10.ぷるんぷるんな骨が、あるとは!と、その青年は言った。
僕は骨が好きだ。
今はまだ小さな動物や小さな魔物しか繰れないが、だいぶ賑やかになってきた。
僕は骨に囲まれている。
それは楽園だった――
魔法の特訓をする日々で、下僕の骨も増えてきた。魔法を使うのは楽しいが、あまり根を詰めてもよくない。
僕はリサを連れて街へ行こうと計画を立てた。たまには大きな街にでも行って、デートを楽しみたかったのだ。
街へ行くにあたって僕はフードつきのローブを身にまとう。僕は魔の気配を手に入れているので、顔を隠してしまえばそう簡単に人間だと分からなくなる。仮に顔を隠さず街を歩いても魔の者に襲われてしまうことはないが、「人間だから」という理由でやってくるいらぬトラブルを避けるためにも隠しておくに越したことはないだろう。
「街に行ったら、かわいい服を買ってあげるからね」
魔物や動物を狩ってその肉を売り、多少のお金はあった。あまり大層な物は買うことはできないが、ちょっとした感じの服なら僕の手でも買うことができるだろう。
「私は、衣服なんて……このローブでも十分、立派なのに」
リサも僕と同じローブを身にまとっている。彼女の美しい肢体を他の者にさらしたくなかったからだ。しかし、こんな古いローブでは彼女に申し訳がない。
「こんな味けないローブじゃなくて……ドレスとまではいかないけれど、僕のリサには、かわいくあってほしいんだ」
僕はそう言って、彼女の額にキスをする。それに、自分が買った服を脱がせるのも、なかなか乙なことなのだ。
領主さまの館から、その街までは少し距離がある。
人通りのない閑散とした街への道を歩いていると、魔物の死骸がひとつ落ちていた。死後数日は経っているだろうか、他の生物に食べられたあとが見える。
「なんだろう、このぷるぷるした屍骸は」
「それはブロブという魔物ね。この辺ではあまり見ない魔物だけれど、迷いこんで力尽きることって多いのよね」
生息地から離れ迷いこんだ魔物の多くは、食べ物が合わずに死んでしまうと言う。この魔物もそうした一種なのだろう。
「ブロブ? まぁとにかく、魔法かけてみよう」
死骸を見つけたら、即、魔法。これが上達のための鍛錬だ。上達した僕の魔法は、その生物の「骨」に働きかける。骨がない生物ならば、魔法は不発に終わってしまうが、骨が存在するならば、肉塊から生まれてくるのだ。
(ちなみに、海産物が手に入った時、興味本位で軟体動物にその魔法をかけたことがある。そうしたら、嘴のみの生き物になってしまった。移動はできないが、強力なかみつき攻撃ができるので、護身用にリサに持たせている)
「このくらいの大きさなら、僕のレベルでも大丈夫かな」
死骸の解体は僕の趣味だが、どう解体したらいいのか分からない生物は、魔法に頼って骨を露わにするしかない。この辺では見かけない魔物の屍骸に、僕はその魔法をかけたのだ。
「ぷるぷるだぁ、こんな、ぷるんぷるんな骨が、あるとは!」
どうみても軟体系の生き物に見えたので、魔法も不発に終わると思っていた。しかしこの星の生命は地球の常識を凌駕する。
まさか骨があるとは思わなかった。思いもかけない骨に出会うとは。カルシウムではなく、コラーゲンでできた骨。僕はカルシウムではない骨に、生命の神秘と斬新さを感じてしまう。
「あぁ、あぁ……この世界は最高だ!」
まるで、ウォーターベット。僕はブロブの骨に埋もれるように身を委ね、その柔らかさを満喫する。
「これブロブの……骨なの?」
ブロブの骨にダイブしている僕を微笑ましく見ているリサは言う。
「僕もびっくりした。何事も挑戦だね。こいつの上で横になると気持ちいいんだよ。リサもやってみなよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
そして、人の目がまったくないことを良いことに、僕はリサに覆い被さって……そのまま骨の上に抱かれながら、リサと甘く熱い時間をちょっとだけ過ごしたのは、ここだけの話。