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僕は骨が好きだ。大好きだ。【旧版】  作者: まいまいഊ
3章 僕の骨休めな日々
13/22

13. 君のその誘惑の魔法は僕には効かないんだ。と、その青年は言った。

 僕は骨が好きだ。

 骨と歩くのは、非常に楽しい。

 今も、指と指を絡ませて、手をつないで、僕は骨と街を散策する。

 誰が見てもふたりは恋人であると見せつけるように――





 平和な街に、僕はすっかり油断していた。ここは異世界、しかも、人間の住まう土地ではない。生物を簡単に引き裂ける程の有り余る力を持っているとはいえ僕はごく普通の一般人、気配を読むといった業は持ち合わせておらず、ふいうちにはめっぽう弱い。気がついた時、僕は人っ気のない路地裏に連れこまれていた。

 目の前にいるのは、悩ましげな肢体を持つ淫魔(スクブス)という種族の魔の者がいた。彼女は下級の魔族である。


「あんな骨人(スケルトン)じゃなくて……あ、た、し、はどう?」

 彼女の目的は至って簡単。人間の男が欲しいのである。彼女は僕を誘惑する。その身体で、一体何人の人間を堕落させてきたのだろう。


「……」

 突然現れては、淫乱な体を晒している彼女に、僕は戸惑うばかり、声さえ出なかった。領主様からは魔の者に襲われることは滅多にないと言われましたが、彼女には別の意味で襲われそうです。


「人間の癖に、何で跪かないのよ!」

 いつまでたっても誘惑が効かないことに逆切れる淫魔な彼女。


「あ、あぁ……申し訳ないけれど、君のその誘惑の魔法は僕には効かないんだ」

 領主様監修の修業によって鍛えている僕は、今の段階で中級の魔族と同程度には力を持っている。下級魔族の単純な魔法など、無効に等しい。彼女の誘惑を受けて我を忘れて、欲の赴くまま腰を振るといった行為に至ることはないのだ。

 それに僕は肉の塊には興味がないことを、彼女が知る由はない。彼女の、翼の生えたあたりの骨格は非常に気になっているが、彼女が強調している胸のたわわな双丘や、黒いレース製の衣服からほんのり透けて見える下着の奥に隠された秘境にはあんまり食指が動かない。


「ちっ、意外に強者というわけね。魔法が効かないのなら、実力行使よ」

 魔法など使わなくとも自慢の肉体があるのだ。彼女は今にも見えそうなほどに服をさらに着崩し、褐色に焼けた肌をさらして僕に迫る。見えそう、ではなくもはや見えている。上も下も。

 目に毒、というのはこういうことを言うのだろう。僕は目のやりどころに困ってしまう、というか、くっきりと浮き出た骨盤に目が行ってしまう。

 僕は骨盤が好きなのだ。

 骨盤にかかる邪魔な紐を解き、恥骨を覆い隠す布切れを取り払って、触りたい、味わいたい、堪能したい。最終的には骨にして、僕だけのモノにして、隅々まで堪能したい。ヤりたいという、本能が暴れだす。

 淫魔の男を誘う艶めかしい見せ方に、僕の性欲は期待は、否が応でも高まっていく。淫魔の巧みな誘惑に取り込まれそうになる。


「そ、ソレもいいけれど……でもやっぱり、同じふにふになら、この子の方が良い。いでよ、僕の(しもべ)よ」

 僕は彼女の誘惑に負けてはならないと、ブロブの骨を思い浮かべ、召喚する魔法を唱える。己の僕たる骨ならば、魔法でいつでも呼び出せるのだ。

 僕の召喚は成功し、ブロブの骨が現れた。僕はそれを抱えて、その柔らかさを堪能する。やはり、柔らかいとはいえ骨は最高である。


「な、何これ?」

 突然割り込んできた得体の知れない物体に、彼女は驚きを隠せない。

「このやわらかな触手の骨がたまらないよね」

 絡み付いて離さないこのぬめりに似た触手の骨に、僕はうっとりとする。


「あ、あんたの脳みそウジがわいているの? 人間かと思ったけれど、腐っているの?」

 淫らな姿態の女性がいるにもかかわらず、反応が薄いということは、そういった行動をつかさどる部分が機能していない、つまり死体(ゾンビ)が思い浮かぶのである。ゾンビには、誘惑といった精神に働きかける事象は通用しないこともあり、彼女はそう思ってしまう。


「死体か、実際にそうだったら、いいのにな……僕は死体ではなくて、普通の人間だよ」

 そうすれば魔法を習得せずとも、リサを始め、彼ら不死の者たちにも警戒されずに済んだだろう。


「そ、それより、あんたそのブロブでナニしているの?」

 僕はブロブの触手(ほね)を掌一杯に収め、揉みしだいていた。その骨の柔らかさと、ぴくりと震える初な反応に癒されながら、彼女の話を聞いていた。この子は声を発する器官を持たないが、僕の脳内では、押し殺したようなかわいらしい吐息をはいて、あえいでいる声が勝手に再生されているので、非常に興奮してしまう。


「いやね、この子がキモチイイっていう場所を弄んで悦ばせて……」

 ブロブは触手を太めたり細めたり、流動を繰り返している。僕は触手を片手で握りしめ、ブロブの動きに合わせ、根本を上下に擦る。見た目には男性の象徴を彷彿とさせるが、柔らかな張りのある弾力は女性の胸を思わせる感触がある。

 僕は空いている方の手を使い、触手の先端へ向かって這わせる。先端にある蕾のような小さな突起を優しくつまみ、クニクニと何度も弄ぶ。半球型の体は大きく震え、触手と共に力をなくし、だらりと垂れてしまった。ソコはブロブにとって敏感な場所だったようだ。偶然にもイイことを知った。次からはもっと優しく扱わなくてはと、僕は心に留めた。

 変幻自在なブロブの触手を見ていると、色々試してみたくなる。今夜あたり、リサにシテみるのも良いかもしれない。

 僕以外のモノで快楽によがるリサ、なんて背徳的な誘惑だろう。僕の脳内は色欲に満たされていた。



「あら、性に興味のない朴念仁かと思えば」

 彼女の瞳に期待に満ちた光が宿る。

 淫魔は相手が性的な反応を示しているかどうか、どの種族よりも過敏に感じ取れるのだ。

 確かにブロブの骨を堪能していた僕は、性的に興奮していた。


「私に、してもいいのよ? この胸も、お尻も、それよりも、もっといいトコロも、ぜ、ん、ぶ。ねぇ、わたしにして? お、ね、が、い」

 淫魔の声音が甘い吐息に変化したのを、僕は聞き逃さなかった。

 相手がどんな趣向を持つ男性だろうと陥落しそうな猫なで声で、僕の煩悩に語りかける。

 彼女に飲まれてはいけないと思いつつも、男の本能は正直だ。異常者ではあるが、一応は健全な男子。好みではなくとも、それなりの容姿の女性に誘われてしまえば下半身は来る者は拒まない。



「うふふ、大丈夫。お姉さんが色々教えて、あ、げ、る」

 豊満な胸を僕に押し当てて、僕の理性の陥落を狙う。

 淫魔に、溺れることなく身を預けることは難しい。うまくヤらなければ、最悪、骨のことも忘れて、そのまま彼女の虜になってしまう恐れもある。


「ううぁ……じゃあ、この触手と一緒に、試してみるかい?」

 僕は、によりとする。何度も言うが、僕は異常者だ。変態だ。彼女を束縛しながら、彼女の骨格を堪能しながら、一方的に骨を楽しむのだ。


「触手? 通りで簡単に靡かないわけね。良いわ、いらっしゃい」

 特殊な性癖を持つ人間相手に、幾度となく営みを経験してきたのだろう。どのような行程を経ようとも、最終的にヤることは同じであることも分かっているのだろう。

 ありとあらゆる欲望を満たし、最高の状態で相手の精気を頂く。そのためならば体を張ることくらい、何てことはないようだ。


「あと、勢い余って殺しちゃうかもしれないけれど……その時は骨にしてあげる。血肉は脱ぎ捨てて、ありのまま見せてよ。そして、もっと愛し合おう! 君の骨を、これでもかというくらい愛でてあげる!」

 行為の最中に相手の女性を殺めてしてしまうのは、地球にいた頃からの僕の悪い癖だ。しかも、この世界に来て怪力になってしまった。肉に隠された骨を堪能するために首を絞める時には、間違いなく彼女の細首はありえない方向へ曲がってしまうだろう。


「骨? ……へ、変態っ! 悪魔っ!」

 殺されるかもしれないという部分ではなく、骨にするという部分で反応するあたり、人間とは思考が異なるのだろう。

 彼女は顔色を変えて、飛び去ってしまった。


 路地裏にひとり取り残される僕。

「淫魔にさえ悪魔呼ばわりされる僕って……」

 僕の人間らしさは、どこへいってしまったのだろうかと、僕は少しだけ落胆した。

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