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妹オンライン  作者: 寝たきり勇者
第一部
6/37

日刊ネットワーク産業新聞 特集記事

集中連載 『ネットワークビジネスの次世代の旗手に聞く』 第3回


東京品川電気株式会社 ネットワーク事業本部

ソーシャルメディア事業部 コアテクノロジー開発部 統括部長


野上 哲也氏



 ネットワークビジネスの本流と目されながら、商業的には苦戦の続くソーシャルメディア仮想世界コンテンツに、今年4月1日、新たに「ペアで生活オンライン」のサービスが加わった。運用開始から1ヶ月、開発メンバーの中心人物である東京品川電気株式会社、野上哲也氏に「ペアで生活オンライン」の開発の経緯と現状、そして将来展望について語って貰った。


○ソーシャルメディア仮想世界コンテンツ


 日本においてインターネットへの一般家庭への接続が普及し始めたのは90年代の半ばになります。その黎明期、個々の企業や個人がテキスト情報や画像情報を初期のHTML形式仕様で競って発信し始めた頃には既に、FAQサイト、ブログやSNSの形でソーシャルメディア自体は存在しており、仮想世界のコンテンツも試験的な運用が主体ではありながらも幾つかの雛形が作成されていました。21世紀に入る頃からネットワーク上での世論形成の関わりという観点でソーシャルメディアはその存在感を増すようになります。一方、ブロードバンド接続の普及による接続帯域の増加とGPU技術等の進展によるクライアント側の描画能力の向上により、技術者以外の一般の人が見ても鑑賞に堪える仮想世界3Dコンテンツの作成が00年代の後半辺りから現実味を帯びるようになってきました。


 そのような中でソーシャルメディア仮想世界コンテンツとして登場した『アナザーライフ』は、ネットワーク事業のビジネス展開という視点で、業界内外の関係者から多くの関心を持って迎えられました。広告会社などを利用したプロモーション活動の成果などもあり、サービス開始当時はネットワーク上の一大ムーブメントを興すのではと期待されたものです。しかしながら、現在『アナザーライフ』のことを口にする人は殆どいません。ユーザーが定着せず、思うように収益を上げられなかった開発元のランドン社は一昨年メガロソフト社に運営を譲渡、その際に日本語サービスの停止が発表され、その時点で事実上日本での『アナザーライフ』は終了しました。私を含め、日本で3Dコンテンツビジネスに関わる者の多くが落胆を禁じえない結末でした。


○「ペアで生活オンライン」プロジェクトについて


 上で紹介しました『アナザーライフ』などでも顕著に確認された傾向なのですが、登録ユーザー内の特に女性ユーザーの多くが用意されている仮想世界に定着せずに短期間でコンテンツを離れてしまう理由に仮想世界内の約束ごとの多さとそれを守る煩わしさを挙げています。我々、男性にとって見れば例えばファンタジー世界で遊ぶゲームを買ってくれば、ゲームを始めればファンタジー世界の住人として行動しなければいけないのは当然のことと思うのですが、女性はそのようなものに自分が合わせなければいけないことを無意識のうちに拒絶するようです。


 日本再生戦略の項目の一つに諸外国と比較して低いレベルに留まっている日本女性のネットワークへの積極的な参加を促進するというものがあるのですが、その一環として、女性がログインし易い仮想世界環境モデルの作成を目的として技術振興協会の戦術的創造研究推進事業からの助成を受けて行ったプロジェクトが今回の「ペアで生活オンライン」の母体となっています。


 結論としては、女性が仮想世界にログインする敷居は下げれば下げるほど良く、仮想世界内で行う行動も現実の日常生活を模倣する物であればあるほど抵抗が少ないというある意味少し意外な結論を得ました。例えば男である我々から見ると、仮想世界の内部でTVを見るのに何故リモコンを使う必要があるのかなどと思いがちなのですが、彼女たちにとってはそれが自然な行動と感じられるようです。


 ならば、そこまでは良いとして仮想世界特有のサービスや楽しみを女性たちに味わって貰うにはどうしたら良いのか?という疑問が次に出るのですが、これも最終的に「女性が求めるサービスを受ける際に必要となる手続きを他者が代わりに行ったときに満足度が一番高い」という困った結果を得てしまいました。この結果を受け、当初は手助け役としてエージェントAIなどの活用を試みたのですが、所詮、現在のAIのレベルでは到底満足できるものにはなりません。開発チーム全員がかなり悩んだのですが、あるとき研究員の一人が「もう仮想世界内にいる男にやらせてしまえば良いんじゃないですか?」と言い出して、この目から鱗の発想で男女ペアを基本とした仮想世界コンテンツというアイデアに辿り着きました。


 このアイデアの良いところは、一ひねりして未婚の男女ペアを想定の基本に据えると、消費性向が高いということでビジネス的な魅力があるのと同時に、今度はプロトタイプ作成時に日本再生戦略の少子化対応プロジェクトのネットワークを利用した非婚化対策の部門から助成が受けられるから、誰にも憚らずにプロジェクトを始められる、という点なんです。こうして、現代日本の住宅環境を模倣した仮想空間内にペアでログインさせるコンテンツを基盤とした仮想世界作成という基本コンセプトが固まりました。


○コンテンツ開発時の苦渋の決断


 上記の経緯を経て始まった「ペアで生活オンライン」プロジェクトですが、プロトタイプ作成までは順調だったのですが、その後に実際のワールドを作ろうとした時点で壁にぶつかりました。リオ五輪の終了を機に、欧州の債務危機やら米国の財政の崖など問題山積の世界経済の中で、数少ない成長セクターだった南米市場の行き足がぱったりととまってしまい、結果、親会社の業績が振るわないわけです。


 『アナザーライフ』の商業的な失敗で、多くの企業が痛い目を見たという経験もあって、インターネット上での仮想世界商業コンテンツに対する逆風は、かなりのものがあります。仮想世界の新規の3Dコンテンツ作成のための予算が、役員審議会でまるで通らないという状況に頭を抱える日々が続きました。低予算で開始できるのならば一定期間の運用を許すとの確約を経て、最終的にプロジェクトにGOが出たのが約2年前になります。


 なんと言っても予算が無いということで、世間に出ていなくてお蔵入りしている3Dモデル、それも今ユーザーさんの目の前に出しても問題のないレベルの美麗なものはないのかとかなり色々な方面をあたりました。結果、最初に目星をつけていた『アナザーライフ』から休止後すぐに商業施設データを、上述の仮想世界環境モデル作成時にご一緒頂いた各住宅メーカーの方々から居住エリア用の3Dデータを提供して頂くことが出来ました。更に、開発が打ち切られた大作ゲーム『ミスティック・アース・オンラインVII』から、ファンタジー世界用3Dコンテンツの一部を譲り受けることで話が纏まり、ようやく目鼻がついた感じになりました。


 最初にプロジェクトを立ち上げた時点で、ペアで生活していただく家庭とゲーム要素が主体となるファンタジー世界の間で、世界観の統一がとれないことは分かっていました。結局、男性プレイヤーは王宮エリアに行ってRPG的なイベントを体験して、女性プレイヤーは居住エリアで日常生活のイベントをこなしながら、それを見守るという変則的な形に落ち着きましたが、これは開発チームの女性陣の意見を取り入れた物です。私自身は王宮エリア内のイベントの方には口を出していますが、居住エリアで起きるイベントに関しては、発案から実装まで総て彼女たちに任せきりです。


 「ペアで生活オンライン」自身の内容に関しては、皆さんプレイしてのお楽しみということで、この場ではご容赦頂きたく思います。上に書きましたように3Dコンテンツと仮想世界管理エンジンの両方の作成にリソースをとられていない分、ゲーム要素的な部分ではリリース時点から十分な作りこみができていると開発一同自負しています。


「ペアで生活オンライン」ではユーザの自宅が存在する「居住エリア」と商業施設が並ぶ「商業エリア」そして奥にファンタジー世界が広がる「王宮エリア」の3つのワールドをそれぞれ、別サーバーで管理することで、技術的な問題点を軽減しています。サーバー内で動作するワールド管理エンジンに関しても、技術的に枯れた安定性の高いものを使用していますので、突発的なトラブルで皆さんにご不便をおかけする危険性は少ないものと考えています。


 最後に個人的に残念だったのは、とある自動車メーカーさんから参加希望の打診が来たのですが、リリースまでの時間がなかったこととコンテンツ内で自動車をうまく活躍させるシナリオを描けないということで、3Dデータの提供を頂いただけになったしまったことです。この「ペアで生活オンライン」でも車は購入できるのですが、ユーザーが暮らす居住エリアの中でしか運転できないのは申し訳なく感じています。


○今後のプロモーション展開について


 「ペアで生活オンライン」の正式リリースの予告と共に、前四半期の2月中盤より各種メディアを通じたコンテンツのプロモーション活動を開始しています。「ペアで生活オンライン」のイメージキャラクターとしては、前回リオ五輪で活躍し、人々にも美形兄妹アスリートとして知名度が高く、芸能界でも活動の軸足を広げている、田伏 和治さんと里香さんの起用を行いました。4月の正式リリースを機にTV地上波での広告宣伝も始まっていますので目にした方も多いのではないかと思います。


 特に兄の和治さんについては、現在、放送協会でオンエア中の長編時代劇への出演以外の総ての仕事をキャンセルして、この「ペアで生活オンライン」のプロモーションに専念する契約をお願いしています。具体的には4月1日の正式リリースから、完全な1ユーザーとしてこの「ペアで生活オンライン」に参加して頂いています。総てのイベントを自身で体験して、それをWeb上で逐次公開していくことで、コンテンツの広告塔としての役割を果たして頂くことが目的となります。 


 ネットユーザーの皆さんは情報の分析に長けていますので、僅かなずるなども許して頂けないことは開発側も十分理解しています。運動神経に優れた和治さんが、長時間のコンテンツ接続とゲームプレイの取り組みを行っている結果、現時点で「ペアで生活オンライン」に参加している男性プレイヤーの中で和治さんの能力パラメーターは頭一つ抜け出た感じになっています。来週には、和治さん自身の分身とも呼べるアバターが「ペアで生活オンライン」世界のハートランド王国の騎士に叙任されるイベントが行われますので、既存ユーザーの活性化と新規ユーザーの獲得に向けた起爆剤にしたいと考えています。


 妹の里香さんに関しても、「ペアで生活オンライン」に参加する女性ユーザーの視点から、コンテンツに参加した印象などを各種女性雑誌やWeb媒体で発信して頂いています。忙しい芸能活動の合間を縫って、里香さん自身もかなりの時間「ペアで生活オンライン」をプレイして頂いていますので、仮想世界の中では里香さんのアバターに出会う可能性も実はかなりあります。ペアで参加されている女性の方にはお叱りを受けてしまいそうですが、男性プレイヤーの方には大きな魅力の一つと言えるかもしれません。


 運用と平行してコンテンツ自身の拡充も急ピッチで進められています。今回の開発では新規の3Dモデルの作成は極力避けてきたのですが、ビジネス的な重要度の観点から、現在、開発チームの一部を割いて『ハートランド王国聖教会大聖堂』の構築を精力的に行っている所です。今時の目の肥えたネットユーザーの方にも十分満足を頂ける完成度の作りこみを行うことを約束させて頂きます。大聖堂が最初に登場する重要イベントは当然、皆さんが期待されるものになると思いますが、主役を勤めることになるハートランド王国第一王女と隣国の王子役として、熱愛の噂が流れる人気芸能人カップルのお二人に現在出演を打診中です。正式な発表をお待ち頂ければと思います。他にもユーザーの皆さんに楽しんで頂くための各種イベント用の機能を鋭意実装中です。これからも広がりを続ける「ペアで生活オンライン」の世界にご期待ください。



平成3*年4月30日 (文責:編集部 田中)


<<次回、「妹、人気俳優と兄を比較してみる」に続く>>

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