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妹オンライン  作者: 寝たきり勇者
第一部
3/37

第三話 妹、ネットゲームに人生を見出す

「お兄ちゃん、準備は良いですか?」


 時刻は夜8時。登録時のハイテンションのまま、夕飯と風呂の時間を乗り切った優美は、風呂あがりの時間をくつろいでいた俺を拉致すると、そのまま部屋へと引っ張り込んだ。


「おう、大丈夫だ」


 優美の格好が、またねずみの着ぐるみ状態に戻っているのは良いとして、ヘッドマウントディスプレイを額にはね上げて、そいつに赤外線で繋がっている白い手袋をつけた姿を、両手を上げて甲を俺に向けて見せ付けるのは止めて欲しい。優美、今から俺と一緒に一体何をオペしようというんだ。


 VR、バーチャルリアリティという単語は、今の時代どこでも見かけるけれど、実際にはそんなに簡単に実現できる代物ではない。五感のうちで、3Dコンテンツの登場でヘッドマウントディスプレイを被れば、聴覚と視覚は置き換えられるけれど、残りの3つを技術的になんとかするのは難問だ。辛うじてセンサーがついた手袋をはめることで部分的に触覚を再現するのが、今の家庭向け製品では精一杯という印象だろう。それでも仮想世界の中にあるものを、触れて掴めて動かせるというのは、なかなか大きな進歩なんじゃないかという気もしないではない。


 とりあえず、優美と二人並んでベッドの横に大きめのクッションをそれぞれ置いて、楽な体勢をつくってHMDを被ればログインの準備は完了だ。プレイ中に、手を動かしてる姿を誰かが外から見たら、間違いなく「死霊の盆踊り」状態だろうけど、あるとしても母さんだけと思えば構わないとしよう。


 隣で「リンクスタート!」と元気に叫ぶ優美の声を聞きながら、俺もHMDのスイッチを押してゲームを開始した。



 次の瞬間、俺の眼前に広がっていたのは、めくるめく剣と魔法のファンタジー世界……などではなく、日本のどこかの地方都市ですぐさま見つけられそうな新興住宅地の光景だった。


「お兄ちゃん、こっちだって」


 起動するゲームでも間違えたのかと思った俺に聞こえてきたのは、すぐ近くからの優美の声。振り向けばいつもと殆ど変わらない表情をした優美のアバターが目の前にいた。キャラクターを作ったときにも思ったけど、結構可愛くポリゴン化されてるぞ、優美。


「これって、あってるの?」

「うん。ここが今の新規ユーザー向け住居エリアの入り口だから、優美とお兄ちゃんの家はここから3つめの角を右に行ってすぐだと思う」


 HMDの左上方に表示されているマップを確認しながら、待ちきれないのか、俺と俺の疑問の両方を置き去りにして歩きだす優美。俺も慌てて後を追った。勿論、足にセンサーなどついてないので、左手の甲についてるパッドを右手の指でこすってカーソルを動かすことで仮想世界内のアバターを移動させるだけだ。仮想世界では移動も早い。時間を置かずに俺と優美は目的の場所に到着した。


「みてみて、優美とお兄ちゃんの家だよ」


 俺と優美が辿り着いたのは開発中の住宅街の端の家だった。左隣には同じ形の家が存在しているが、右隣は整地されただけの空き地になっている。次に割り当てられるユーザーが出たら家が出来るのだろう。


 さて、肝心の我が家である。土地の大きさは5mx10mくらいだろうか。かなり狭いと感じられる土地の大半を使って平屋でフラット屋根の戸建の家が建っている。家の南側には玄関から3mくらいの敷石の小道と子供が遊べそうな芝生の庭があって、右端の入り口に門がついている。流石、個人資産の意識の高い現代というべきか、土地の境界はぐるっと低い柵で囲われていた。


『たくみとゆうみのおうち』


と書かれた(初期設定で優美が勝手に入力していた)門に取り付けられたプレートを見ながら、自分の世界に入ってしまっている優美を横目に、俺は微妙な違和感を覚えていた。何故かこの作りの安そうな家に見覚えがあったからだ。


 2,3分の時間が経過したあと再起動した優美に連れられて、俺は自分のものであるはずの住居へと侵入を果たした。家の中身は1LDKというのだろうか。普通の部屋一つとリビング付き台所とキッチンの構成になっていた。コンパクトだが使い勝手の良さそうなキッチン、同じくコンパクトだけど多機能そうなバスルームと洗面所、同じくコンパクトな……


 嬉しそうに騒ぎながら一つ一つの部屋を見ている優美の横で、俺はうんうん唸っていたが、動きに滑らかさが欠ける脳細胞にほどなく天使が舞い降りて、脳裏にこの間見たニュース映像が閃いた途端、俺は解答に辿り着いたのだった。


 これって、今年モデルの戸建復興住宅じゃね?


 一旦、答えに気付くと後は早い。俺は以前視聴した経済ニュースの中で出ていた「進化する復興住宅、-安くて使い勝手の良い生活を居住者の手に-」という展示会場のレポートの様子をまざまざと思い出していた。確かに、目の前にあるシステムキッチンも洗面台も目玉商品としての紹介を受けていた。


 その時、一通り家の中を見終わったのか、俺の前にやってきた優美が満足した表情で感想を言った。


「小さいけど、綺麗で良さそうなお家だよね!」

「そうだな、結構センス良いよな」


 そりゃ、注目度が高くて、各住宅メーカーが力を入れてる分野だからななどと優美の夢を壊す返事ができるわけもなく、俺は適当に相槌を打ちながら、この奇妙な「ペアで生活オンライン」コンテンツの内容を考えていた。


 ファンタジー世界と称されているハートランド王国の国王様から国民に下賜される新型復興住宅。この設定は一体何だ?


 家を大方物色し終わった俺たちは、優美の提案で仮想世界内の距離で家から4kmほどのところにある商業エリア『ハートランド・ミッドタウン』を買い物がてら見物することにした。


 1時間かけて仮想世界の中を歩いて……などということは当然なく、目的別に設定されたエリア間の移動用に用意されたボタンを押すだけで俺たち二人は『ミッドタウン』の玄関口へと移動していた。


 優美と二人で見上げる商業エリア内の建造物。というか、普通に商業ビルが並んでるんですけど……


 変な予感というのは得てして容易に実現するもので、『ミッドタウン』の建物はどれも、どこかで見たことがある物ばかりで構成されていた。


 ここに至って、俺はこの「ハートランド王国」に存在する建築物の大半が恐らく他のコンテンツから横流しされた3Dデータによって構成されていることを脳内で確信した。例えば、入り口右手にある建物は、ビジネス的な不調で一昨年サービスが終了した『アナザーライフ』で使われてたことに今月の小遣い全部を賭けても構わない。


 とりとめのない思考に身を委ねながら、俺は優美と一緒に商業エリアに足を踏み入れたのだが……すいません。このゲームなめてました。こんなにユーザーがいるとは全く思っていませんでした。


 びっくりするほどの人の数。視界に写るだけで千では効かないんじゃないだろうか? これ、みんな本当に登録ユーザーなのか? 目抜き通りは長身で黒髪か茶髪のイケメンキャラと同じく美少女キャラで埋め尽くされていた。キャラ設定のときに自動生成されれたキャラが変えても変えても殆ど黒髪だったのは、こういうわけか……と俺は1人で納得した。作成者は俺らが見慣れてる日本の都会の光景を再現したかったに違いない。他人向けキャラの大半が金髪だったりしたら、この景色は違和感ばりばりのものになっていただろう。


「お兄ちゃん、すごい人だよね。これ買い物するだけで結構大変なんじゃないかな?」

「俺、人ごみ嫌いだし、もう帰りたくなってきた」

「駄目だよ。せっかく来たんだから全部買って帰らないと」


 優美も俺と一緒で、最初、人の多さに戸惑っていたが、すぐに用事を思い出したのか俺を連れて、入り口の少し先にあるショッピングモールへの道を急いだ。


 今日が初日の仮想世界での生活だが、優美によるとぼんやりしていてはいけないらしい。時間の経過と共に自動的に減らされてしまう消耗品扱いの物が結構な数で存在していて、一つでも切らしてしまうと、家事能力に欠けるという判定になり、大きく減点されてしまうそうだ。


 優美に言われるままに、ショッピングモール内の店舗を回り、炊事、洗濯、掃除の関連用品、最低限の衣類などの日常生活品を揃えるだけで結構な時間を使ってしまった。ようやく優美が今日の買い物終了宣言をしたときには、俺は半ば以上燃え尽きかけていて、家に戻りたいと繰り返し主張する元気しか残っていなかった。どこに基準があるのかはわからないが、流石に買ったものを持って帰る必要はないのは有難かった。


 とりあえず、商業エリアの人ごみを離れ住居エリアに戻ってくれば、自宅はすぐそこ。と思っていたのだが、家まであと一区画というところで、本日最大の衝撃が俺を待ち受けていたのだった。


「お兄ちゃん、あれ見て!」


 指差した優美の視線の先には、自宅から出て家を眺めるカップルの姿。


 と思いきや、次の瞬間には耳に地鳴りのような重低音が響き始めた。何事が起きたんだと思い身構える俺の目の前で、幾度かの破砕音が鳴り響いたと思った瞬間、カップルが出てきた俺たちの家と同じ形状の復興住宅が地響きと土煙を上げて崩壊した。


 あんぐりと口を開けた俺の前では、カップルの家の境界が植えてあった樹木を引き連れてずるずると拡大する方向に動いたかと思うと、広くなった敷地内に輝く魔方陣が形成され、家族向けと思われる規模の建売り住宅が、光とファンファーレの中、地中から浮かび上がった。


 この間、僅か一分ほど。微笑をかわしたカップルが新しい住居に入っていくのを、俺は呆然と優美は目を輝かせて見送ったのだった。


「近くで見ると迫力あるね。良いなー、優美も早くやりたい」


 どうやら優美は今の現象を少なくとも知識としては知っていたようだ。恐らくはレベルアップに伴うイベントなんだろうが、全く知らなかった俺は度肝を抜かれた。さすが仮想世界、侮れん。


「そ、そうだな。俺たちも負けないようにしないと」


 今の時点じゃ、俺には何が勝ちで何が負けなのかすらさっぱり判らないけどな、と思いながら俺は答えた。とりあえず俺にマニュアルを読むだけの時間をくれ。


「これから、二人で頑張ろうね。お兄ちゃん」


 優美の笑顔を見ながら、俺はこの先次々と遭遇するに違いない出来事に不安を覚えつつ、この世界の中心である優美との我が家を目指すのだった。



<<次回、「妹、甲斐性なしの兄と共に頑張る」に続く>>

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