15.その能力は凶と出るか吉と出るか。と、その領主は言った。
私は思考する。
人間と魔の者の間で繰り返される大規模な攻防の歴史。今なお続く果てのない争い。
その戦乱のさなか突如現れる神がかった者たち。……歴史が大きく動く時、彼らが現れる。いや、彼らが歴史を動かすのかもしれない。時に魔を滅する勇者として、時に人を滅ぼす魔王として。彼らは表裏一体のように現れて、争い、そして、どちらかが散る。
人を救うか魔を導くか、違いはあれど彼らがもたらすのは一時の平和、一時の破滅。百年もすれば、また再び繰り返される不毛の戦い。
(今は、人間との戦いも膠着状態が続いているが、果ての大地に魔王が生まれたと聞く……)
魔王という種族は定期的に世界に生まれてくる力ある魔の者だ。彼らはその力を振るい、戦うのだ。魔王は戦うために生まれ、戦うことを好む。例外は存在しない。戦うからこそ魔王なのであり、力あるからこそ王なのだ。
魔王と同等以上の力があろうと戦いを望まぬ魔の者は、町で静かに暮らす。表舞台から身を引いた私も、その部類に入るだろう。
一方、勇者は大きく分けて2種類いる。魔王を倒したため勇者の称号を得た無名の者と、魔王と同じく人間の中に時折生まれる力ある者だ。前者は魔を倒すことを目標とし、自分を磨き、そのために命をかけることができる努力の者。後者は前者のような志を持つ者もいるが、力あるがゆえに求められ、望まぬ戦いを強いられる悲運な者も多いと聞く。
(やはり人間は愚かだ。戦いを望まぬ者に命を賭させるとは……)
力ある人間という言葉に、私はふと弟子を思う。
彼は力ある人間だろう。扱える魔法はとにかく、思想が思想なら、魔王と対するに値する「勇者」としての素質がある。
しかし彼は今や魔の者とともに生きている。そんな彼が勇者として魔王を討つ存在になることは、……いや、あれは骨以外に興味がない。骨ではない人間や魔の者は、すべて等しく関心がない。彼は、人間だろうと魔の者だろうと関係なく、敵と思えば排除するだろう。彼は差別的であり、非常に平等だ。
(ツトムは何者なのだろうか)
今やツトムは、ほとんどの骨に命を吹き込めるほどに成長した。しかし、骨が関わらない魔法は、からきしと言わないまでも、いまいち成長が芳しくない。ここまで、特化するのもめずらしいことである。
彼は「これは僕の骨への愛の結晶ですよ」と言って、不得意な魔法が多いにもかかわらず、まったく落胆しない。
他人との差異や見聞を気にしてしまう人間であれば、皆が使えるはずの基本的な魔法が不得意だと知れば、落ちこぼれの役立たずだと落胆しそうなものであるが。
その現実を受け止め、自身の得意な魔法を磨き、ただひたすらに骨を愛する。
人間というには魔に染まりすぎているが、どんな人間よりも人間らしく欲に忠実だ。骨の事となると情熱的に語り、ほしい骨があれば冷血に生物を屠る。死体を操る魔術の詠唱の破棄はお手のもの、骨に関していれば比類なき才能だ。
しかも、彼は骨を魅了する能力でも持っているのだろうか、私の配下の骨たちの中に、ツトムのために尽くそうとする者たちがいるのだ。彼は主ではないのに、だ。
私はそのような命令をしたわけではない。ただ弟子であり、友人であると紹介したにすぎない。だのに骨たちは自発的に彼のために珍しい生物の屍骸を贈ったり、その身を一晩預けたりしているのだ。
近いうちに、世界は動く。
長い時を生きた私の勘がそう告げる。
今はまだ私の元で、ひっそりと修業しているが、この地に身をおいている限り、いずれ巻き込まれるだろう。魔と人の宿命に。
その時、ツトムは、どう動くだろうか。
彼は異質だ。彼という存在はこの世界にどんな影響をもたらすのだろうか。
その能力は凶と出るか吉と出るか。