19.それは人生の墓場である、と、その青年は言った。
人と魔は、太古の昔から争ってきた。一方的な殺戮、拮抗する戦局、いずれにしろ衝突のたびに、たくさんの命が消えていった。
お互いに引かず、時間と命だけが浪費されていった。この不毛の争いを打破するために、人々は唯一魔王に対抗しうる勇者の出現を望んだ。
魔王が現れれば、それを人間の勇者が打ち倒す。そして、戦は終結していくのだ。それは何百、何千回も繰り返してきた歴史。今までそうであったし、これからもそうであると誰もが疑わなかった。
そして、今度も戦の終止符を打った救世主は現れた。しかし、それは魔王を打ち倒す勇者などではなかった。それは人の形をしていたが、根本的に人とは生き方が異なっていたのだ。
魔にも人にも属さぬ第3の勢力の出現によって、この戦は人も魔も望まぬ形で終結してしまったのだ。
新たな勢力、それは骨であった。戦場の死体たちが、魔、人、動物、問わずすべてが骨人となり、一人の人間を中心にして集いだしたのだ。
骨を操るのは数に限度がある。しかし、その人間にはこの世界の常識は通用しなかった。骨が増えれば増えるほどに、彼の力は増していったのだ。
歴史上、このような戦はあっただろうか。
魔と人の争いであったはずが、そこに骨という第三勢力が生まれたのだ。もともとは魔の勢力だった骨、そのはずなのだが、突如、彼らに反旗を翻したのだ。
それにより、魔も人も戦どころではなくなってしまった。
長期戦になればなるほど、骨の軍団は数を増す。魔と人がこのまま争えば、死体が増え、骨の勢力がますます増えてしまう。かといって、骨と戦おうものなら、その隙を他の種族に狙われてしまうだろう。魔と人は相いれない、両者の同盟は考えられないだろう。戦いに動けば破滅しかない、もはや戦は成り立たなくなった。
魔、人、骨の互いに睨みあう危うい関係が、この世界に生まれた瞬間であった。お互いに牽制しあうため、大きな戦は難しくなってしまった。小競り合いは続くだろうが、今、確かにここに戦争のない「平和な時代」が生まれようとしていた――
――魔と人の戦は終わりを迎え、骨の軍団を引き連れて、僕は宣言する。
「僕は今ここに宣言する! 骨の王国をつくることを!」
そして、僕は骨の楽園を興した。
そこで骨たちは平和に暮らすのだ。
戦を終結させ、僕は骨の楽園を興したが、まだ僕にはやることが残っていた。
「リサ、僕と結婚してください」
結婚は人生の墓場だ、と言ったものがいるが、それはこれから死者とともに歩んでいく、僕には素敵な言葉と思う。墓場、不死者たちの人生の始まりの場所、上等な一当地だ。
「ツトム……」
その言葉を聞き、リサは歓喜に震えだす。もしも、眼の機能が残っていたのなら涙が出ていたかもしれない。しかし、彼女は『骨』、そこには虚空の穴しかない。
「よろこんで」
リサは小さくそうつぶやき頬を赤らめた、ように僕には見えた。そんな様子のリサを見て僕は、この命が尽きるまで伴にあろうと、強く決意した。