開発部内『ペアで生活オンライン』進捗会議資料
『ペアで生活オンライン』進捗会議資料 201*年07月06日
部外秘 閲覧後回収
ソーシャルメディア事業部 コアテクノロジー開発部 開発二課
大橋 由美子
0:前書き
『ペアで生活オンライン』ワールド開発の個別案件の詳細に関しては以下の外部資料を参照のこと
・ファンタジー世界『ハートランド王国』 開発 ※資料1
・居住区域『ハートランド・シティー』 開発 ※資料2
・商業施設『ハートランド・ミッドタウン』開発 ※資料3
本ドキュメントでは、『ペアで生活オンライン』の婚活関連ビジネス展開の側面に関して、進捗確認及び今後の方針に関連した概要報告を行う。
1:概況
201*年6月末時点における『ペアで生活オンライン』ユーザ数
登録済ユーザ数(アカウント削除済退会者を含む)
・男性ユーザ会員 53540人 ※
・女性ユーザ会員 52679人
※ 『エンジェルWEB婚活会員』経由者861人を含む
成婚報告ペア数 374組 *
*3節を参照のこと
退会者
男性 6628人
女性 6175人
ペア数 39884組
単独男性プレイヤー数 1733人
ペア成立相談所登録者数
男性ユーザ会員 5288人 ※
女性ユーザ会員 5774人
※ 『エンジェルWEB婚活会員』1139人を含む
非所属登録者数(ペアの相手が存在せずペア成立相談所に未登録で且つ現時点でゲームにも参加していない)
男性ユーザ会員 375人
女性ユーザ会員 936人
2:進捗状況
ワールド運営開始時より、国内大手結婚相談所各社に対して業務提携の打診を行ってきたが、4月下旬の時点で、相談所会員側にのみ発生する成婚時収入の均等な分配(キックバック率50%)、及び、相談所男性会員側の質の保障を目的とした長期滞留(未成婚)会員の排除の2点に関する同意が得られたことから、業界2位の『エンジェル』結婚相談所との業務提携を行った。男性登録者数の継続的な超過と成約率の低さから業績の低迷が続いていた『エンジェル』サイドの事情から、当社に有利な今回の条件下での提携が実現されたものと判断される。この提携に基づき、6月初旬より『エンジェル結婚相談所 第一期WEB婚活会員』2000名の『ペアで生活オンライン ペア成立相談所』内への受け入れを開始している。
『ペアで生活オンライン』は、男性プレイヤー登録数が女性プレイヤー数を大きく上回る通常のMMOワールドとは異なり、登録の時点で男女会員比率が1:1であるという特徴を持つ。またワールド内での定着率の差異、及び、『魔術師ギルド』登録者という単独でのゲームプレイを自ら希望する男性プレイヤー層の存在により、定常的にペア成立相談所登録者では女性会員数が超過する傾向が続いており、外部結婚相談所からの適宜な人数の男性会員の受け入れは、ペア成立を期待する女性ユーザの要望をも叶える適切な手段であると考えられる。
現時点で20代の未婚女性プレイヤー2500名強のペア成立相談所への登録を達成しており、この事実は結婚相談所側の男性会員に向けての大きなアピールポイントとなり得る。事実、提供された内部資料によると、当社との業務提携を示唆した『エンジェルWEB婚活会員』の募集以来、『エンジェル』社の会員側からの会社満足度の上昇は顕著であり、新規会員の獲得に関しても現状で他の大手結婚相談所の追随を許さないものとなっている。
中期的な展望としては、結婚活動に対する意識が最も高い層である『エンジェル』結婚相談所経由の男性プレイヤーが『ペアで生活オンライン』内で女性パートナーを獲得できた場合に、単なるゲームや商業施設利用が主目的の登録ペア層と比較して、成婚に到る確率が高く、またその期間も短くなる効果が期待できる。結婚相談所側から提供される、一人あたりの高額な成婚時収入が見込めると共に、ワールド内での結婚活動促進という観点から今年度、次年度の実績つくりに大きく寄与するものと期待される。
簡易集計された6月度の実績に関しては、『エンジェルWEB会員』受け入れの初月度ということもあり、積極的なペア成立へ向けての斡旋活動の結果、ペア成立相談所内の成約ペアの実に7割強が『エンジェル』関連会員という結果となっている。7月度以降はこの数値は順次漸減する予定であるが、ゲーム内部よりペアを離脱することにより供給される女性会員数と、今後『エンジェル』側から受け入れる男性会員数の比率が一定の期間後に収束することが業務提携維持の根本条件となるため、ペア成立相談所の運用に関しては今後も注意深く見守っていく必要がある(4節参照のこと)。
3:次段階方針
次の対外的な取り組みとして、富裕層向けクレジットカード会社『タイクーン・クラブ』との業務提携が、現在最終的な提携条件の刷り合わせまで進んでいる段階にある。『タイクーン・クラブ』の上級会員をゲーム内に呼び込むことが出来た場合、サービス利用、商業施設の利用などで一般的な会員と比較して、顧客一人当たりに得られる収益が次元の違う物となる可能性が高いため、一般会員とは違う扱いをすることも条件に含まれる。
まず、上記の結婚相談所『エンジェル』との提携と類似の手法で、『ペア成立相談所』に登録済の女性会員をペアとなるプレイヤーとして紹介を行う。『タイクーン・クラブ』上級(センチュリオン及びプラチナ)会員に対しては広範な女性プレイヤー情報の閲覧権限を与えるなど、ペア成立へ向けての最大限の配慮を行うこととする。
更に、『タイクーン・クラブ』会員は年齢が高く既婚者割合が大きくなるものと予想されるため、ペア成立登録所の案内時アンケートで『ペアの男性プレイヤーの収入を重視する』を選択した女性プレイヤーに対して、詳細アンケート時には『ゲーム内でペアとなる男性プレイヤーが既婚者でも構わない』を確認する項目を追加し、成婚を前提としないゲーム内限定のペアの成立も可能とする。ゲーム内のみのペア関係でも商業施設などの利用で多くの収益が期待されるためである。
また、『タイクーン・クラブ』上級会員は、概して社会的階層が高く、設定されている王国内のゲームプレイを強要するのにそぐわないと考えられるため、ゲーム内世界での負担が無く女性プレイヤー側からのペア成立の一助となるような、魅力ある特別なプレイヤー枠を設定して地位を提供することを予定する。
他の項目としては、ペアの男女プレイヤーが実際に成婚に到った場合に、『ペアで生活オンライン』内で享受可能な結婚イベントの実装は必須であり、中期的には最優先で取り組みを行う必要がある。現状でサービス開始後にペアの男女で成婚の報告がなされた数は、未だ374組であるが、夏以降成婚ペア数が急激に増加していくことが予想される。『ハートランド王国大聖堂』など結婚関連イベントに必要なワールド内コンテンツが未実装であることから、現状では成婚ペアに将来のイベント参加の予約券を配布しているだけに留まっているが、今後の展開に備えて関連コンテンツの実装に関しては、スケジュールの前倒しを行う必要があると思われる。実現可能な方策としては開発工数の追加などが考えられ、先日、人員削減の新聞発表が行われた『ペンタゴン・フェルテア』社から中途採用者を募集するなど、人的資源の拡充が求められる。
4:カスタマー対応及びコンプライアンス
カスタマー対応としては、『ペアで生活オンライン』の運営開始時点で、数人分の工数でネット対応の専従チームを配置している。ワールド内ゲーム関連情報の外部記載に対する削除警告などの業務に加え、運営に対する誹謗といったマイナスイメージを与える書き込みが、ワールド離脱者の増加に伴い今後増えることが予想されるため、下半期には匿名掲示板などでの誹謗レスに対するカウンター対応を取るための専用の人員を外部より招聘し増員することとする。
掲示板の書き込みに関しては、運営側の擁護一辺倒ではなく遡ってコメントを調べられた場合でも、偏って発言していると思われないよう行動するように、書き込み要員への教育を徹底する必要がある。例を挙げれば、男性プレイヤーに対する王宮内ゲームイベントで、『兵士訓練が厳しすぎる。こんなのでは婚活ではなくペアが不快な思いをするだけ』というコメントがネット上で数多く散見される。このような場合、同じ負方向の書き込みでも内容を吟味して返答を行う指導を徹底する。
運営の現状に対して馬鹿、或いは気が狂っているといった無能を示唆するコメントに対しては、否定する必要はない。『確かにゲームバランスが間違っている』『こんな馬鹿げた状態は早く修正すべき』『俺も運営に苦情を連絡済。そのうち改善されるのでは?』といった書き込み者に同意するコメントを返答してよい。逆に『このゲームのせいで彼女と別れた』『俺以外にもこのような目に会ってる奴が多いのでは?』といった、システムの総体に対して疑義を申し立てるような書き込みに対しては、必ず完全に否定するコメントを常に返答させる。具体的には『お前があの程度の訓練もクリアできないから愛想尽かされただけだ』『掲示板でグチるだけの惨めな負け犬、乙!』『自分の無能を人のせいにするな』といった、システムの問題ではなく個人責任に帰する形の書き込みを、複数のIDから短時間に集中して行うことが推奨される。
結婚相談所『エンジェル』との業務提携に関しては情報の公開を含め、取り扱いには充分に注意していく必要がある。特に、結婚相談所に関わりを持つペアの成婚率の上昇が今後統計的に明らかになった場合、ネット上などで、『ペアで生活オンライン』運営サイドが登録してきた男女ペアを意図的に破局するように誘導して、相手を失った女性プレイヤーを結婚相談所の男性会員に常に優先的に紹介しているといった類の、謂れのない中傷を受けてしまう潜在的な危険性を強く認識しておくことは重要である。このような観点から原則的に『ハートランド王国』内では、『エンジェル』関連のCMなどを流さず、露出を極力控える形にすることは既に提携時に了承済である。
また現状で当面必要な数のフリーの女性プレイヤーをペア成立相談所内に確保済であり、『エンジェルWEB婚活会員』初期受け入れ者対応にも目処がついていることを考慮して、先手を取って、開発陣が『リリース当初、図らずも男性プレイヤーに少し厳し目になってしまっていたゲームバランスの改良』に積極的に取り組んでいるという姿勢を強くアピールしていくことが重要と考えられる。最終的に今後継続的に受け入れていく予定の結婚相談所側男性会員数(200人/月)の四倍程度のペア離脱者が各月に発生する程度にまで、ゲーム内容を簡単にして男性プレイヤー側の負荷を減らすことが可能と判断される。次回アップデート時に、特に不満が高い王宮兵士の訓練内容とイベント合否判定、再訓練の手法、死亡時のペナルティなどに関して、条件を目に見える形で緩和する方策を採ることが決定済である。女性プレイヤー側へのペアの王宮務めに対する過度に挑発的なマニュアル記載内容も次回同時に修正を行う。
『タイクーン・クラブ』との提携の場合も同様であり、プレイヤー枠を直接一定の金額を投じて購入できるという形にすると、将来的な批判の対象となる危険性が考えられるため、『タイクーン・クラブ』側のポイントサービスなどの、あくまで高位の会員資格に付随した、お遊び的な要素として新規のプレイヤー枠を提供する形にすることが肝要である。
ゲーム内で新たに提供を開始する新規プレイヤー枠は『貴族』とする。
ということで、訓練の不自然さ等から予想していた読者の方も多いと思いますが、運営サイドの一部は見事に真っ黒です。みんなが苦労して取り組んでいた王宮勤めも婚活用の『カレの社会人適性チェック』などでは全然なく、実態は定常的に一定数以上のペアを別れさせるための手段で、フリーになった女の子たちは、提携先の結婚相談所の男性会員にペア成立相談所経由で横流しされていた……というオチでした。当然ながらこの女性開発者は、巧君が今後倒すべき敵の一人になります。
巧君の一人称視点で進む小説なので、巧君が把握できている情報の範囲で思っていたゲームの現状と、運営がやってることの実態とは既に大分違っていて、段々それが明らかにされていくことに……という感じで物語は進むことになる予定です。
『ペアで生活オンライン』が、なろう屈指のVRMMOクソゲー認定されてしまいそうな気がして作者的には少し心配な今話でした。




