1.骨の骨による骨のためのプロローグ。
子供たちは、その英雄の物語を「話せ話せ」とせがんでいた。それは、その子供らが生まれるずっと前の話、この大陸に現れた一人の英雄の話である。
子供たちに頼まれ、遠い日を思い出すように彼女は語りだす。
「昔、ツトムという骨の好きな変わった人間がいてね、私を悪い人たちから、守ってくれたの」
物語は紡がれる。
彼との出会い、そして、彼の辿った旅路を、数奇な運命を。彼女が愛する、彼の物語を。
あの時以来、ツトムとは長い時を共に過ごしたが、彼との間に子はできなかった。愛はあれども、種が大きく異なりすぎていたのだ。
しかし、寂しいと思ったことはない。そのかわりに彼の影響を受け自由を手に入れた者たちが、この国にやってきたのだ。
彼らの多くは奴隷、しかも、使い捨ての道具として扱われていた者たちだ。
ほとんどの奴隷は魔法で縛られ、基本的には主人に逆らえない。雇用主の考え方ひとつで奴隷の就労環境は決められる。最も最悪の隷属魔法にかかれば、自意識のない人形となり、死ねと言われれば躊躇なく死ぬことができるほどなのだ。
ツトムは雇用の形態の一つとして奴隷制度を認識していたが、奴隷を使い捨てるような者から、彼らを助けたいと活動していた。ツトムは自分の手の届く範囲で手をさしのべてきた。
それが積り積もって、今のこの国がある。ツトムに救われた者たちは皆、彼の子であり、仲間なのだ。彼の周りはいつも多くの優しさに包まれていた。
「ねぇ、その人、今、どうしているの?」
最近、物言えぬ奴隷から解放された子供が尋ねる。彼のことは噂以上のことは知らなかったのだ。
「そうね、今ごろは……『骨』になっているかもしれないわね」
彼が常日頃から「死んだら骨になるんだ」と、そう言っていたことを彼女は知っていた。
かの英雄が活躍をしたのは、もう何十年も昔の話だ。もちろん彼女は――彼女が愛する彼がその後どうなったのか、すべてを知っている。