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僕は骨が好きだ。大好きだ。【旧版】  作者: まいまいഊ
3章 僕の骨休めな日々
14/22

14.しっぽに触っても良いかい。と、その青年は言った。

 僕は骨が好きだ。

 どんな生き物であろうと、骨の前では平等だ。


 この世界には獣人がいる。彼らは人間側に属する者たちであり、骨人(スケルトン)を始めとする魔の者とは敵対関係にある。

 しかし、僕にしてみれば骨を有する限り、どちらも愛でる対象である――





「僕の愛おしい骨たちよ、おいで!」

 僕は辺りが安全になったのを確認し、すぐにリサたちを召喚し、合流した。


「あぁ、ツトム、無事だったのね?」

 いつもと変わらぬ様子の僕を見て、リサは僕が淫魔(スクブス)と何もなかったことを知り安堵する。

 淫魔の誘惑に勝てる者はそう多くはない。一晩過ごしてしまえば、もうその時のことしか考えられなくなり、生活に支障をきたしてしまうのだ。

 リサは本当に心配していたようだ。


「あぁ、リサ。やっぱり君が一番の女性だよ」

 淫魔とは異なり、白くて細い身体のリサを、僕は抱きしめた。




「路地裏って、どこの世界も同じような雰囲気なんだね」

 細い道は入り組んで、どこを曲がっても、陰気くさい気配が漂っている。


「……何か、争う声が聞こえない?」

「争うというよりかは、一方的な感じがするわ」

 ここは路地裏、碌でもないことしか起きない。僕と骨たちは、積まれた木箱の陰からこっそり様子をうかがった。


 男たちに囲まれて何者かが蹴られ、金属の棒で叩かれ、ぐったりと倒れていた。暴行を加える者たちの勢いはすさまじく、骨が砕ける音が聞こえてくるかのようだった。


「しっぽ……」

 集団の合間からふと見えたのは、茶と黒の縞浮かぶ立派なしっぽ。ふわりと伸びたそれは、身の丈と同じくらいの長さがあるだろうか。まるで巨大なリスが倒れているように見える。

 アレはもう助からない、と、僕の直感は言っている。屍骸を扱う魔法を使うせいか、近くに寄らずとも、死んでいるかどうかの見分けが容易につくほどに、目が肥えていたのだ。

 僕の力を持ってすれば、彼らを力ずくで止めることはたやすいだろう。しかし、今、男たちを止めたところで、何が得られるというのだろう。死体が増えるだけである。

 死体が増える、骨人にできる。それはいい考えだ、と僕は思ったが、彼らの身なりを見て考えを改める。彼らはこの街の自警団である。ということは、悪いのは彼らに殺された者である。

 どんな悪いことをしたらこんなことになるのだろう、何もこんなところで殺さなくともいいではないかと思うが、そこは文化の違いなのだろう。


「よし、撤収だ」

 死体をそのままに、男たちは去っていく。死体の片付けは、この街に住む屍食鬼(グール)たちがする。あと数刻もすれば匂いをかぎつけた者たちが食らいつくし、明日には跡形もなくなくなっているだろう。彼らの世界ではこれが普通なのだ。


 僕たちは自警団がいなくなったのを確認すると、死体に近づいた。

「これは冒険者だわ、身軽そうな獣人だから情報収集か暗殺を企てたのでしょうね」

 リサがつぶやいた。

 人間と魔の者は敵同士だ。そして、ここは魔の者が住まう街、非戦闘員も多い。そんなところに魔を狩るのが生業の者が紛れ込んだのだから、過剰になるのもうなずける。放っておけば、家族や友人が殺されてしまうかもしれないのだ。


 僕は死体を観察する。

 手足はありえない場所でありえない方向に曲がり、骨まで覗いている。砕けた頭蓋、血の海に浮かぶ歯。近年まれにみる、無残な屍骸である。


「女の子か……リサ、この子を仲間に加えてもいいかな。これはあんまりだ」

 骨がここまで壊されているのを見るのは僕には耐えられなかった。失った血肉(せいめい)は蘇らせることはできないが、僕の魔法でせめて健康な骨として、甦ってほしかった。


「私は構わないわ。人間の冒険者も骨になってしまえば仲間よ。骨が増えるのは嬉しいことだし、ツトムが幸せになるなら、それだけで私は満足よ」

「リサ、ありがとう」

 リサ以外の女性骨人を形成してもいいと許しを得た。理解のある彼女を持つことができて、僕は幸せ者だ。



 僕はさっそく、屍骸に魔法をかける。

「リスリス、リスの人の骨♪ 獣人さんの骨♪」

 魔法を実現させる呪文は、あってないようなものだ。イメージさえ明確であれば、魔力は思う通りの魔法へと変化する。

 呪文を唱えたその瞬間、僕の骨ハーレムに、リスの獣人が加わった。


「あなたが、主人様?」

 肉を捨て、骨人となった彼女は口を開く。骨は主人に忠実な奴隷なのだ。

「そうだよ。僕はツトム。君は?」

「フラウ」

「じゃあ、フラウ、よく体を見せて」


 獣人の骨は初めて見る。僕は、骨のひとつひとつを舐めるように眺める。特に骨盤と尾骨の繋ぎ部分を注視する。もはや視線で犯しているといっても過言ではないほどに。


「あたしの骨なんて見ても……」

 フラウは恥じらいながらも、僕にすべてをさらしだしてくれる。骨を見られるのは――当たり前だが、初めての経験だろう。初めて男に裸を見せる女のように、なかなかに初々しい反応だ。


「あっ、隠さないで。大丈夫。ほら、力を抜いて。せっかくのかわいい骨格(からだ)なのに……あぁ、しっぽがとっても可愛いね」

「っ!」


 長いしっぽの骨が、緊張に震えている。 揺れて、僕を誘惑している。

 僕は見ているだけでは物足りなくなってきた。

 目だけではなくて、舌で味わいたい(なめたい)欲求にかられる。


 僕は、息がかかる程までフラウに近づいた。骨特有の、僕が大好きな香りがする。

「君もいい匂いだね。はむはむしたい」

「あ……近い、顔が近い」

「怖がらないで。痛くはしないから、舐めてもいい?」

 僕は尋ねるが、その返事を聞くまでもなく、即実行に移す。尻尾の根元から指を這わせ、その先端は甘噛む。

 フラウはびくんっと、全身を震わせる。カタカタと震える様子を見て、ますます僕は興に乗ってくる。彼女の骨を舐めまわし弄ぶ。


「いい子だ。滑らかで良い形だね」

 尾椎を舐めながら、仙骨、腸骨と丸みを帯びた骨盤を、指先で丁寧になでまわす。


「っ……!」

 (からだ)を見せたのは初めてでも、生前の彼女にはいくらか経験がありそうだ。早くも快感に喘いでいる。


「君は……すごく感じやすいんだね」

 僕は尻尾から口を離し、話しかける。

 初心なリサとは異なる、男を知っている反応を目の当たりにし、僕の心はくすぐられまくりだ。快楽に乱れつつあるフラウの反応を、僕は目で見て楽しむ。

 指の動きは、より早く、より激しく、フラウを快楽の渦へと引きずり込む。


「いあぁぁぁーーーっ!」





「……は、しまった。やりすぎた」

 気絶してしまったその子を見て、やっと僕は我に返る。僕にはリサがいるというのに、他の女に興奮してしまうとは。



「私もいつもあんな感じでやられているのね……。ツトム……」

 リサの黒く窪んだ大きな瞳が期待する眼差しで僕を見る。心なしか、骨盤がもじもじと動いているように見える。

 僕とフラウの絡みを客観的に見て、リサの体に火が灯ってしまったらしい。恥ずかしそうに、僕に身を委ねてくる。

 恋人であるリサに、そんな可愛らしい反応をされたら、断わる理由はない。



「リサ……たくさん愛してあげる」

 僕も体の火照りは収まっていないので、激しいものになりそうだ。


 僕はブロブの骨を呼びよせた。リサの腕を掴み引き寄せ、そうっと仰向けに寝かせる。リサのオトガイに手を添えて口づけし、舌を滑り込ませる。リサの歯を一本一本丁寧に舐め回す。

 手は肋骨や骨盤に回し、全身を愛でる。


「リサ」

「ツト、ム……」

 言わずとも、お互い分かっている。ぼくはリサをぎゅうっと抱きしめる。

 僕らは人っ気のない路地裏で、楽しい時を過ごした。




 リサは肩を上下させながら荒く息を吐いている。

「よく頑張ったね」

 僕はチュと音をたてて、リサにくちづける。

 ついでに身を清める魔法をかけた。この魔法は骨を対象にしてのみ効果がある洗浄の魔法だ。この魔法をかけると、汚れは落ち、骨に艶が出るのだ。


「いつもありがとう」

「いえいえ」

 僕は骨の美しさを維持するための手入れには余念がないのだ。



 僕とリサは休憩しつつ、フラウの目覚めを待った。


「う、う、ん」

「あ、気がついた?」

「……はい、不甲斐なくて申し訳ないです」

「気にしなくても良いよ。それより、持ち物どうする? 何か持っていく?」

 多くが血に濡れているが、洗えば使えるものもあるだろう。


「では、武器と防具を。血で汚れていますが、そこそこ良い物なので、売ればお金になります」

「じゃあ、武器はそのまま使って、防具は売ってフラウの新しい装備を買おう」

 骨になり防具のサイズが合わなくなってしまったが、それ以外の道具はまだ使える。新しいのを与えるよりも、生前から使い慣れた物の方がいいだろう。


「いいのですか?」

 フラウは驚いている。


「それらは元々、フラウのだろう? 本人が良いと言っているのだから、僕がどうこう言うのもおかしいよ」

「でも、骨人は奴隷です。奴隷の持ち物は主人のものです」


 骨にする魔法の欠点としては、奴隷として主人にすべてを捧げるという意識が刷り込まれることだ。そういう制約が魔法自体に抗えぬ法則として、組み込まれているのだ。

 僕は、その制約を弱めて魔法を発動させているとは言え、法則に抗うことはできず、その制約を完全に消し去ることは、技術的に難しいものだった。


「あぁ、そういやそうだったね。僕は奴隷とか、そういうのあんまり好きじゃないんだ。僕はフラウの意思を尊重したい。奴隷としてではなく、友人として接してほしい」

 僕は手を差し出す。

「友人……。ありがとうございます!」

 僕の手を取り、感激するフラウ。その喜びが見れただけで、僕は彼女を骨にして良かったと、そう思う。

 いつの日か、この制約に縛られない魔法を使えるようになりたい、と、さらに強く感じる出来事だった。



 そして、僕らは人っ気のない路地裏を後にし、本来の目的であった、買い物を済ませ館へと帰還した。

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