら、おかえりなさい」

 リサの、昔から変わらぬ美しい腕が僕を抱きしめる。子供の目の前だが、自重はしない。僕はリサに、ただいまの口づけをする。

 舌先に感じる滑らかなリサの心地は、僕の心を癒してくれる。


「……どうして、生きている」

 骨の子供たちは、尋ねてくる。そう、僕は、あの時と変わらぬ若者の姿のまま、そこにあったからだ。


「おや、この子たちは新しい()たちだね」

 出かけた時には、いなかった子供の骨たちの顔があったのだ。


「そうよ。逃げ出してきたみたい」

 この世界から骨の奴隷が完全になくなったわけではない。この骨たちは、ひどい仕打ちをする主人たちから、隙を見て逃げ出したらしい。

 本来、骨の奴隷は自由意思を持たないことが多いが、僕の魔力に当てられると骨たちは自我に目覚めてしまうのだ。僕が行く先々で骨たちが次々とそういうことが起こっている。

 あの戦以来、僕が意識しなくとも、そうなってしまうのだ。強力な力を解放してしまった弊害といえば弊害だが、僕には何の不都合もないので、放置している。

 丁寧な扱いをしている主人であるならば、骨たちは何事もなかったかのように今まで通り従うが、そうではない場合、総じて逃げ出してしまう。そして、目指すのだ、僕の治める骨の楽園へ。




 今でこそ攻めてくるものは少なくはなったが、当初は奪われ続ける(ドレイ)を取り戻そうと僕の国へ争いを持ち込む魔の者や、所詮は骨と侮った冒険者たちが絶えなかった。僕は自ら攻め入ることはないが、攻め来る者には容赦はしなかった。

 魔のものや人間は、骨を持つ者たちだ。彼らは骨を持つがゆえに僕の敵ではない。彼らの骨に命令して、丁重にお帰り頂いた。

 あまりに悪質な者たちは、皮を剥いて骨にしてやった。そのため、彼らたちの間では、「触らぬ骨にたたりなし」というように、骨の国は触れてはならぬものとして、仕掛けてくることは少なくなったのだ。

 もはや僕は歩く厄災だった。

 魔の者、人間、そして、骨。僕は三大勢力の一つ、骨の守護者として世界に君臨している。





「ねぇ、ねぇ、どうして生きている?」

「ん、あぁ。僕は残念ながら、簡単には『骨』になることはないんだ」

 僕は子供の頭蓋骨をなでる。

「どうして? 人間なのに?」

「やっぱり人間の皮かぶった悪魔なんだな!」

 リサの昔話で、ある程度のことを子供らは知っている。その時代に活躍した人間は、今は若者でいるはずはないのだ。子供たちは疑問に思うのも仕方のないことだろう。


「いやぁ、あの領主に一服盛られたみたいなんだ」

 僕はある意味で人間ではなくなった。不老者、そういうものになったのだ。それは、厳密には不死者(アンデット)でもない。浮浪者みたいな響きであまり言わないようにしているが。今の僕は、非常に中途半端な存在にちがいない。


 この世界で黒と赤の祝福をうけた人間はいない。僕の魔力の質は、この世界にとっては異質で異端。人の身でありながら、不死者である領主様の魔法(すべて)を引き継いだために起こった奇跡。人類がなし得なかった夢の現象「不老」。つまり、常に若い姿のままにある、つまり寿命では死ぬことができなくなったのだ。

 しかし「寿命はなくなったが、死に至ることはできる」らしい。人の死をみることができる者がそう言っていたのだから、そこは間違いはないだろう。

 そして、事故なり何なりで、死んだら死んだで、その時は本物の不死者(アンデット)として覚醒するのだ。そして、領主様のように闇の世界で、それこそ魂の輝きが衰えるまで生き続けなくてはならなくなる。

 そのことを思い出すたび、僕は「一人前の証だ」といって力を分け与えたくれた時の領主様のこの満ち足りた顔が浮かぶのだ。

 あの時に、一服盛られたのだと。


「でも、リサといつまでも一緒にいれるから。それは感謝してもいいかな」

 正直、不老や不死には興味はないが、僕が生き続ける限り、彼女もまた衰えることはない。僕と彼女は死ぬ時まで一緒だ。

 そういって、僕はリサの額に口付けする。


「すげぇ、さすが英雄だ」

「愛だね」

 子供たちは口々に褒め称える。

 そんなかわいい子供たちに僕は囲まれていたが、僕の脳内はあることでいっぱいだった。


「……ねぇ、リサ、今からいいかい?」

 僕はリサを誘う。数日ぶりにリサに会ったので、たまらなく欲しくなってしまったのだ。

「子供たちが見ているわ」

「いいじゃないか、僕らの愛を見せてあげれば」

「もう、いくつになっても、あまえん坊さんなんだから。でも、子供たちにはまだ早いわ」

 そうリサは言うと、子供たちに向き直る。

「さ、今日はお話はおしまいね」

「はぁい」

 子供たちは、リサの言葉に従う。

 子供たちは去り、部屋には僕らだけになった。



 ――そして、僕はリサを押し倒し……いつものように、彼女を骨の髄まで味わうのだった。






 骨の国は、今日も、いつまでも、平和です。

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